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変革の女王 VS 綺羅星の騎士(3)

>先週は、締りが悪いなど考慮せず、緊急終了してしまい申し訳ありませんでした。しかし、あれは恐怖からの即行動、不可抗力でした。

いやあ、自覚はなかったんですが、私はスタコラッシュ力(りょく)が高いようですね。

ん? 「スタコラッシュ」について疑問符が出ている方がいるようですね。では、説明いたしましょう。スタコラッシュとは人生において重要な行動の一つで、危険を察知したらすぐに逃げ去る様(さま)を示しています。

これの良くない例はホラー系の映画なんかで見られますね。「そこに誰かいるの?」とか言いながら近寄っていくから恐ろしい目に遭う。あれが、危険を察知して即ダッシュで逃げてしまえば――まあホラー映画としては成立しませんね。他にも、宇宙から何かが不時着した、というシーンもスタコラッシュしなければダメなやつです。視聴者の皆様はそんな場面に遭遇しても、呑気にスマホを掲げて近づいたりせず、スタコラッシュしてください。


では、先週の続きから。

大門博士の名前が出てスタコラッシュしましたが、それを避けているだろう花鳥風月(かちょうふうげつ)が未だ現場にいるのだから、我々ももうしばらくは踏みとどまれるだろう、とあの後の会議でまとまりまして、報道スタッフのように我々も危険な現場に留まる事にしました。えらいでしょう? でも、あの花鳥風月(かちょうふうげつ)でさえ嫌がっているんだから、我々が忌避(きひ)しても仕方ないですよね。ね?


花: じきにここへ、大門博士が来ます。


> わかりやすくなるため、週跨(また)ぎはシーンを被せるのが基本ですね。映像作品ではもう少し前から被せるものですが、音声多重(中略)活劇ではなにかと容量が圧迫されがちなので、被せは最小限に済ませます。もし、これでも「あれ? どういうシーンだっけ」と思った視聴者の方は気軽に戻って確かめてみてください。戻るも飛ばすも自由気まま。それが音声多重(略)の長所ですからね。


穴: 大門博士? 大門といえば、あの家電の?


> そうですね。研究所名義で様々なハイテク家具を出しています。それなりに値が張る品が多いのですが、セレブ気分を味わえるからか背伸びして買い求める方は多いようです。


花: ええ。あの人は発明家でもありますが、異能者研究の権威でもありますから。彼が貴女に会うという情報を得られたので、その前に会っておきたいと考えたのです。


穴: ……それって、始末されるということ?


> 何でそうなるんだよ! と言いたいところですが、大門博士ならありえますね。しかし、大門博士と面識のない穴穿(あなあ)きさんがその結論に至るには飛躍があるように感じますね。ここは……あ、そうか。穴穿(あなあ)きさんは異能者だから思考を読み取るのはできないんでしたね。だったら皆さん、わかります? ――あ、すみません。これは視聴者の方々への呼びかけではなく、スタッフへの問いかけです。……ああ、なるほど。花鳥風月(かちょうふうげつ)が「大門博士が来る前(・)」という点からの深読みではないか、と。大門博士が来た後ではなく、敢えて「前」と言及したからには、その前後で何らかの差が生まれているということになりますね。その境目がまさか生死の分かれ目となりうるとは……。あ、でも、これは我々スタッフが思いついただけで真実かどうかは別ですよ。


花: そうならないように願います。


> って、おい――あ、失礼しました。乱暴な言い方をしちゃいましたが、花鳥風月(かちょうふうげつ)も似たような考えだったようですね。それにしてもフェミニストと言われているんだから、もうちょっとフォローするような……いや、穴穿(あなあ)きさん相手じゃ気休めの文句はすぐ見抜かれちゃいますね。


