表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

十六章 墜落



「見つけた」


 蚊の鳴くような声が聞こえた瞬間。目の前の母親の目が、飛び出しそうな程大きく見開かれた。


「何だ、どうし―――ぐっ!!」


 直後起こった御両親の絶叫も、背後から首を絞められる物理的衝撃には敵わない。頚動脈が押さえ込まれ一瞬意識が遠のいた隙に、仰向けで滑らかな床へ転がされた。

「止めろ……!!放せ、大父」

「よくもイスラフィールを殺したな……出来の悪い木偶は、全て廃棄処分だ……」

 百年間理性の無い瞳と目が合い、余りの冷たさに一瞬ゾッとなる。全てが異常な戦場ですら、こんな人間はいなかった。

「彼はあれ以前からずっと死を望んでいた。魂を救うにはああするしか」

「お前は残酷にも心臓に刃を突き立てた!可哀相な天使……見てみろ、僕の掌はあれの溢れ出させた血で真っ赤だ」

 石膏のような冷たく白い手に力を掛けながらボソボソ言う。

「それは幻覚だ!目を覚ませ、彼が死んだのは百年も前」

「人殺しめ!!」

 締める両手を掴み、必死に抵抗する。

「手を下したのはあの二天使も同じで、私は奴等の命令に従っただけだ!咎を受けるべき順序が違う!」

 これは責任転嫁でも何でもない。幾ら駄目上官でも、こんな時ぐらいは責任を取ってもらわなければ割に合わない。

 不健康な細身の何処にそんな力があるのか、一向に振り払えない。――ああ、成程。嵌めている指輪の力の相乗か。道理で腕力に勝るはずなのに抵抗出来ない訳だ。

「放せ!私一人葬った所で彼はもう―――ぐっ!?」

 首の骨がギシギシ厭な音を立てた。このままでは折られる。義体の身には致命傷ではないが、ダメージは相当な物だ。

「黙れ悪魔め!僕が仇を取ってやる……」上の空で呟く。「だからもう一度傍に」

「失礼!」

 一瞬力が緩んだ隙に鳩尾を蹴り、馬乗りにされていた態勢から立ち上がる。咽喉の痛みと熱が酷い。参ったな、明日帰るつもりだったのに……この声ではリサ達に無用な心配を掛けてしまう。


「わあああっっっっ!!」


 酸欠でまだフラついていた首を再び掴まれた。今度は力の限り抵抗し、立ったまま縺れる。

「止めろ!ここで暴れてもし―――!」

「殺してやる!!」

 駄目だ、全く現実の声が聞こえていない。どうにか気絶させて大人しくさせるしかないか。

 揉みくちゃにされて千鳥足のような靴音が、不意に途切れた。「は……?」足元の感覚が―――無かった。


「わあああぁっ!!!」


 落下したと認識した瞬間、痛めた咽喉も忘れて私は叫んだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