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竜怜のハーフ  作者: ナウ
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【魔界】動き出す者[エクシーヌ]

ポフポフ…ポフポフ…


全てが青い光に包まれた宮殿の大広間。

玉座に延びる赤い絨毯を踏みながら入り口から玉座に向かうホイクール


ポフポフ…ポフポフ…


まったくおかしな音のする絨毯だ…と思いながらホイクールは一歩また一歩と玉座に近づいた

近づくにつれ、大広間を埋め尽くす甘い匂いの濃度が高くなっていくのを感じる


まったく…


ホイクールは玉座に座る者に対してある種の親しみを込めて笑んだ


やがて玉座のすぐ傍まで来たホイクールは大広間全体に響くぐらいの声で喋る


「久しぶりですね、エクシーヌ」


「………」


エクシーヌと呼ばれた女は脚を上げ、ワンピースのスカート部分から太ももとスラリとした脚が露わになる


「久しぶりね、ホイクール」


肘掛け部分に肘をつき手を頬に置いてエクシーヌは無表情で答えた


「相変わらず美しいですね」


「ありがとう」


まったくの無表情で言うエクシーヌ


「それで、今日私を呼んだのは何ですか?」


「いよいよアクローメラ家を滅ぼすわ」


「…なるほど、色々と準備が整ったと?」


「そういう事よ」



人間界において魔王軍とスライム軍との戦いから二年

物理戦闘に特化していた魔王軍は液体生物であるスライム軍との戦いに敗北した

というか魔界から撤退命令が出たのにも関わらず、総督ターリィナは主要なスタッフを撤退させ、付いてくる部下達と共に戦闘に踏み切った

無謀ともいえるその戦いでターリィナは戦死した


その遺体はアリスによって丁寧に冷凍保存され、魔界に送られた

葬儀は大々的に行われ、その若すぎる死に国民の多くは涙したが父ゼルギネスの涙を勝ち取る事は出来なかった

ゼルギネスに取ってはターリィナは数いる娘の一人にしか過ぎず、それは愛娘のアリスと比べるべくもない

ゼルギネスの興味はアリスの生存とその出方しか目に入っていないからだ

結局ターリィナはその命を掛けても最後までアリスには勝てなかったと言える



「それで、アクローメラ家の最初の標的は誰ですか?」


ホイクールの質問にエクシーヌは愚問とばかりに鼻で笑った


「勿論ゼルギネスよ」


「いきなり本命ですね」


「当然よ、二年待ったもの」


本来なら二年前に決行しようと思っていたが、当時のエクシーヌにはまだその力は無かった

だからアクローメラ家への攻撃は控えたのだ

その代わり色々と準備をする時間は得た


「アクローメラ家攻撃は良いですが、全滅させるつもりですか?」


「男は全て殺すわ」


「女は?」


「放っておくわ、あくまで男系を絶やす」


「なるほど、しかし」


「しかし…なに?」


「男は全て殺すとの事ですが、一人を除いては…という事でしょう?」


「バレてた?」


ここで初めて無表情だったエクシーヌから笑みがこぼれる


「はい、バレバレです」


「ウィナーは殺さないわ」


「なるほど、でしょうね」


エクシーヌの出生を考えればウィナーは殺さないというのは自然の流れだ


「ちなみに合成魔獣キマイラはどうですか?」


ホイクールはアクローメラ家の話からターリィナが熱を入れていたキマイラの研究に話を変えてみる

エクシーヌは二年前に人間界から帰ってきた技術スタッフをそのまま引き取り、その研究を続けさせているからだ

その目的は自分直属の戦力を得るためである


「研究は順調よ、後で見る?」


「是非」


手を広げ喜びを表現するホイクール

我ながらオーバーアクションではあると思う


「暑いわね」


そう言うとエクシーヌは玉座から立ち上がり着ていたワンピースをゆっくりと脱いだ

下には何も着けておらず、エクシーヌの全身の肌が露わになる


「おや、随分と豪快ですね」


エクシーヌの十九歳の若々しい肌を見ながらホイクールはにやける


「抱いてみる?」


「いえ、止めておきましょう」


きっぱりと言うホイクールにエクシーヌは近づき上目から顔を覗き込んだ


「やはり噂は本当?」


「噂とは?」


「男が好きだってもっぱらの噂よ?」


「ああ…」


ホイクールは苦笑しながらエクシーヌの光る目を見る


「残念ながら私にそんな趣味はありません」


「レトルダとは?」


「ただのビジネスパートナーです」


「そう?、女には興味ない?」


「少なくとも貴女には」


ふふ…と笑いエクシーヌはホイクールから離れ、クルリと一回転してみせた

一瞬で裸からドレス姿に変わる


「面白くないわね」


「貴女に手を出すと黒龍に殺されますからね」


黒龍おとうさまの力は全盛期の半分近くまで落ちてるわ」


「それでも驚異である事に違いありません」


「それで?、貴方は力を貸す気はない?」


「ありません、正直なところ今の貴女ならばアクローメラ家を倒すのは困難ではないでしょう?」


「過大評価し過ぎよ」


「そうでもありませんよ?、貴女の力は二年前とは比べものになりませんし」


ホイクールは人差し指を立てそれをエクシーヌに向ける

ホイクールの話は本当の事で、二年前にエクシーヌが動いていればゼルギネスに返り討ちに合っていたであろう

しかし今やエクシーヌは力を付けた

その強さはホイクールですらまったく歯が立たないであろう程に


「ゾンビ軍の様子はどうですか?」


対魔王軍の為にエクシーヌがリシープに注文したゾンビ軍の話をする


「様子も何も全て冷凍保存してあるから分からないわ」


「臭いが酷いですからね」