穴: そう。


>穴穿(あなあ)きさんは不確定で緩やかな表現をされたとはいえ死の宣告をこともなげに受け止め、あまつさえ涼しげな笑みを浮かべながら、花鳥風月(かちょうふうげつ)へ優雅に二度手を振ります。花鳥風月(かちょうふうげつ)が立ち去ろうとしていたからお別れの挨拶ですね。それに花鳥風月(かちょうふうげつ)は一瞬顔を歪めた後、いつもの笑みに戻り、こちらも優雅に片腕を大きく横に払うお辞儀をしてから部屋を出ていきます。しかし、我々はカメラの視点を変えられるので、花鳥風月(かちょうふうげつ)が穴穿(あなあ)きさんへ背を向けた後、スッと顔から笑みが消えたことを見ていますよ。無表情に近いのですが、発するオーラが近寄りがたいものがあるようで、部屋の外で待っていたセキュリティ係員のおじさんは敬礼をしようとしてその手を思わず止めてしまいます。が、それは束の間、係員が二度見した時には花鳥風月(かちょうふうげつ)はいつもの笑顔に戻っています。


花: いや、いいですよ。次の面会者が来ますから。


>穴穿(あなあ)きさんを連れ出そうと、部屋に入ろうとした係員を、花鳥風月(かちょうふうげつ)が止めます。そういう連絡を受けていない係員はキョトンとした顔をします。


花: そうだな。お水を二つ用意してあげてくれないかな。うち一つは彼女の好みのものがあればそちらで。もう一つは未開封のペットボトルじゃないと飲まないかもね。


>そういって、花鳥風月(かちょうふうげつ)はこの施設を去っていきます。なお、外には花鳥風月(かちょうふうげつ)用の車が二台あります。二つともセダン型で、色は視聴者の皆様にお任せするとして、一つは当然花鳥風月(かちょうふうげつ)が乗りますが、もう一つは護衛用です。日本最強のヒーローと言われる花鳥風月(かちょうふうげつ)に護衛なんて必要あるのか、と思われる方もいるかもしれませんが、要ります。

多くの場合、詰めかけるファンの整理の役目を受け持ちますが、多数の攻撃者が武装して襲ってきたら花鳥風月(かちょうふうげつ)も危険です。ゴツゴウ・ユニバースのヒーローはその程度の強さです。というか、現代兵器が強すぎるとも言えます。

もちろん、銃の携帯は許可されていませんから護衛の方々は基本的に壁となる覚悟ができています。とはいえ無防備ではなく、鎮圧用の武器と防弾ベスト装備です。

おっと、勘違いしがちなポイントがありましたね。花鳥風月(かちょうふうげつ)は自ら運転しません。高校卒業後、すぐにヒーロー試練を突破して、というか厳密には在学中に試験は突破していましたが、それを公表したのが卒業後ですね。そうした早いタイミングで有名になったので運転免許を持っていないんですよね。広い私有地で運転訓練済みという噂はあります。だから、もし運転手を無力化できても、緊急時には花鳥風月(かちょうふうげつ)が運転して逃げて行けるのだと思います。ある意味、花鳥風月(かちょうふうげつ)もスタコラッシュ力(りょく)をおろそかにしていないんですね。


では、今週はこの辺で――って、早いですか? でも、巷では「一話は三千文字程度でとどめておくべき」と言われているからその基準でいえばちょうどじゃないですか。……ですが、ここで終わっておくと常連の方々に「今週は手抜きだな」と思われます。そう、音声多重(略)は軽やかでスタイリッシュな今風ではなく、もっとねちっこいものなのです。

というわけで、急ぐために敢えて触れなかったポイントについて、改めてお伝えしておきましょう。


花鳥風月(かちょうふうげつ)の来ていたヒーロースーツについてです。

しかし、あいにく、具体的な素材、組成、名称すらこちらは把握できていません。まあ、このあたりは視聴者の皆様もどうでもよいことでしょう。わかっているのはそれが特殊繊維であり、そ衝撃吸収性能に優れ、頑丈で、耐火性能まで備えていることです。そう、いつも名前ばかりのゴツゴウ・ユニバースにおける、珍しいゴツゴウな夢の高性能素材なのです。

