【人間】就任式[シルティア・メリーカ・ルセル]
その日、エルフ界の首都ルーエルシオンにて新女王ポリーニの就任式が行われた
この就任式には新女王の姿を一目見ようと各地にある里のエルフ達が集まってきて式典会場は多くのエルフ達で溢れかえっている
大多数のエルフは粛々と式の観覧に臨んだが、その中でお祭り騒ぎ的にうるさく騒ぐ一団があってエルフ達からは顰蹙を買っていた
騒いでいるのはハーフエルフと呼ばれるエルフ達である
人間とエルフの混血である人間エルフはまさにお祭り騒ぎ的に道中で大声で喋り動きも極めて不良を極めた
小人とエルフの混血であるリトルエルフ達は街路で歩きながらお菓子を食べ、ぺちゃぺちゃとお喋りしその食べかすをこぼし掃除もしない
妖精エルフや海エルフも同じく所かまわずお喋りに興じていて非常にうるさい
唯一静かにしているのは水精霊エルフぐらいなものだ
そんな状態が式の始まる一週間前から始まりハーフエルフのマナーの悪さに森エルフからは・・・特に女性エルフ達からは非難の目を向けられ、式運営やハーフエルフの各リーダー等にクレームがかなりの数寄せられた
それを受け、運営の核を担う上位エルフ達はそれへの対応に追われ頭を抱える
そんな中、元女王メリーカだけはハーフエルフ達のお祭り騒ぎ的な活気に1人大笑いしていた
その前日、ルービアンカ地方にあるアピス湖にてノートンとシルティアはキラキラと光るアピスの湖面を見ながら話をしていた
34年前のメリーカ就任式の時に2人はここで出会った
「懐かしいわね」
「・・・ん、だね」
「ん?、もしかして忘れてる?」
「そんな訳ないよ、あの時に見た白の竜の姿は今でもハッキリと思い出すよ」
「そう?」
「まぁ、最初湖で見た時は怖かったけどね」
「あー、怖がってたわね」
「見つかったら食べられるんじゃないかと本気で思った」
「あはは」
「でもゴブリンを追い払った時のシルティアはカッコ良かった」
「そうね・・・そう言ってたわね」
シルティアは少し俯き当時の事を一つ一つ頭に思い浮かべた
「ゴブリンの洞窟は今でもあるの?」
「あー、洞窟はあるけどゴブリンはもういなくなってるよ」
「あの後、確かお義父さん達が見に行ったんだっけ?」
「ああ、結局何でゴブリンが居たのかどこに行ったのかは分からず仕舞いだけど」
「行ってみる?」
「え?、今から?」
「そう、ダメ?」
「分かった、行こう」
「やったー!!」
シルティアは手を叩いて喜んだ
そこから洞窟まではすぐだった
小さな頃に来た記憶では少し遠くに感じたものだが、大人になって来てみるとまったく時間は掛からなかった
「こんなに近かったんだ」
「そうだよ、あ・・・でも子供の頃はまだ遠くに感じたな」
「でしょ?、絶対そうだよね」
2人はそう言いながら洞窟に入る
「こんなに暗かったっけ?」
シルティアの問いにノートンは答えた
「暗さは変わってないけど・・・」
「ないけど?」
「こんなに狭かったっけ?」
ノートンの言葉にシルティアは笑んだ
「背が伸びたもんね」
「あー、かな・・・子供の頃は天井高く感じたのに」
「そうねぇ」
笑いながら2人は奥に進む
やがて少し開けた場所に出た
「あ、ここよ!」
シルティアが手を叩く
「え・・・ここだったっけ?」
「そうよ、だってあれ!」
シルティアの指差す方にはかつてゴブリン達が使っていた生活道具類が土や埃を被って散乱していた
「あー・・・ここなんだぁ」
「そうよー、34年ぶりね」
「34年かぁ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
2人は懐かしみながら暫く無言で周囲を見渡す
ややあってシルティアが口を開いた
「奥がまだあるんだよね」
「あー、みたいだな」
ゴブリンが逃げていった奥に続く道を見ながらノートンは言う
「あの後、父や他のエルフ達がゴブリン討伐の為に更に奥に進んだんだけど行っても行っても洞窟は続いていて、結局諦めて帰ってきたって」
「へー・・・そっか、本当にどこまで続いているんだろうねー」
「地の底の地獄まで~」
「あはは」
ノートンの冗談に笑うシルティア
「じゃあ帰ろっか」
「あー、だな」
そして2人は思い出のある洞窟を後にした
「ハーフエルフのマナーの悪さは群を抜いています」
式の執行委員長にクレームについて報告を受けたポリーニは頭を抱えた
その予想外なクレームの山にどう対処すべきか・・・頭が痛い
「まったくうまく行きませんね」
