第35ページ 父の秘密
「悪かったね、あんな真似をして」
「貴女は時々とんでもないことをしてくれるんですからまったく。頼んだ私も私なんですがね」
「え、えっと?」
モンテ司教とカルラさんはそのままうち―というかモンスターハウスだけど―にやって来た。
僕が客間に案内するとどこからともなくお茶が飛んできた。
それを見た二人は目を丸くした後お茶を口にする。
「美味しいね」
「美味しいですね」
二人とも感心したように頷く。
モンスターハウスはその言葉が嬉しかったようでグモォと一声上げて身体を揺らす。
「うわ!?」
「うわわ」
つまり家が揺れているわけで中にいる僕らもグラグラ揺れる。
気付いたモンスターハウスはすぐに動きを止めグモォと謝ってくる。
カルラさんもモンテ司教も苦笑しちゃってるよ。
「あの、それで一体どういうことだったんでしょうか?」
結局まだ何もわかっていない。
モンスターハウスのお陰でちょっと緊張してた僕も落ち着けた。
そんなことを狙ったわけではないと思うけど感謝だね。
「私が頼んだんです。カルラ殿は今この世界に7人しかいないSSランク冒険者。彼女がケイト君の後ろ盾になってくれればと思いまして」
「今は6人だよ、ロアが引退したからね」
「ロアって…まさか父さん!?」
「なんだい、知らなかったのかい?」
知らなかった。
父さんが強いことは知っていたけどまさかそんなに凄い人たったなんて…
なんで教えてくれなかったんだろう?
…いや、あの人のことだから必要性を感じなかったとかそんなとこだろう。
それに目の前にいるカルラさんも父さんに並ぶ実力者。
いや、僕の感じた通りだとすれば父さんよりも強いんだと思う。
でも後ろ盾って何のことだろう?
「あんた、大層な力を持っているそうだね」
「え!?」
「カルラ殿…」
「言わせな。力を持つ者は持つことの意味を知っておかないといけない。この坊やはまだそこの認識が甘いようだ。いいかい?」
カルラさんが言ってくれたのは前に父さんの話を盗み聞きしたのと同じような内容だった。
でも盗み聞きとは違って懇切丁寧に説明してくれると僕の能力の異常さ、その有用性が嫌でもわかる。
そしてそれが権力者達に欲せられるものだということも。
「あんたは養子とは言え翼敵の息子だ。手を出す馬鹿はほとんどいないだろうが中にはそういう馬鹿もいる」
「高ランクの冒険者を敵に回すような者はそもそも少ないです。彼らは敵に回すより味方にしておいた方がいいに決まっていますからね。高ランク冒険者となればギルドも放置はしませんしなおさらです」
「中でも翼敵は妻を娶る為にディエック家を潰したからね。あの話は有名さ」
「その話詳しく聞きたいです!」
僕が身を乗り出して言うと二人は顔を見合わせたあとカルラさんは面白そうに、トマス司教は呆れたように教えてくれた。
ミレイ母さんの生家は獣大陸の中でも古い名家の一つバッハール家。
狸人の代表とも呼ばれる家で代々特殊な魔法を継承している家系であり、大陸の守護に幾度となくその力をもって活躍してきた。
そのせいもあり次第に冗長、バッハール家以外の者を見下すようになり獣王家ですら軽んじるようになった。
ミレイ母さんの父親は特にその特徴が強く、獣王も放置できなくなっていた頃、父さんが現れた。
正妻の子どもではなく家の風潮に染まっていなかった母さんは、屋敷を抜け出して動物達と戯れていた時父さんと出会う。
恋に落ちた二人は家に結婚の許可を貰いに行くが当然許されることはなく母さんは家に監禁されてしまう。
監禁とは文字通りであり、屋敷の地下に作られていた座敷牢に入れられていたそうだ。
それに怒った父さんは単身屋敷に乗り込み母さんを奪還。
勢いのまま駆け落ちしてバッハール家の追手から逃げ続ける生活を送っていた。
そんな時に世話をしたのが巡礼中にたまたま二人を見つけたモンテ司教だった。
教会にかくまわれた二人に業を煮やしたバッハール家当主は母さんの奪還を大義名分として教会に私兵を差し向けた。
もちろんバッハール家といえど大陸どころか世界中に信奉者のいる創造教を敵に回すことなどできず、あくまで引き渡しの要求に留まるけれど。
そしてやめとけばいいのに母さんが自分たちの手に返ってくることを何故か確信している当主は、返って来た母さんをどうするか教会の前で言い続けた。
その内容までは教えてくれなかったけど、聞くに堪えない話だったそうだ。
ただそこで、父さんは完全にキレた。
教会前で何やら叫んでいた当主を除く私兵の全てを殲滅。
当主を家へと逃げ帰らせた。
この件でモンテ司教も何らかの愉快でない出来事があったらしく獣国に圧力をかけた。
曰く、教会に対してこのような対応をされたが獣国全ての総意とみなしてよいのかどうか。
もちろんそんなわけないのだが、そう言われて黙っていると本当にそうなってしまう。
焦った獣王は直ちに事実確認の名目でバッハール家に監査を入れた。
すると、出るは出るは。
横領や、詐欺まがいの商売、人身売買など。
殺人こそしてないもののよくこれだけやれたなという悪行の数々であったそうだ。
当然当主は極刑、関与した者も全てだ。
バッハール家は取り潰しとなり残っていた親族は方々に散った。
その後、逆恨みで母さんを恨んでいたバッハール家の正妻と後継だった長男とひと悶着あり、バッハール家は事実上壊滅となったそうだ。
いやはや、自業自得の部分が大半とはいえ我が父怖し。