しかし、ゴツゴウ・ユニバースは「ヒーローだから特別ね」という理由では独占使用を許してくれません。それなりの理由がなければ、追随する商品がでてしまう世の中です。特に花鳥風月(かちょうふうげつ)のフォロワーたちは、機能性など関係なしに、「花鳥風月(かちょうふうげつ)さんと同じものが欲しい」という欲求で追随しそうですよね。しかし、そうなってはいません。

この理由はまず価格がずば抜けて高いから。もはや衣類というより乗り物レベルに達しています。花鳥風月(かちょうふうげつ)の体型にピッタリフィットしていることからもわかるとおり、特注です。これも価格が高騰している理由でもあります。次に、めちゃくちゃ重い。花鳥風月(かちょうふうげつ)のように全身を覆ったら普通の人は歩けないでしょう。

つまり、素材としてはある意味失敗作です。開発者は、なんとドクター・スカルの異名を持つあの魚図(うおず)博士。つまり、オルヒト製ですね。この素材は、警察の特殊部隊や自衛隊などで一部に利用されています。実は、あの貝積(かいつみ)社長のスーツの一部もこれそのものではないですが関連素材が利用されています。

貝積(かいつみ)社長のスーツで利用されている素材は、防弾性能は低く防刃性能に特化しています。防弾装備は、秘書の添谷(そえたに)さんが持つ鞄(かばん)が――おっと、花鳥風月(かちょうふうげつ)のヒーロースーツから脱線していましたね。

……ふむふむ。視聴者の方から「暑さ寒さの対策はできていないのでは?」という声が届きました。そうですね。普通は、衣服に関して、見栄えと温感調節機能を重視されます。

寒さ対策は単純ですね。単に上からコートを羽織ればいいだけです。上等なダウンコートは本当に暖かいですからね。あの下は全裸でも大丈夫なくらいです。……もちろん試したことはないですよ。そのあたりはノーパン元刑事(デカ)が試しているかもしれません。

暑さ対策は少し工夫が要ります。そもそもあれを着ると暑そうだから、夏向きではないですよね。ですが、そこはスーツ内部に水冷ファイバーが通されており問題ありません。水冷と言いましたが、ファイバー内を通る液体が本当に水かどうかは知りません。この液体は、腰に付けられているバッテリーパックにより温度管理されているみたいです。だから、実は、暑さだけでなく寒さへの対策にも効果を発揮しそうです。

と、まあ、こんなところかな。最勝寺先生が余計な追加データを送ってくる前に終わっておきましょう。では、次回予告の――え、まだ早い? あ、すいません。準備してもらいましたが、もうしばらくお待ちください。……あ、次回予告のおじさんに対してです。


じゃあ、次は視聴者の皆様からの疑問にお答えする方向で……やはり、そう言った途端あがってくるのは花鳥風月(かちょうふうげつ)のハーレム制度についてです。ハーレムという表現が既に偏見というか実態にそぐわない印象がありますが、詳しく知らないとその差も見えてこないから仕方ないところです。

さて、花鳥風月(かちょうふうげつ)の恋人とされる女性たちは、度々桜ちゃんが口にしていたように曜日(デイ)恋人(ガールズ)と呼ばれています。ただし、日曜日は予備日らしく担当がそもそも存在したことがないようです。だから最大七股説は真実ではないのですが、噂なんてそういうものです。土曜日もしばらく欠員状態なので、一部の方は平日(ウィークデイ)恋人(ガールズ)と呼んでいますね。

ちなみに花鳥風月(かちょうふうげつ)本人は彼女たちをレディースと呼んでいます。かつてマイを頭に付けて呼んだところがテレビ放送されて、「お前の所有物か」と大炎上しましたね。以来、公式の場ではマイを付けていないですが、構成員たちはマイレディースと呼んでほしい公言していたので、非公式には今もそう呼んでいると思います。

一般人からの呼び方は、オリジナルであるはずの花鳥風月(かちょうふうげつ) に倣(なら)わず、今も「曜日(デイ)恋人(ガールズ)」から変化がないのは、文化言語学的には興味深いですね。日本人にとってはガールズの方が印象的で言いやすいんでしょう。

