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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
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1、エルギオの『力』

メーレンさんが操縦する私たちの空船は、ハーマレー島へ向かっている。

その道中で、ケイオール島に来るまでと同じく、各々時間を潰した。


ペミーは、耳を武器にするメムリット族の戦い方…耳拳(じけん)、と呼ぶらしい…の練習。

エルギオは、アドルオさんとの特訓から自身の能力を開花させようしている。


ダックさんは、部屋だったり甲板だったりで、アドルオさんの古文書を解読している。

カイはペミーの練習相手をしている。

…そんな中、私は小さな焦りを感じていた。


みんなで情報を共有した結果、色々わかったことがある。

それは、聖痕が人に『奇跡』を与えていると言うこと。実際、ダックさんとペミーは『奇跡』を得ている。


エルギオは元々竜の力を持っているし、カイだって剣術ではかなりの腕前だ。

私だけが、聖女という肩書きのまま、役に立つ力もないのだ。


「そう焦らなくてもいい。聖女という肩書きだけでも、救われる人はいるのだからな」


相談したダックさんはそう言っていたけれど、それでも焦りは消えなかった。



数日して、空船はハーマレー島に到着した。鎮魂祭の時の傷跡はまだいくらか残っていたが、それでも港は活気を取り戻していた。


数ヶ月前に災竜被害に遭ったムロリメロ島行き、故郷のネイケシア島行き、フェキシフト島跡行きなど、多くの観光船が停まっている。


「それで、どっちの島主から行くの?ヒラさん?ローラさん?」


「うーん…なるべく、どっちが先とかしたくないんだけど…」


「空読みの使徒に話すのはどうだろうか。それで、二人の島主を空読み塔に呼んでもらおう」


私とエルギオの疑問に、ダックさんが答えてくれる。

それで、二人の島主と合流して、空読み塔の一室を借りて報告と次の行き先を決めることになった。


「聖痕はあと一つ…だね」


行きすがら、エルギオが不意に呟いた。


「うん…」


誰ともなく、それに頷いた。

この旅は、最初は聖痕を得ることと災竜を倒していくことが目的だった。

けれどいつしか、災竜となったドラメル族たちを救いたいに変わって。

けれども救えず、最初の目的だけが達成されている。


「仕方あるまい。私たちは、君たち一族について、あまりにも無知だった」


「ペムーゥ」


その事を憂いたエルギオの様子に、ダックさんが助け舟を出し、今まで通りに戻ったペミーが同意する。

それを聞いたエルギオの瞳から、少しだけ暗いものが晴れたように見えた。


「僕…過去のことを知りたくなった。『大災害』…同族が狂った時、何が起こっていたのか知りたい」


エルギオの言葉に、私もハッとして続く。


「それは…私もそうかも。災竜のことを深く知っていけば、もしかしたら災竜を滅ぼさなくても…」


言いかけたところで、口をつぐむ。世界には、数えきれないほどの災竜被害者がいる。

彼らを救うのが、自分の役割でもあるのだ。


「…それは置いといて。災竜について、エルギオに言い忘れていたことがあった」


思い出したように、ダックさんが言い出した。

エルギオが不思議そうに首を傾げる。


「…アドルオさんの手記だ。向こうにいた時に大まかに解析はできていたのだが、言わなかった。正確な情報では無かったのでな」


空気が張り詰める。

アドルオさんからもたらされた、はるか昔の手記。

内容の概要だけなら、私も向こうで聞いている。だが、詳しい内容までは知らない。


「それが、この島に着く直前、ようやく細かなところまで分析できた。翻訳に粗はあるし、意味が取りづらい所もあるがな」


そう言いながら、ダックさんは懐から革袋に包んだ古紙を取り出した。

近くの木の下に歩を止めて、集まってそれを広げる。


「うわあぁ…ぜんっぜん読めねー」


カイが顔をしかめる。

ダックさんは手袋をはめて、ゆっくりと古代文字で書かれた文を、指で追い出した。


