【魔界】魔界の王女[エリザベート]
魔界の第四都市ダークイナンベル
その一画に広い土地を持ち、この都市を支配している王女がいた
名はエリザベート
魔界の王ゼルギネスと王妃の間に生まれた王女である
その存在は魔王が側室に生ませた王女達とは一線を画する
現在は23歳、アリスとは同じ年に生まれた
「エリザ様、フォルテス参りました」
楕円の椅子に身を横たえているエリザベートにフォルテスが恭しく膝をついて畏まる
「ん・・・」
そう言うとエリザベートは上半身を起こす
ぶるんとその巨乳が大きく揺れた
「それでー?」
フォルテスを見ながらエリザベートはぽーっとした顔で聞いた
「は、闘技場の完成は半年後になりそうかと…」
「どうしてー?」
「は、各方面の作業が遅れているようです」
「・・・・・」
エリザベートは少し考えて言った
「なら現場責任者をクビにしてー
遅れてるなら直接の原因となった者もクビねー」
「は?、いえ・・・はい・・・分かりました、エリザ様」
フォルテスは畏まる
ここで言う闘技場とは、都市の外れに建設中の格闘施設の事だ
拳闘や剣闘が好きなエリザベートが街の活性化と趣味を兼ねて計画し着工させた
ちなみにエリザベートは自分の名前を周りの人間にはエリザと呼ばせている
エリザベートのベートの部分が嫌いだからだ
「フォルテスー、何の為にアナタに闘技場の担当を任せているのー?」
エリザの言葉にフォルテスは縮み上がる思いだ
「は、申し訳ありません」
「まぁいいわ、次ー」
それだけ言うと手で追い払う仕草をする
凡そ血統の高い高貴な者らしくない言葉遣いと振る舞いだが、それがエリザベートである
2年前の人間界での戦争においてターリィナはアリスの前に敗北
最後までターリィナに付き従っていたフォルテスは捕らえられ生き残った
フォルテスを知っているアリスはフォルテスを解放させ、ターリィナを魔界に帰すように言う
それを受けてフォルテスはターリィナの遺体と共に魔界に帰ってきた
主を失ったフォルテスは故郷に帰って細々と暮らし始めたが、エリザベートからの勧誘を受けて再び政界に戻ってきたのだ
追い払われるように退出したフォルテスに変わって、今度は女がエリザの前に来て跪いた
「エリザ様、彼の者は如何でございますか?」
膝をついて此方を見る女にエリザは答える
「なかなか優秀よー」
「なるほど、それは良い事です」
女はにやっと口元を上げる
ターリィナの葬儀の際にその側近だったフォルテスを見たエリザベートは少し気になった
聞けば最後までターリィナに付き従っていたらしい
どうやらターリィナの大のお気に入りだったようで、常に側に置いていたとか
興味を持ったエリザベートは田舎に引っ込んでいたフォルテスを呼び寄せ手元においた
結果的には収穫だったと言える
仕事は忠実にこなしてくれるのだから、ある程度有能と言えるだろう
今回の失点は無いに等しい
「それでパキ、どうー?」
パキと呼ばれた女は顔を引き締めエリザベートに答えた
「はい、やはり王子バルダムの素行の悪さは噂だけではないようです」
「ステロダ卿からのー?」
「はい、ステロダ卿からの情報です」
「・・・・・」
エリザベートは少し考えた
「父の血を強く受け継いだみたいねー」
「・・・かも知れません」
パキはやや緊張した面持ちになった
その話題はパキを警戒させるに十分である
魔王ゼルギネスの話をするのは色々と危険なのだ
ここだけの話とは言え、目の前のエリザベートもまた魔王の娘であり王女だからだ
ちなみにこの話題に上がったた王子バルダムは昔から素行が悪いと影で噂されており、現在も悪評が絶えない
王子としては何十番目の位置にいる為、王位継承権は薄いが頭角は表しつつある
「大体分かったわー、次ー」
手を振りパキを退出させる
入れ替わるように入ってきたのは髪が真っ白な老人である
老人とは言っても腰が曲がっているわけでもなく、その顔はキリッとしている
その老人は軽い足取りでエリザベートの前までやってきた
膝はつかない、そのまま立った格好で両手を後ろに回す
「姫様、イールト参りました」
「・・・元気ねー、爺や」
爺やと呼ばれイールトはニコリと笑む
エリザベートが生まれた時から世話係として付き従っていたイールトはエリザベートの前では膝はつかない
エリザベートもそれを許している
「それでー?」
「はい、ロスイプ殿の件ですが」
「うんー」
「エリザ様のご指示通り護衛を3人付けましたでございます」
「その3人は誰ー?」
「はい、ミナミ、サント、ダシュアの3人でございます」
それを聞きエリザベートは「ん?」となる
名前の中に1人女がいる
ダシュアは女であり、エリザベートの護衛戦士の1人だ
