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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
81/167

2、カイの⬛︎⬛︎

ぱちぱち。

めらめら。ごうごう。


燃えている、燃えていく。

すべてが、この世界のすべてが。今までの自分を作ってきた、小さな世界が。

なす術なくすべて、燃え尽きていく。


その中で、包み込むような声を聞いた。

『ごめんね』

破裂しそうなほど哀しいその声に、自分は何を返せただろう。


自分が出来たことは。

ただ、炎の奥の終焉を睨んで、泣き叫ぶことだった。

誰かの死体を抱きながら。


———


私たちは、空読み塔からなるべく近い所にあった宿をとった。

心に傷を負ったのは、何もエルギオだけじゃない。私も、あの災竜の襲撃がエルギオのせいだなんて、思いたくなかった。


宿では、二部屋とった。私とエルギオとカイの部屋と、ダックさんとペミーの部屋。

宿で出された夕飯を、なるべく明るい話題を出しながら食べ、静かに床に着く。


「……」


寝返りを打って、並んだ寝床の奥を見る。カイを挟んで、私の反対側にエルギオが寝ているはずだ。

ここから見えるカイの背中も、その向こうに見えるエルギオの体も、身じろぎひとつしない。


「…二人とも、おやすみ」


聞こえたかどうか分からないほど小さな声で呟く。うまく言葉が出てこず、そんなことしか言えなかった。

それ以上何かを言うのを諦めて、眠りの坂を降りていく。

夢すら何も、見れなかった。


そして翌日、カイとエルギオが姿を消していた。



「二人とも、見つけた?」


「いや、こちらもだめだ。恐らく、宿の中には居ないだろうな」


「…ム。ペンムっ!」


ダックさんやペミーと宿の外も探してみることにする。

世界最大の島のハーマレーだから、見つけられる可能性は限りなく低いだろうが。


「なんで…突然…」


溢れた自分の声は、もう泣きそうだ。

そう言えば昨日の間、カイはやけに静かだった。気になってはいたが、エルギオのことでそれどころじゃなかった。


「何か用事があったにしろ、エルギオが何も言わずに居なくなるとは思えん。…カイルスに無理矢理、連れ出されたか?」


「ムゥ…」


そう言ったダックさんも、珍しく余裕がなさそうだ。ペミーも不安な声を出す。

カイがエルギオを連れ出したなんて、信じられないけど状況から納得はできた。


(カイは…一体何を…?)


目を瞑って考える。

昨日カイが静かだったのは、きっと何かを考えていたからだ。彼は深く考え出すと、何も話さなくなることがあるから。


話さなくなったのは、昨日のエルギオの能力についての話の後から、だったと思う。

エルギオの能力に、カイは何かを見つけたのかもしれない。

今の所、力が倍増するだけで、災竜に狙われるという欠点しかないのだが…。


「……ぁ」


「…まさか」


私とダックさんの声が被る。

お互いに見合わせ、出た予想があっている可能性が高いのだと悟る。


エルギオが災竜に狙われると仮定すれば、彼といるだけで多くの災竜と会える事になる。

その中には、例えば因縁のある相手だって。


「……故郷の島を滅ぼした、災竜への復讐の為に…?」


「…エルギオを囮にする、つもりか」


エルギオを狙ってくる災竜の中から、彼の故郷フェキシフト島を滅ぼした人を見つけ。

そして、仇を、復讐を。

…唇が乾いていくような感覚になる。


「でもだとしても、一体どこに…」


「ハーマレーの中には、居ないだろうな。災竜を誘い込むのだから、人が多い所でない方が良い。例えば…」


「ペムっ!」


人がいない場所、例えば島跡。

メーレンさんが彼の目的のために空船を運転してくれるとは思えないから、きっと港に止まってた観光船に乗ったんだ。

あそこにあった船で、島跡に行くのはただ一つ。


「…フェキシフト、島跡…」


呟いた私たちは、急いで荷物をまとめ、港に向かった。空読み様や、島主に会うのは今は後だ。

しかし、着いた時には観光船は既に出ていた。

仕方がないので、休んでいたメーレンさんに頼んで、船を出してもらう。


(カイ…っ!)


今エルギオは、自身の力を少なくとも好いているはずはない。多くの災竜被害が、自分の能力が原因かもと分かったのだから。

そんな彼に自分の復讐の片棒を担がさせるのは、いけない事だ。止めなくちゃいけない。


先に行った観光船が見えないか、甲板のヘリで空の先を見据える。

向かう先は、フェキシフト島跡。

この世界最大の災竜被害にあった、かつては軍事力で栄えた場所。


———


燃えていく。

自然が、建物が、人々が、命が。

何もかもが、暴れる災竜によって灰になっていく。


その様子を、自分はどこか他人事のように見ていた。

暴れている災竜を止めなければとは思うのに、体が動かない。


ふと、小さな声が聞こえて視線を下ろす。

そして絶叫した。


「あ…あああああーーっ!」


足元には、いくつかの、死体。

大事な、大事な、旅の仲間たちの、死体。


「ああああああ…っ」


彼らの致命傷は、グロテスクなほどの大きな爪痕。

気づくと視線は高くなっていて。

死体がまるで粒のように小さくなっていて。 


「…ああぁ………」


白い、白い(じぶん)の体毛は、血で染まっていて。

太い、太い(じぶん)の爪には、赤白い肉が挟まっていた。


「…僕の…僕の、せいだ……」


彼らは、自分が、殺したのだ。

ダックさんも、ペミーも、カイも、メルリも。

みんな、みんな、自分のこの爪で引き裂いたのだ。


「僕が…僕が……っ!」


嗚咽と慟哭は行き場もなく空中に霧散する。

きっと、すべてが燃え尽きていくこの世の終わりのような光景も、自分のせいだ。

だって、炎の向こうで暴れる災竜は、自分なのだから。


「ぼく、ぅ…ぁあぁ…」


泣き崩れる自分は、既に小さな子供の体だ。

絶望の果てに自傷を始める自分(災竜)を、自分(ぼく)はどこか、高い視点から無感情で見下ろしていた。




弾かれるように身体を起こしたところで、今までの光景が夢だったのだと悟る。


「ここは…空船…?」


まだ震えている声で呟く。

確か宿で寝ていたはずなのだが、誰かに運ばれでもしたのだろうか。

それに気付かないほど、うなされていたのだろうか。


「……」


今さっきの夢を思い出す。

あれはあり得ない光景だ。自分がみんなを殺すはずない。

けれど、直接手を下さないだけで、自分のせいでみんな死ぬ事だってあるはずだ。

そう、この能力のせいで。


「…やめよう」


昨日、メルリたちに散々元気付けられたではないか。だからもう、能力のことでうじうじなんかしていられない。

首を振って雑念を捨て去り、改めて周りを見回す。

なぜ自分は空船にいるのだろう。


「…お、目が覚めたか」


声した方を振り返る。部屋の扉の向こうから、見知った顔が覗かせている。


「……カイ?」


いつも通りの口調で言葉を出した彼の顔は、しかし暗く歪んでいた。

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