ある男の回想録44:特別扱い
信じられない思いでバルトザッカーさんを凝視していると、空飛ぶ守役様が俺に突っ込んできた。
「ひっ……!?」
そして手に羽をぶつけられたかと思うと、食べずに手に持っていた神の食べ物を奪いヤマ様のもとに――
「え……?」
「アルバートさんには神の力が皆さんほど作用しなさそうなので違う物にしましょう」
そう言って守役様に何やら話しかけた後、空飛ぶ守役様は神の島に向けて飛び立った。
「あ、あの……」
「1人だけ効果が無いのはよくありませんので」
俺が手に持ったまま食べないのに気がつかれたんだろう。
「い、いえあの……神の食べ物を頂けるのは大変光栄で……」
けして食べたくないわけではなく、髪が急激に伸びた事をどうごまかすか考えていただけで……!
説明したいが、事情を知らない族長達もいるこの場では口に出す事が出来ない。
そして領主様はこちらを睨みつけるのはやめて下さい。わざとじゃないんです……。
じっと俯きながら、カセルの能天気な褒美予想を聞き流しながら待っていると、空飛ぶ守役様が戻ってこられたのが族長達のざわめく様子でわかった。
「これを受け取って下さい。肌身離さず持っていた方が良いかもしれませんね」
以前も同じようなお言葉を――と考える間もなく、守役様がこちらに飛んできてくちばしが手に当たる。
「いっ……! え? あ? え!?」
そのままころんと見覚えがありすぎる欠片が手の平に残された。
「初めに皆さんに贈り物として差し上げたものですね」
それは以前賄賂として渡された2つの神の宝石の欠片と同じものだった。
「あ、ありがとうございます……」
どうしたら……。
いつかカセルにも渡すかもとは仰っていたが、カセルではなくまた俺が頂く事になってしまった。
「小さな袋に入れて首飾りとして身に着けても良いかもしれませんね」
どことなく楽しそうな口調のヤマ様。
そこで俺は気がついてしまった。
(ヤマ様に知られている……!)
俺の下手くそな裁縫で小袋を作り、それを紐に縫い合わせ首飾りにして神の宝石をずっと身に着けているのが知られている!
守役様はなんでも知っているのだから当然の結果ではあるのだが改めて指摘されると……。
(ああ~! なんだか恥ずかしい……!)
「すごいな! 俺にも見せてくれよ~」
「おい……!」
「なに怒ってんだよ~」
このカセル……この……!
「皆さん、今日の事は内緒にして下さいね。特別扱いしてしまいましたから」
「かし「もちろんですわ!」
領主様の言葉を水の族長が大声でかき消し領主様にじっと見られているが、興奮している水の族長は気にもしていない。
そしてヤマ様は島にお戻りになられた。
「――アルバート、私にも見せてちょうだい」
「御使い様と守役様は今日も装飾品を優雅にお召しになっていたな、カセル」
「ですね~!」
「神の宝石に傷をつけるのは問題外だな。やはり収納できる首飾りを作るか?」
「バルトザッカー! 戻ったら稽古しようぜ!」
「いいですが、あまり人目につかないようにしないと」
「私ここから泳いで帰るわ!」
……とても騒がしい。
ヤマ様がいなくなった途端とても騒がしい面々に囲まれながら港に戻った。
領主様は俺が頂いた神の宝石をじっと見つめながら無言で俺の傍に立っていたのでとても緊張した。




