流浪の釣り人 VS 水生の護り人(2)
黒パンツの男: ――私は文明の太公望
>冒頭からの名乗り上げ。視聴者の方々の意表を突いたかもしれませんね。しかし、この人の行動は予測しづらいのでいつもの事だとも言えます。では、お子様も一緒にいつものポーズを見ていきましょう。
黒パンツの男: パァァアーーンツゥ
黒パンツの男は右手の人差し指で天を示す。高く上げた右手は下ろされながら、左肩、右の腰の外へと振られる。振り終わった時には右手は平らに揃えられているぞ。この動きに連動して、突き出される左手。この手は人差し指を突き立てている。
黒パンツの男: イッチョマン!
♪ バン! バン! バン!
>左! 右! 正面! の三連ズーム!! そして――
♪ チャ、チャラッチャラッチャラッチャラッチャッチャー、デケデケドンデケデケドン……
(中略)
♪ パァアンツゥーーー、チャッチャッー、イッチョマ~~ン!♪
>えーと、曲の出だしがちょっとふらついていましたね。久々なので息が合わなかったようです。ええ、この曲はスイッチポンで毎回同じのを流すわけではなくて、生演奏だったのです。……まあ、スイッチポンで済ましている時もありますが、それは予算の都合です。
しかし、なぜ冒頭からパンツイッチョマンの名乗りから始まってしまったのか!? その謎は……まあ謎というか、前回「また来週」と手を振った後一時停止するのを忘れていたから、ちょっと場面が進んじゃっただけなんですよね。
じゃあ、巻き戻して再生すればいいだけなんだけど、「いや、名乗り上げからスタートはつかみ良しだな。このままで行こう」というディレクターの指示の下、演出として試してみました。いかがだったでしょう?
この場面に至る前に流れた会話はまあ二言三言。大したことはありませんので回収せずにそのまま進みましょう。
が、一方できちんと指摘しておかなくてはいけない部分があります。パンツイッチョマンの名乗った「太公望」についてです。そもそもは中国の故事に出てくる軍師の事なのですが、日本では釣り人の別称として良く使われますね。どうしてそういう使われ方をしているのか、については「Webで検索!」してもらうとして、釣り人として捉えた時、おかしな点があることに気が付きませんか?
そう、釣りをしていたのは忝い侍であってパンツイッチョマンではないのです。パンツイッチョマンは「太公望=釣り人」という使用法を良くわかっていない可能性があります。今の彼の立ち位置は、釣りをしている人を見ている人、ですからね。
もしかすると、「望」という字に「見る」という意味がありますから――ほら、「望遠鏡」とかそうですよね――そのあたりを勘違いしているのかもしれません。釣果を待ち望んでいる人、みたいな意味で。お、期待するという意味の「望」とも掛かってきますね。なんだかそれっぽい気にもさせられますが、「太公望≠釣りを見守る人」という意味はありませんから、視聴者の皆様は誤用しないように気を付けてください。
少年A:あ、こいつ、『太公望』の意味、わかってねえや
少年B:そんなことないもん。『パンツイッチョマン』でやってたもん。
>てな具合に、誤用を実践されてしまうと教育現場の先生方やPTAに「誤った情報を伝える有害番組だ」というレッテルを貼られてしまいます。そうなるとまた文科省推薦の道が遠のくので、皆さんも嫌ですよね?
色々言いましたが、パンツイッチョマンが「太公望と言いたかっただけ」という、「これだけ膨らませたのにそりゃねえよ」な展開はありえます。徒労感を覚えないためにも、そのあたりの真実は追及しないでおきましょう。
苦情と言えば、前回の放送後、「『剣先』『水面』で検索してみたら、剣先イカの情報ばっかり出てきた」という声がありました。言われてみれば、そうなりますよね、と思いますね。えーと、だったらどういうワードで検索すべきか――と考えるのが普通の対応なのでしょうが、当番組は普通じゃないのでこうお答えします。秘剣については読み飛ばしてください!
