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混沌迷宮の支配者 難攻不落のダンジョンと最強の魔物軍団  作者: しんこせい
第二部

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Sランク冒険者

あとがきに大切なお知らせがあります!

ぜひ最後までご覧になってください!


 この世界の魔物、そしてその討伐を請け負う冒険者達はE~Sというランクによる投球制度によって明確に強さが分けられている。


 だが不思議なことに、この世界にいる魔物はAランク上位までしかいない。

 ではSランクとは、一体何をすればもらえるようになるランクなのか。


 並の才能を持っている人間がベテランになって得られるのがCランク、街に壊滅的な規模を与える異形を倒せるようになってBランク、そしてAランク下位~中位の魔物を狩ることができるものがAランク冒険者である。


 そう、意外なことにAランク冒険者はAランク上位の魔物を倒すことができない。


 なぜならAランク上位とは、文字通り強さの格の違う化け物達だからである。

 一体出現するだけで国が滅び、戦争を行っている二国が手を取り合って戦い出すような文字通りの怪物達。


 そんな化け物を倒すことができるのは、ただ才能に恵まれ努力をした者ではない。 


 目には目を、歯には歯を、そして……怪物には怪物を。

 理不尽に更なる理不尽をぶつけて倒す。

 そのために生み出された制度こそが、Sランク冒険者制度だ。


 Aランク上位という個体を理不尽に潰すことができるSランク冒険者は、紛れもない英雄だ。

 彼らは何をしても許される。

 たとえ犯罪を犯しても次の日には娑婆に出てくるし、彼らは王や貴族と対等に口を利いても咎められることはない。


 それは彼らが、英雄だからだ。

 他の者達では倒せないAランク上位の魔物を倒すことができるからだ。


 しかしながらいつの時代にも、強者には強者の義務が生じる。

 彼らは怪物であるが故に……怪物を倒さなければならない宿命を抱えているのだ。




 ガイザル帝国ギルド本部の二階、関係者以外が立ち入ることの許されていない執務室において、二人の男達が向かい合っていた。


「――というわけだ。お願いできるかな、イシドロ」


 ドア側から見て右側に座っているのは、六十を越えている禿頭の男だった。

 禿げ上がった頭には巨大な傷跡があり、その身体からは未だその年齢から考えれば有り余るほどの生気が溢れている。


 漏れ出す魔力だけで一般人であれば寒気を感じてしまうほどの力を持つ彼が、現在ガイザル帝国のギルドを取り纏めるギルドマスター達、彼らの代表者を務めているグランドマスターであるノービスである。


「そりゃあ断れないだろ……こんなものまで出されちゃあ」


 そう言いながら渡された紙をペラペラとめくるのは、白髪交じりの金髪を後ろに流してまとめている、一人の男だった。


 年齢は四十ほどだろうか、仕事に脂が乗っている男に特有な自信と自負に満ちた態度を取りながら、ふむふむと渡された資料に目を通している。


 彼が身につけているのは、一見すると地味にも思える色合いをした革鎧だった。


 だがある程度審美眼を持つ人が見れば、彼が身に纏っているものが足に履いている靴下の一つに至るまで、珠玉の逸品であるということがわかるだろう。


 その手に着けている灰色のガントレットは、リヴァイアサンの皮革の中でも厚みのある顎下の革を贅沢に使った逸品。


 そしてその胸当てとグリーブは鱗一枚で城が建つ真竜の鱗をふんだんに使ってでできて逸品ものであり、その指につけられている骨の指輪は削り出したヴァンパイアロードの牙によってできているマジックアイテムだ。


 腰に提げている鞘からは、怪しい光が漏れ出していた。


 それら全ては、一体で国を滅ぼすと言われているAランク上位の魔物達の素材によって作られている。


 どれもが国宝級であるそれらの装備を彼が身につけているというのは、彼がAランク上位の魔物達を狩ってきたという何よりの証明である。


 Aランク上位の魔物を狩ることができる人間としての到達点にして臨界点――Sランク冒険者。


 彼こそが人材豊富である帝国においてもたった一人しかいない現役のSランク冒険者、『雷神』イシドロである。


「しっかし、Aランク上位の魔物達が地上に出てきてお祭り騒ぎとは……なかなかに威勢がいいなぁ」


「こっちからすれば洒落になってないんだ、そういう冗談は控えてくれると助かる」


 旧王国との国境地帯の現状は、以前と百八十度変わってしまっている。


 ラテラント王国はその国名をラテラント聖魔国と改め、自分達が混沌迷宮に従っていることを隠すどころかその関係性が良好であることを公式に表明し始めた。


 魔物と友誼を結ぶということを表立って発言するような国は今まで一つも無かった。


 故に帝国はラテラント王国が魔物に乗っ取られたと声高に表明、王国への領域侵犯は魔物から王国を救出するために行われた、という形を取ることになった(実際の形はどうであるにせよ)。