苛つきながら言うポリーニに傍にいたメリーカが言った
「ポリーニ、ハーフエルフ達は祭り気分で単にはしゃいているだけだ、大目に見てやるのが良かろう」
「そうですが・・・」
「クレーム内容を見れば大した内容でもない、森の女共は目くじらを立て過ぎだ」
「・・・年々対立を深めていますからね」
「その問題の責任の一端は私にあるが・・・まぁ、お前は新女王としてドンと構えておれば良い」
「はい」
森エルフの女達とハーフエルフの女達の対立
それは激化しつつある
対立と言っても森エルフの女達が一方的に非難している事が多いが
問題は何かと言うとウッドエルフの女達の未婚問題である
ハーフエルフの女達のエルフ界への流入によってウッドエルフの男性とハーフエルフの女性との結婚が激増した
これによって結婚相手が激減したウッドエルフの女性達の未婚率が増加
面白くないのはウッドエルフの女性達である
最近では純血種を残していくためハーフエルフ結婚規制運動まで一部で行われるほどウッドエルフの女達とハーフエルフの女達の仲は険悪になっていた
メリーカ曰わく恋愛努力が足りないだけと言い切っていたが、そうも言っていられないほど純血種の出生率が年々減り続けている
ポリーニはそんな今までに無かった難しい問題に取り組んでいかなくてはならない
これは本当に頭が痛くなる
「はぁー・・・」
ため息を吐くポリーニ
「女王様、本当に私で務まるでしょうか・・・」
それを聞きメリーカは笑む
「やっていれば慣れる、それに私はもう女王ではない」
「いえ、明日の就任式まではメリーカ様が女王であらせられます」
「ふむ・・・」
そう言うとメリーカは少し昔を思い出した
「私の時は色々と大変だったな・・・」
先代女王が亡くなった時、次の女王が選出される際に相当揉めた
論点はやはりハーフエルフのシティ建設及び移民事業を継続すべきかどうかの話だ
先先代女王から始まったハーフエルフ受け入れ事業は一応何とか進んではいたが決して順調とはいっていない
それにハーフエルフを蔑視する風潮は根強く、特に上位エルフは大多数が反対を占めていた
次の女王をどうするか…先代・先先代の路線でいくのか、それとも再びハーフエルフをエルフ界から閉め出すか
大々的に議論され、次なる女王の選出は難航を極めた
候補者は色々挙がっていたが、そこに女王の側近でありハーフエルフ保護局の役員として動いていたメリーカの名前は一切入っていない
「私は候補にすら挙がっていなくてな」
苦笑するメリーカにポリーニは驚いた
「女王様の選出時に揉めたとはお聞きしましたが、候補者にすら挙がっていなかったのは今初めて知りました」
「素行が不良な者を女王になど誰も推さんよ」
「それは・・・」
確かにメリーカは通常のエルフの常識からすればかなり外れているだろう
しかしメリーカの女王時代に生まれ、その治世下で育ったポリーニのような若い世代のエルフ達に取っては女王とはメリーカの事であり、その通常のエルフとは違った存在は憧れであり、カリスマであるのだ
しかし当時はメリーカのような異質なエルフは疎まれ、女王位などとんでもないと考えられていた
もっとも、普通に考えれば当然ではある
誰も素行不良な者を上に置きたいとは思わない
しかしハーフエルフ移民の肯定派、否定派の対立と激論が過熱し候補として挙げられていた者達が次々と辞退を表明する事態に発展
これは当然の事で、女王に就任すればハーフエルフ問題に対処せねばならす、ハーフエルフを肯定すれば否定派に激しく非難され、否定すれば肯定派から先代・先先代のやってきた事を破壊しハーフエルフを差別する者として非難されるのは目に見えている
結局、誰もなり手がいない状態になって漸くメリーカの名前が挙がったのだ
「まぁ、それに比べれば今はまだマシだな」
メリーカはポリーニを見て言う
新たな問題はあるにせよ今回の女王就任に関しては緩やかに行われる
かつての女王選出による一連の大混乱を知ってるエルフ達なら今回の就任の・・・一部クレーム問題はあるにせよ穏やかに行われる事に安堵している筈だ
「宜しく頼むぞ、女王様」
メリーカはポリーニの肩をポンと叩く
「はい!!」
式は明日だが、ポリーニはそれによりメリーカから女王位を事実上渡された
「うわ~、すごい数だな」
式を見るため来たエルフやハーフエルフ達の余りの数にルセルは驚く
「そうですね~」
ルセルの隣でミーナが言う