さて、今回はちゃんと一時停止していましたので安心して下さい。ポチっと続きを見てまいりましょう。
ちゃんとパンツイッチョマンが名乗っている間に攻撃を仕掛けるという卑怯な手は採らず、見守っていた忝い侍。再びハの字の構えを取ったパンツイッチョマンに対して――
# ザブザブ
>――おっと、動き出したぞ。パンツイッチョマンへと近寄らずに、川の中を横へ移動する忝い侍。そして、剣の切っ先を下げると水面に浸け――
侍: ぬおっ!
> また跳ね上げた。そして、宙を舞う小さな影。これは、先ほど忝い侍が釣り上げて、パンツイッチョマンが勝手に川へ戻したのと同じお魚ちゃん。
えーと、釣りあげた後に魚を放す方は体験しているかもしれませんが、川や海に戻された魚はすぐに元気よく泳ぐわけではありません。むしろ動きが鈍くなりがちです。ピチピチ跳ねるのに力を使いすぎたせいでしょうか。お魚ちゃんの気待ちはわからないので詳細は不明です。
下手をするとそのままプカ〜と浮かんでしまうことすらあります。
この事態を避けるため、対処法をお伝えしておきます。魚をすぐに放すのではなく、進行方向へ進めながら放すと、エラに酸素が行き渡るから良いらしいですよ。まあ、必ずうまくいくわけではないですが。
ついでに、エラに関してもう一つ雑学を披露しておくと、いわゆるエラはパクパク動いているイメージがありますよね。特に陸上に打ち上げられた魚は苦し気に動かしています。あれはああやって動かすことで水を送り込んで酸素を取り込んでいるのです。だけど進化的に古いタイプの魚はエラをパクパク動かせないので、自分が進まないと呼吸ができないわけです。
サメが死ぬまで泳ぐと言われている所以がここにあります。サメって一部を除いて進化的に古いタイプの体型をしていますからね。
……と言いましたが、進化的に新しい形や古い形って私にはさっぱりわかりません。さっきの情報は最勝寺先生の受け売りだったのです。
最勝寺先生に事前の説明を受けた際、ちゃんと正直に「進化的に新しいか古いかってよくわからないんですけれど、どう見分けるんですか?」と聞きました。そうしたら「どうっていうか、全体的に見ればわかるでしょ? ほら、イリオモテヤマネコなんか完全に古い形してるよね、と見るだけで思うじゃん」と返されたので、「はぁ」と答えておきました。
ここでお伝えしておきたいのは、進化的に体型が新しいか古いかなんてことではありません。そもそも私にはわからない事なので。しかし、皆さんに、特に若い視聴者の方にお伝えしておきたいのは、「はぁ」という言葉の有用性です。
知ったかぶりをして相手に合わせて話を進めるわけではなく、だからといって正直にわからないと重ねて話を停滞させるわけでもない。嘘をつかず、話を進める無難な返答こそ「はぁ」なのです。社会へ出る前にぜひとも身に着けておきたい言葉ですね。
……あ、さっそく「はぁ」で返してくれた視聴者の方もおられましたが、まだ声が小さいので多くの方は身に着いていないのかもしれません。まずは一日一「はぁ」、目指してみましょう。
……で、何の話でしたっけ? ……ああ、忝い侍が小魚を跳ね上げたシーンでしたね。
はい、説明したとおり――説明の後、流れの関係で「はぁ」についても話しちゃいましたが――パンツイッチョマンが放流した魚はヨレヨレの状態だったので、今回も跳ね上げる芸当がすごかったことにはなりません。確かに一瞬で重心を捉えた心眼と正確な剣さばきはお見事ですが、私や皆さんでも魚に竹光を当てること自体は難しくなかったはずです。
パンツイッチョマン(以降、「P1」と称す): イッチョマン・スラップ!