「なぜダシュアー?」
ロスイプの護衛についてはイールトに一任していたが、この人選は果たして正しいのか
「ダシュアが進んで希望してきました、ロスイプ殿のファンであるので」
「あー、そう言えばそうねー」
イールトに一任している以上、文句は言えない
しかしロスイプ氏に取っては護衛は男だけの方が何かと気が楽で良いとも思うが
「姫様」
「なにー?」
「本当に宜しいのですか?」
「何をー?」
「ロスイプ殿に魔界旅行記を書かせて」
「いいんじゃないー?」
「ならば何も申しませんが・・・」
「んー、旅行記は危ないって考えてるー?」
「はい、正直に申せば」
「だよねー」
エリザベートの言葉にイールトは眉をピクリと動かす
イールトの言いたい事は魔界の情報を各方面に知らせてしまうだろう本は色々と危険であると言いたいのだ
世に出たエルフ界旅行記はエルフ界の歴史や地理、風習風俗、それに軍事面に対しても詳しく記載されていた
この資料は魔界側に取っては好都合なのだ
再びエルフ界侵略をする場合の参考資料となる
事実魔界側の軍事に就いている者達はこれらを分析し、侵略時のシミュレーションをしている者達が多い
故に敵に情報が知れてしまうのは危険なのだ
しかしエリザベートは軍事面でエルフ界旅行記には違う側面があるのを見つけていた
エルフの女王メリーカは頭がキレる女だと聞いた
旅行記が書かれた当時は戦争が終わったものの、その傷跡はまだ生々しく残っていた頃である
魔界の再侵攻に向けて備えていた状況下で旅行記を書くのを了承し、ただ書かせて世に出させたとは思えない
考えられるのは2つ
都合の悪い部分については嘘の記載をさせた
もしくは当時は正しかったが、今は違う場合だ
エリザベートの考えでは前者はまず無い
本は事細かく書かれており、軍事面・・・とりわけエルフの装備等においてアンデッド戦争における当時の魔王軍の記録や情報を照合させてみても嘘は書かれていない事が分かる
問題は後者だ
当時はそうだったが、現在は大幅に変わっている場合
エリザベートがメリーカならば戦後直ぐに兵の装備や兵器等の大改革を行うだろう
地理や拠点においても魔王軍再侵攻に備えて色々対処する
そう考えればメリーカが旅行記の執筆にGOサインを出した意図が見えてくる
旅行記が書かれている間にロスイプには知られぬようにこっそり改革を進めていたと言う事だ
つまりは旅行記を魔界に分析させて油断させ、再び戦争になれば魔界の持っている情報とは違う装備や戦法で反撃して大混乱させてくるという作戦であろう
旅行記はその罠を張るための役割も兼ねていたのだ
しかし大半の魔族はその事に気がついてはいないのが現状である
「まぁー、大丈夫じゃない?
多少の情報が漏れた所で魔界は揺るがないわー」
エリザベートの適当な答えにイールトは一瞬微妙な顔をしたが、また元のにこやかな顔に戻った
「はい、次ー」
手で爺や追い払う
長々した話はエリザベートが最も嫌う所だ
イールトと代わりに何やらボロボロの服を着た小男と普通の背の普通の格好をした男が入ってきた
「カッチャンズー、相変わらずボロボロねー」
カッチャンズと呼ばれた小男は突き出した腹をポンポンと叩き声を出す
「エリザ王女、そのおうるわ…っぷ」
舌を噛むカッチャンズ
「・・・舌を噛み賜うなカッチャンズ氏」
そんなカッチャンズの失態に普通の男は澄まし顔で言った
「うるさいザッカーグ」
自分の頬を叩き、カッチャンズは再度チャレンジする
「お麗・・しき御尊顔を拝し恐悦至極・・に存じます」
いかにも使い慣れていないといたどたどしい言葉遣いで深々とお辞儀する小男カッチャンズ
しかし膝はついていない
「久しぶりー、で?」
「はい、我らが探偵団が捜査していますところ」
「ふんふん」
「手掛かりが見つかりません」
「まー、だよねー」
特に期待してはいないが、一応探偵を雇って調べさせてはいたがやはり無理そうだ
何の話かと言うと2年近く前に失踪した魔王の近衛隊の女についてだ
名前はソフィー
しかし失踪したのはソフィーだけでではなく、その母であるジーナもだ
当時は話題になり、捜索隊も結成され失踪事件の捜査も行われていたが最近は下火になっている
それほどまでに何の手掛かりもなかったからだ
しかしエリザベートには何かこの件に対して引っかかるモノを感じ個別に捜査させていた
「引き続きお願いねー」
エリザベートの言葉にカッチャンズは背筋を伸ばす
何の成果も出ていないため、てっきり打ち切りを宣告されるかと思っていたからだ
「あ、はい!!、このカッチャンズ全身全霊をもって・・・」
言い終わらない内にエリザベートは手で出ていけの合図を送った