 当然ながらラテラント聖魔国は自身の領地に侵攻されたことに対し強烈に反発、混沌迷宮の魔物の力を借りる形で進駐していた第三軍団を全滅させた。


 こうして帝国は本来であれば想定しなかった形で、ラテラントとの戦争状態へ突入している。


 といっても、いざ今まで小競り合いし貸していなかった国と本格的な、しかも当初よりはるかに大規模な想定となる戦争をするとなれば準備がかかる。


 現在帝国は国内のゴタゴタをひとまず棚上げにし、戦時体制に移行している最中であった。


「わざわざ俺が出張る必要があることかねぇ……国同士の争いなんだから、シヴァ様とかに任せた方がいいんじゃねぇの?」


 そんな最中、帝国の事情などおかまいなしに普通に女性を囲って遊んでいたイシドロは、グランドマスター直々に呼び出され一つの依頼を受けることになったのだ。

 その依頼の内容とは……。


「混沌迷宮の魔物軍団の殲滅って……いくら俺が最強って言っても、できることとできないことがあるぜ、ノービスさん」


 現在戦争中にあるラテラントを実質的に支配している、混沌迷宮の魔物達の殲滅であった。


 イシドロはこういう面倒で時間をかかる依頼をこなすのがあまり得意ではない。

 目の前にいる強い奴をぶっ殺す、といった単純でわかりやすい依頼の方が彼の好みであった。


「けどまぁ……やるけどよ。拒否って冒険者資格を剥奪されたら、おまんま食い上げちまう」


 Sランク冒険者はどんな横暴を行っても許される権利を持っているが、それ故の義務もある。


 帝国という国がなくなれば同様に消えてしまう特権だからこそ、好き放題やる中でも最低限やらなくてはいけないこともある。


 彼の言葉にうむと頷くと、ノービスは立ち上がりイシドロの肩をバシッと叩いた。


「Sランク冒険者に恥じぬ戦果を期待しているぞ」


「そんなに魔物を減らさなくちゃいけないならあんたも出ればいいだろ、ノービス」


「いや、俺はもう駄目だ。今の力は全盛期の五割も残っておらんからな、むざむざ言っても殺されるだけだろう」


 現在グランドマスターをしているノービスは、イシドロより一世代上の冒険者界隈では知らぬほどのいないほどの有名人だ。


 彼はかつてはイシドロと同じSランク冒険者の男であり……そしてイシドロに冒険者としてのイロハを教えた先輩でもあった。


 あちこちで無体を働きながらもイシドロがライン際ギリギリで踏みとどまってくれているのは、ノービスが若い頃に行った教育の賜物だ。


「そんなに強いのか? Aランク上位がゴロゴロいるっつうのはわかるが……魔物の強さはまちまちだからなぁ」


「現在確認しただけで、Aランク上位であるベヒモスやヴァンパイアロード達が軍団長に付き従っている。Aランク上位を従えるAランク上位……その実力は正直未知数だ」


「……へぇ」


 Aランク上位が持つ強さには様々な種類がある。

 たとえばどれだけ攻撃を受けても死なぬ不死性を持つ個体もいれば、周囲の環境を完全に汚染し近づいただけで殺されるような初見殺しの個体もいる。


 だがSランク冒険者は国からの要請があればそれら全てを、たとえ情報がまったくない魔物であったとしても倒さなければならない。


 それができるが故のSランク冒険者、どんな相手であっても圧倒できるだけの実力がなければ、この看板を背負うことは許されないのだ。


「そんじゃまあ……いつものようにやってきますわ」


 イシドロは帝国が調べ上げた混沌迷宮に関する情報の書かれた資料を、バサリと机の上に投げる。


 彼は自分がこれから戦うことになる相手が王国を一週間で落とした化け物達であることをさして気にした様子もなく、いつも通りに背を曲げながら執務室を後にするのであった……。

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