# ピタン
>おっと、打ち上げられた小魚が再び大地へと落ちる前に、パンツイッチョマンの迎撃イッチョマン・スラップが直撃! 小魚は忝い侍の頭上を越えて、遠くへと飛ばされます。
# ぴちょん
>そして、一応着水。向こう岸へ跳ばされたわけではなかったようです。しかし、食らった相手の大半を打ち倒してきたイッチョマン・スラップを小魚ちゃんが食らっては、動きが遅くなるどころかプカーンの絵しか思い浮かびませんが――おっと、意外にも先ほどより元気よく泳ぎ去っていきました。振り返った忝い侍は、獲物を見失ったようです。キョロキョロした後、諦めたようにゆっくりと振り返ります。
……あ、なるほど。今スタッフから指摘がありました。先程のイッチョマン・スラップは、打ち倒す方ではなく気付け型のイッチョマン・スラップではないか、という指摘です。確かに、「パチン」ではなくて「ピタン」でしたね。
しかし、このわかりにくさは、技名をいちいち叫ぶくせに技自体の定義が曖昧なパンツイッチョマンが悪いんですね。考えてみたら、最勝寺先生も話していたら、この人賢いのかバカなのかどっちなんだろう、と思うことはよくありますから、境界線が曖昧なキャラクターが登場しちゃうのはむしろ自然と言えるでしょう。
と、気付け式イッチョマン・スラップについて感心している場合ではありません。忝い侍の目つきは完全にアブナイやつです。
侍: どうやら、そこもとは死にたいと見える。
>昨今の表現規制の波など全く感知していない時代錯誤の侍の一言。これ、放映時にピーとなっているかもしれません。
P1: ふむ。やる気か。しかし、その竹光で私が斬れるかな?
>パンツイッチョマンも素直に謝っておけばいいのに煽り文句を返します。
侍: 斬らずとも、喉を突けばよかろう。
>こういう具体的な発言も控えていただきたいところです。「根性さえあれば銃器は作れる」という表現をしてしまったせいで最勝寺先生も怒られていたはずなのに、これはどういうことだ! ……はい、そうですね。あの人は自作のキャラクターの手綱をとって操れない方ですからね。
P1: なるほど。だが、そう宣言してしまってはこちらも対応がしやすくなるぞ。
>うんうん。確かにこれは説得力があります。パンツイッチョマンなら素早い突きも狙いがわかればイッチョマン・スラップで払いのけられそうですもんね。つまり、無駄な戦いになりうるという沈静化へと誘うセリフですね。頑張れ、パンツイッチョマン。
侍: 一つ、教えておこう。かつて、拙者は医躑躅殿に言われて、ある書をしたためたことがある。
>えーと、医躑躅、いつつじ、と……あ、検索に引っ掛かりました。以前、忝い侍の世話をしていた方ですね。民生委員だそうです。そういう人まで出てくるんですね、この番組。
P1: ほう、何だね?
侍: 確か……り、りえきしょ――
P1: ――履歴書、だな。
>さっと修正するパンツイッチョマン。断定口調なのはちょっと決めつけすぎている気がしますが、おそらく間違っていないでしょう。
侍: そう、そのりえきしょに――
>――だから、「履歴書」ね。パンツイッチョマンは端から訂正しても直らないヤツだと判断したのか、うんうんと頷いて流します。
侍: 特技についてしたためる場所があった。拙者は正直にこう書いた。「人を殺めること」と。
>あっちゃー。また言い放ちましたよ、NGワード。今週は文科省の監察官が視聴していないことを祈りましょう。
侍: もちろん、医躑躅殿には怒られたがな。……喉を突かずとも、いかようにも術はある。
>どの方法も行き着く先は死、なんでしょうね。なんて恐ろしい人なんでしょう。しかし、考えてみれば多くの方が浪漫を感じる幕末ですが、「話が合わない相手を殺す」というとんでもない連中が暴れ回っていた時代でもあります。その基準で現代にやって来られたら、まあそういう考え方のままでも仕方ないですが、実践はしてほしくないですね。
侍: 拙者の夕餉の恨み、晴らさせてもらう。
P1: ん?