この不可思議な制度曜日(デイ)恋人(ガールズ)については、かつてそれに属していた一人の女性の暴露本により、内幕が幾らか明らかになりました。紅(くれない)ヴァイオレットと名乗る――一体何色に彩られたいんだよと思わせる名前ですが――女性は、花鳥風月(かちょうふうげつ)のフォロワーにとっては裏切り者なのですが、皮肉なことに曜日(デイ)恋人(ガールズ)を目指す女性たちにとって、暴露本『茨(いばら)の城』は希少な攻略本(バイブル)として求められました。

|花鳥風月(かちょうふうげつ)側は、その内容は真実でない内容が相当含まれていると主張しました。ここで、「花鳥風月(かちょうふうげつ)側(・)」という表現をしたのは、花鳥風月(かちょうふうげつ)自身がこの件についてノーコメントを貫いているからです。主に事務所が示した姿勢です。紅(くれない)ヴァイオレットも、「これはフィクションです」と言っていました。

それは改めてフィクションだと断られなくても多くの読者が気付く内容でした。だって、曜日(デイ)恋人(ガールズ)を実質クビになった女性が、自身をモデルとした主人公を据え、「実はヒーローとは相思相愛だったが、取り巻きの女性に邪魔をされて泣く泣く別れさせられた」という展開だったので。「どれだけ自分を美化してやがる」という反発を招きつつ、「でも自分だったら、いいかも」という矛盾点を突いて、かなり売れました。

おそらく、紅(くれない)ヴァイオレットがフィクションと称した大きな理由は、曜日(デイ)恋人(ガールズ)になる前に交わした守秘義務の契約があったからです。だけど、フィクションだと主張したところで無駄だったようで、紅(くれない)ヴァイオレットは後に花鳥風月(かちょうふうげつ)側から民事訴訟を起こされています。この訴訟が、実は真実味が高いという憶測を呼びます。

その後、紅(くれない)ヴァイオレットはタレント化するほど有名になりますが、テレビ業界は、花鳥風月(かちょうふうげつ)との折り合いを意識するあまり徐々に手を引いていきます。彼女は暴露系ウェブで変わらず居場所を得ています。『茨(いばら)の城』から売り上げもあり、けっこうな収入を得ていましたが、この暴露本は花鳥風月(かちょうふうげつ)側の一手により大打撃を受けます。

花鳥風月(かちょうふうげつ) 公式の動画チャンネルULALA(うらら)にて、男女平等運動の論客相手に、曜日(デイ)恋人(ガールズ)について冷静に答えている動画が公開されたからでした。必然的に、これまで明らかにされていなかったシステムの内側が幾らか説明されています。

本を買い求めるより手軽ですから、アクセス数はものすごいものになっています。ただし、無料で観られるのは一部のみで、完全版は会員限定。結果、動画チャンネルの定期視聴契約数はかなり増えているようです。

花鳥風月(かちょうふうげつ)の主張がどういう内容なのかは長くなりすぎるので当然カットですが、理屈としてはそれなりに筋が通っているので、ゴツゴウ・ユニバースの日本では同じようなお付き合いの仕方もありなのではないか、という動きが若者の間で広がりつつあります。一対一という形にこだわらず、最初から多対多で付き合えばいいじゃん、という考え方ですね。この変化によって生じる問題については――これも長くなるからカットしましょう。

こういう、本来の筋から離れた背景が重すぎるのが最勝寺先生の特徴ですね。一説では、曜日(デイ)彼女(ガールズ)システムについての動画も公開されていないだけで存在しているのでは、と言われています。興味がある方は外伝としての公開を待ちましょう。ただし、それには私は呼ばれていませんので、私はどっちでもいいです。


よーし、尺は十分ですね。むしろ目標の五千字をオーバーしていますが、まあそれはいつものこと。では、いつもの予告おじさんに登場してもらいましょう!


《次回予告》

夕暮れの 決戦の地は 遊鳥川(ゆうちょうがわ)

水面に流れるは 決着の血か はたまた……

次回、『流浪(るろう)の釣(つ)り人 VS 水生(すいせい)の護(も)り人』


パンツ洗って、待っときな。

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