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とある従魔師の交遊記録  作者: 安芸紅葉
四人目「幼き風の白狼」
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第15ページ 親睦

「まったく、長年薬師をやっておるが魔物を治療させられたのは初めてじゃ」


村へと急ぎ戻った僕らは、その足でネール爺ちゃんの下へ向かった。

最初は、人の薬師に獣を治療させるとは、と何やらぶつぶつ言っていたが、なんやかんやきちんと治療してくれるネール爺さんはいい人だ。


ところで、薬師というのは地球でいうところの内科医といったかんじだ。

外科の方は回復魔法で治るため、神官や治癒師の領分である。


魔法というものが存在する為、魔法で治らない病気などは研究が進んでいないのではあるが、この世界には地球にはない薬草や、素材があることで、高い薬効を持つ薬が存在する。

そのおかげで、病気で亡くなる人もあまりおらず、意外と長生きする人が多い。


遥か昔に伝染病が蔓延した時は、神の奇跡により治ったということもあるらしい。


ただ、薬師であっても薬のことだけ知っていればいいわけではない。というのがネール爺さんの持論であり、この世界では珍しく、魔法を使わない外科手術ができる。

と言っても、切開なんかではなくて、傷口を縫ったり、骨折を固定したり、脱臼を治したりする程度だけど。


ところで、今魔物って言わなかった?


「なんだ、気付いておらんかったのか?この狼は魔物じゃよ。お主は知っておったんじゃろ、ロア」

「もちろんだ。私はケイトも気づいているものだと思っていたのだが…」


まったく気づいてなかった。


言われてみて確認すると、確かに魔物のようだ。

種族名は、「ウインドーウルフ」。


「ウインドーウルフは、その速さこそが脅威な魔物だ。生体になるとランクはBを越え、リーダー格ともなるとAにも匹敵する。こいつはまだ子どもだな」

「え!?」


この狼は、既に普通の狼程度の大きさはある。

これで子どもだというのなら大人はどれほどの大きさになるというのか。


僕が驚いていると、ようやく仔狼は目を開けた。


一瞬ここがどこだかわからなかったようで、キョロキョロと辺りを確認して、僕らの姿に気付き、威嚇の唸りを上げる。


それに対し、ロアさんは咄嗟に警戒態勢を取ったが、ネール爺ちゃんは動じない。

僕は逆に一歩近づいた。


「大丈夫。何もしないよ」


優しく語りかけ、手を伸ばしながらもう一歩。


戸惑うように首を振り、一歩下がる。

僕はそれ以上近づかずに、手を広げて仔狼の行動を待つ。


しばらくの間、この場にいるみんなが動かなかった。

息を潜め、成り行きを見守ってくれている。


仔狼は、数分逡巡してから、僕へ近づいてくる。

手が届くところまできたので、頭から首にかけてを優しく撫でてやると、身を寄せてきた。


「クゥン」

「ふふ、くすぐったいよ」


仔狼のサラサラの毛が、僕の頬を撫でる。

まるで甘えるように、スリスリと顔を擦りつけてくる。


「こりゃたまげたわい。野生の魔物がこうも容易く人に懐くとわ」

「ケイトの従魔師の才能は、超一流なんですよ」

「親バカじゃのぉ」

「事実ですから」


後ろから聞こえてくるこんな会話。

振り向かなくてもやれやれと頭を振っているネール爺ちゃんが見えるようだ。


僕は仔狼と視線を合わせ問いかける。


「お前なんでそんなに傷だらけだったんだ?」

「ガル?ガルルッ!」


問いかけに一度首を傾げ、すぐに暴れ始める。


「ど、どうしたの!?ダメだよ、ジッとしていないと!」


怪我の治療は終わっているが、完治には程遠い。

ここで無理をすればまたすぐに傷が開いてしまうだろう。


それでも、仔狼は暴れるのをやめない。

どうやらどこかへ行こうとしているようだ。


「いったいどこに…」


そこでふと、仔狼は暴れるのをやめて、僕の瞳をジッと見つめてくる。

断固として引く気はないという意思が、そこに見えた。


「わかった」


僕は一つ頷き、仔狼に背を見せる。

それに仔狼は戸惑うようにしていた。


「乗って。僕が連れていく」


仔狼は一人で行く気だったようだが、そんなことさせたくはない。

どう考えても仔狼が行こうとしている場所は危険なところだ。


仔狼は、そんな僕を戸惑うように見ていた。

だから僕が強引に足を持ちおぶる。


この二年で成長したとはいえ、僕の体格と仔狼の大きさは同じくらい。

普通なら背負えるわけではないが、僕の力は何故か普通の人よりもある為、仔狼くらいなら背負える。はずだ。


「よっと、おっとと」


立ち上がると、軽くよろめいていしまったが、どうにか持ち直す。


そのまま部屋から出ようとすると、ロア父さんが前に立ちふさがった。


「父さん…」

「どこへ行く気だ?」

「…」

「よく知りもしない魔物のために危険を冒そうとうする息子を、私がそのまま行かせると思うのか?」

「ごめん…でも行く」


毅然として父さんを見る。

ジーッと視線を合わせ、やがて折れたのは父さんだった。


「はぁ…わかった。私も行く」

「え!?」

「え!?ではない。息子一人行かせられるわけないだろう。ミレイに後で何て言われるか…」


想像してしまったのかぶるっと震える父さん。

それに苦笑して、心の中でありがとうと言う。

なんやかんや父さんは、優しい人なんだ。


僕らは呆れているネール爺ちゃんに礼を言ってから、仔狼と出会ったところまで戻る。


その後、仔狼の指す方向に進んでいくと、大きな気配がいくつも感じられた。


「そんな馬鹿な…」

「あれって…」


そこには大きな二足歩行の豚がいた。

粗末な服を着ている者もいれば、上等そうな鎧を着ている者もいる。


どうやら、集落のようなものを作っているようだった。


その中で一体だけ働かずに座っているのがいた。

一番身なりがよく、この群れのボスだと思う個体。


その個体が座っているのは、今僕がおぶっている仔狼の倍以上の身体があり、しかしその容貌はそっくりな真っ白の狼。


「ガルルル」


仔狼が今まで聞いたどの唸り声よりも低く声を出す。


あれはおそらく、この仔狼の親なんだろう。

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