>パンツイッチョマンがピクリと肩を動かしたかと思うと、急にハの字の構えを解き、フロントラットスプレッド風の姿勢に戻る。
P1: もしや、さきほどの魚を食べるつもりであったのか?
侍: 然り。
P1: それならそうと言ってくれないと、てっきりキャッチ&リリース修行かと思ったぞ。
>パンツイッチョマンは両手を腰に当てたまま、頭を前に少し下げる。
P1: それは済まなかった。詫びよう。
>意外! 独善的な男ですが謝罪できたんですね。……まあ、その後フロントラットスプレッド風の姿勢に戻ってやっぱりふんぞり返っているように見えるから、エライと褒めるほどではないかな。
♯ ぐぐぅぅぅ~~!
>盛大に鳴る忝い侍の腹の虫。
侍: 謝っても、腹の減りが収まるわけでもなし。
>忝い侍の態度は硬いまま。これは、おそらく腹の虫も怒っているぞ、という抗議の声だったようです。って、なぜかいつも忝い侍のお腹だけ別人格を有しているみたいですね。
P1: なるほど。詫びとして、現実的な品を要求している、というわけだな。
侍: 左様。太古より「目には目を、飯には飯を」というからな。
>わざわざ修正するまでもなく知っている方は多いと思いますが、「目には目を、……歯には歯を」ですね。あ、危なかった。「飯には飯を」がスッと入って来て、本来の「歯が」なかなか思い浮かばなかったです。意外に相性がいいのかもしれません。「飯には飯を」。
P1: いや、仰るとおり。ここは何らかの食事でお返しするのが筋だな。
侍: ならば、米を所望する。
>どうやら話がまとまって来たようです。忝い侍はまだ竹光を構えたままですが、立ち上っていた殺気は収まってきた気がします。
P1: うむ。しかし、あいにく私は食べ物を持参してはいない。現金や電子マネーも持ってはいない。無い袖は振れぬ、というやつだな。
>あ、そうでしたね。見たまんま、よくわかることでした。何か物を隠すのは黒パンツしかなく、そこから何か出されても、こちらが困ります。って、忝い侍の殺気が再燃したか!?
侍: ならば、詰め腹を切ってもらわなくてはならぬ――
P1: ――だが、あてがないわけではない。
>間合いを詰めかけた忝い侍がパンツイッチョマンの続く言葉に足を止める。そういえば、二人が出会った時も食事は河川敷に遊びに来ていた幼稚園児のお弁当からもらっていましたね。
侍: 施しか。先日は、動けぬほどの飢餓状態だったゆえ、恥を忍んでそなたに助けを求めたが、元来武士は安易に施しなど受けぬ。
P1: 確かに。武士は食わねど高楊枝、というな。
侍: が、今回施しを受けるのは貴殿で、拙者は正当な償いを受けるだけ。……良かろう。その申し出受けよう。
>決まるとすぐさまくるりと刀を返し収める忝い侍。相変わらず、着物や刀の扱いは手慣れていますね。
# ぐ、ぐぐぐぅぅ~~
>早く飯をよこせと言わんばかりの腹の虫。
P1: では、付いて参られよ。
>フロントラットスプレッド風の姿勢を解くと、くるりと向き直し、すたすたと歩き去るパンツイッチョマン。言わなくても脳内構築されていると思いますが、歩き方も偉そうだぞ。そして、忝い侍もザブザブと川から上がると、パンツイッチョマンの後を歩いていく。
今週はこのまま二人を見送るシーンでおしまいですね。また来週~。
<次回予告>
いつもと変わらぬ平和の裏で
地獄の釜の蓋開く
狙われたるは日本の宝
人の行き来の大動脈
崩壊か 揺らぎ震える 安全神話
次回『冀求の浪人 VS 無頼の通信士』
パンツ洗って、待っときな