「この古文書には、こう書いてある———」



『島に理性の戻っていない同族が襲撃に来たので、追い払った。まったく、彼らと私の違いは何なのだろうか』


『…一つ、考察してみたのでこれに書き記しておく』


『恐らく、理性のない同胞は強さを求めているのだ。一族の中での最強、つまり族長の家系に受け継がれる、最強の能力を得ようとしているのだ』


『…自身のあらゆる力を倍増させる、「王の本領」の聖痕を』



しばらくの間、誰も何も言えなかった。

やがて、内容を咀嚼できたカイから口が開く。


「じゃあつまり…理性のない災竜は、『王の本領』っつう族長の聖痕を、取ろうとしてたってことか?」


「そうだ、と思う。つまり彼らは、この世界のどこかにいるエライル氏を求めているということに、なるのだろう」


エライル・ドラメル。エルギオの父。

ドラメル族が狂い、『大災害』を起こす元凶になった、そもそもの原因。


「『王の本領』…力が倍増って書かれてるけど、エルギオはエライルが使っているとことか、みたこと……エルギオ?」


言いかけて、彼の異変に気づく。

呆然としたまま、宙を見つめている。不安の影が、胸を満たす。


「力が、倍増……じゃあ、あれは……」


「エルギオ……まさか」


察したダックさんが、エルギオに問い詰める。少しの逡巡の後、エルギオはポツリと話し出した。


「……ギルギを殺した時も、アルガイアを倒した時も……自分の力が倍になったような気がしたんだ。気のせいだと、思ってたんだけど……」


それは気のせいじゃ無かったんだと、震える声でエルギオが呟く。

それはつまり、『王の本領』は、エライルからエルギオに継承されていたということだ。


そして、アドルオさんは、親が死なない限り能力の遺伝は起きないと言っていた。

つまり、能力が継承されていたということは。


「エライルは……もう、生きていない?」


辿り着いた結論を、呆然と口に出す。

言いながら、気付かぬ間に彼の手を握っていた。…握っているのに、その手が冷たく感じる。


「…それだけではない。理性のない災竜は、『王の本領』を狙うのだろう。それはつまり…」


現実は、冷たいだけでは、終わってくれない。

逃げたくなるような真実を、ダックさんが言ってくれた。



「…理性のなかった今までの災竜は、エルギオ…君を狙っていた事になる」



エライルがいつ死に、いつエルギオに聖痕が受け継がれたか分からない。

けれどもしも。もしも最初からそ(・)う(・)だったのであれば。


ムロリメロ島を襲った名の知らぬ災竜も。

ケイオール島を襲ったアルガイアも。


エルギオを目当てに、島や人々を襲っていた事になるわけで。



「…じゃあ、あれは…僕が……僕の、せいで……?」


それらの事を察してしまったエルギオが、声ごと震え出す。

私は思わず、彼の手をぎゅっと握って叫んでいた。


「エルギオの、せいじゃないよ。知らなかったんだから…仕方、ないでしょ!」


「……でも…」


「すまない。言おうか悩んだのだが、君が災竜のことを知りたいと…」


「ダックさん…」


責任を感じたダックさんに、エルギオは小さく首を振る。まるで、全部自分が悪いかのように。

私はそれが嫌で、彼の両手をぐっと掴んだ。


「ペム、ペム!」


足元から、ペミーもエルギオを元気付ける。彼はどこまで行っても、自分たちの味方になってくれる。


「……うん、分かった。みんな、元気づけてくれてありがと」


小さく俯いていたエルギオは、少しだけ元気を取り戻して頷いた。


「…今日は、空読み塔に行くのはよそう。どこかで宿を取って、ゆっくり考える時間が要る」


まだ責任を感じているのか、ダックさんがそう切り出す。反対する意味はないので、私たちはそれに従って足先を変えた。


ムロリメロ島被害と、アドルオの死。

間接的ではあれ、その原因が自分だったのかもしれないと打ちのめされるエルギオ。

その気持ちが痛いほど分かるから、彼を支えながら私たちは宿を目指した。


だから、一番後ろから無言でついてくるカイが何を考えていたのか、知る由もなかったのだ。

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