就任式の3日前に着くようルーネメシスを出発したルセルとミーナは地上からルーエルシオンに着いた
竜化して空から飛んでくれば早いが、何やら味気ないので歩く事にした
空もいいが地上を色々見ながら歩くのもそれはそれで楽しいものだ
ちなみにこの2年でミーナの二足歩行も随分上手になり、今や遠方にも徒歩で行けるまでになっている
そしてルーエルシオンに着いたルセルとミーナはルーエルシオンを見て回り、そして式の前日になった
「ガルボさん達も来ておられる筈ですが・・・」
「あっ、そうだけど、これじゃどこにいるか分からないね」
この式にはガルボやポピーラも来ている
しかし余りにもエルフが多すぎて探しようがない
「お義母様やお義父様は夕方頃に此方に来ると言われていました」
「あー、だね、ラピス湖には・・・」
その時ルセルは後ろから肩をポンポンと叩かれた
「え?」
ルセルが振り向くと女性のエルフが嬉しそうに立っている
「え~と・・・」
見た顔だし知ってる顔だ
しかし咄嗟には出てこない
「ルセル、久し振りね」
「ん・・・あー、久し振り」
その反応に女性は"ん?"、とした表情になる
「もしかして忘れちゃった?」
「えー・・・いやいや、覚えてるよ!!」
「本当かなー?」
「あれだよ、・・・そう人間界の!!」
「そうそう」
「えっと・・・うー・・・あ、そうだ!!、アダージュだ!!」
「正解~!」
「うん、本当に久し振りだね、今はルーヒューマンシティで暮らしているんだよね?」
「そうよ、ん、其方の女性は?」
「あ、こっちはミーナ」
ルセルに紹介されてミーナは頭を下げる
「ああ、貴女がミーナさんね、話は聞いていたわ」
「はは、今は僕の妻です」
「ん?、そっか、ルセル結婚したんだね!」
「そうです、つい半年ほど前に」
「それはおめでとう~!」
「ありがとうございます」
頭の後ろに手をやり照れるルセル
ミーナは自己紹介し、アダージュも自己紹介し返した
「アダージュさんもご結婚なされているのですね」
ミーナの言葉にアダージュは笑みと同時に照れた表情を浮かべた
「え?、そうなんですか?」
「そう、実は1年程前に結婚してね」
「なんだぁ、そうなんだ、おめでとうございます」
「ありがとう」
「でもよく分かったね、ミーナ」
「ん・・・薬指に指輪をしておられましたから」
「あ、なるほど」
「もしかして後ろにおられる方ですか?」
ミーナは少し離れて腕を組みこちらを見ている男性に気づいていた
「そう、あれが私の夫よ」
ちょいちょいと手を動かして夫を呼ぶアダージュ
アダージュに呼ばれて男はゆっくりと此方に近づいてきた
「あれ?」
ルセルは少し首を捻った
その男性もルセルの知っている顔だ
「あれって・・・」
「そうアリーズンよ」
「あ、やっばりだ、アリーズンさんお久しぶりです」
「よお、久し振り・・・だな」
どこか照れくさそうに言うアリーズン
人間界から一緒にルーヒューマンシティに来たアリーズンとアダージュ
同じ戦いを経験し、同じ冒険者として人間界での話が出来る2人が恋仲になるのに時間は掛からなかった
1年前に結婚し、今はアリーズンの子がお腹にいる
「でもよく僕だと気づきましたね」
「んー、何かルセルは存在感があるから直ぐ気づいたわ」
「え?、そうですか?」
「他のエルフにはない・・・何というか何か目立つ感じの」
「あはは・・・」
そう言うとルセルは頭を掻いた
2年ぶりの思いがけぬ再会
その後ルセルとミーナはアダージュ達と食事をし、明日の就任式の事や人間界での事、そしてエルフ界での話をした
そしてお喋りも終わり、アダージュ達と別れたルセルとミーナは宿に戻った
宿に戻ったミーナはルセルの話を更に聞きたがったのでルセルもさっきアダージュ達と話をしたものも含めてまた話し始めた
ミーナは甘えたでとにかく同じ話でもルセルの声と話を聞きたがる
そうして話をしていた時フトかつて一緒に冒険した2人の顔が浮かんだ
風精霊界に帰ったライトリーと一緒に行ったピェスラナ
その後の音沙汰はない
いやピェスラナはアリスと仲が良いのでアリスとはやりとりをしているかも知れない
「どうしたの?」
ルセルにもたれ掛かり甘えた声で言うミーナ
「いや、ライトリーとピェスラナを思い出してさ」
「あの竜殺士の方と雪国の方?」
「そう、今頃どうしてるのかなー・・・と思って」
「御2人とも仲良くやっておられると良いですね」
「んー、だね」
そう言うとルセルは求めてくるミーナの唇に唇を重ねた