「古いわよ、リシープの研究は臭気を抑える研究もしているわ」


ゾンビの研究の第一人者であるリシープは長年の研究により様々なバリエーションのゾンビ作成を可能にした

臭いも二十年前に比べて随分と抑えられている

とはいえ全く臭わない訳ではなく、当時に比べてである

しかし勿論臭いの酷いゾンビも商品としてある

これは臭いにより相手の戦意を喪失させる目的であり、これはこれでかなり有効打になり得る


「ザグーのスケルトン軍は?」


「揃っているわよ、中々良い仕事をするわね、彼」


満足にするエクシーヌにホイクールは腰に手を当てた

二年前の人間界撤退後、ザグーは骸骨職人としてスケルトンの制作に全力を傾けていた

そんなザグーをエクシーヌに紹介したのが他ならぬホイクールである

それはリシープも同様で、ホイクールの紹介だ


二年前にゲートによってここに連れて来られたホイクールとレトルダ

黒龍とエクシーヌから人間界の様子を訊かれ、それに答えたのが始まりだ

以後二年間度々この地に足を運んでいる

退屈な時間を紛らわせるには最適だった事とゼルギネスへの復讐を口にしたエクシーヌの存在と出生に興味が沸いたので多少なりとも関わっている

復讐とは言っても彼女に取っては遊びみたいなモノと感じるが


「じゃあ、キマイラを見せるわ」


そう言うと何もない空間からゲートを出現させるエクシーヌ

簡単に出しているがゲートを単独で出せる者は限られている

それこそ天才級の魔術の使い手でなければ無理だ

ちなみにホイクールは無理である


ゲートを潜ろうとするエクシーヌをホイクールが引き止めた


「そう言えばアレらはどうなっていますか?」


「アレ~?」


わざとらしくエクシーヌが間延びした声を出す


「アレらってな~に?」


「アレらですよ」


「だからアレらってな~に?」


笑みながら聞き返してくるエクシーヌにホイクールは言う


「貴女が捕らえた女達です」


「あ~、あれ~?」


髪を掻きあげ、エクシーヌは人差し指をホイクールに向けた


「元気よ、気になる?」


「はい、アリスにも関わりがある事ですからね」


アリスの名前が出てエクシーヌはピクリと眉を上げた


「アリスお姉様ね、会ったの?」


「半年程前に会いました」


「どうだった?」


「相変わらずですよ?、東の地の支配を広げるのに忙しそうでした」


「そう…」


もじもじとした仕草でエクシーヌは両手の指先を合わせる

エクシーヌに取ってはアリスは憧れの姉である

姉といっても異父姉だが

しかし実際に会った事はない

会った事がないどころかアリスは母が同じの妹がいる事も知らないだろう


「私の事は?」


「いえ、話していませんよ?」


「そう…」


「話した方が良かったですか?」


「いらないわ、いずれ私から会いにいくから」


「そうですか、それでアレらは?」


「見てみる?」


「見ましょう」



エクシーヌと共にゲートに入ったホイクールは薄暗い地下室に来た


「宮殿の地下ですか?」


「そうよ」


そのまま地下室内をエクシーヌの誘導で進む

やがて地下室の奥にたどり着いた

そこには巨大な鉄格子があって、中に一人の女が倒れている


「ジーナ」


エクシーヌが鉄格子越に声をかけた

すると倒れていた女は起き上がり、こちらを見た


「ジーナよ、年は48歳だったかしら?」


ジーナを見るエクシーヌの顔は冷たく氷のようだ


「あ…あ…ああ……」


ジーナはヨタヨタとした足取りでエクシーヌに近づいてきた

そしてガシャガシャと鉄格子を揺する

しかしその目は虚ろだ

とてもまともな状態とは言い難い


二年前に魔王支配領域内から攫ってきた女達がいた

一人はこのジーナ、一人はジーナの娘で魔王近衛兵のソフィー、そしてアリスに似ているとされるSSSのカトゥーラである


ジーナとソフィーの母娘は昔から目を付けていたのを攫ってきたが、カトゥーラの存在について知ったのは奴隷商経由から情報を得たホイクールからだった

アリス似の女を奴隷にしているアクローメラ家のバルダム王子、その家からカトゥーラを誘拐してきた


そして三人を連れ帰ったエクシーヌはジーナとソフィーを別々の地下牢に入れた

そしてそれぞれの地下牢でジーナとソフィーに拷問を行い愉しんでいる

日々の監禁拷問により二人はもはや廃人同然だ


「どのような拷問を?」


「ん~?、聞きたい~?」


エクシーヌの悪魔的笑みにホイクールはそれ以上は聞かない事にした


「いえ、止めておきましょう」


「ん~、残念」


「ソフィーも同じような状態ですか?」


「そうよぉ~」


「何やら悲惨ですね」


「母や姉ヤタシアーナの復讐よ、自業自得だと思わない?」


「まぁ、そうですね」


この状況はジーナ自体の自業自得からきている

しかし娘のソフィーには少しばかり同情はする

とはいえホイクールには何ら関係がない話なので、どうでも良いと言えばどうでも良い


「場所を移すわ」


そう言うとエクシーヌはゲートを出現させ手招きした

そしてそのままゲートに入る

ホイクールもそのままゲートを潜った



「………」


通された場所はやはり巨大な檻のある広い部屋だった


そこには何人かの女達がいた

魔族ではなく人間と魔族のハーフであろう

つまりSSSだ

いや、最近はSSSとは言わない

女奴隷の二世は最近はS2と呼ばれている

これは新たに三世が出てきている事に対しての改称だ

三世はS3と呼ばれる

S3に関してはまだ幼い子達が多いが、既に商品としての売り買いが始まっている


「彼女達は?」


「実験体よ」


「キマイラのですか?」


「そうよ」


「魔獣とS2またはS3との融合、その実験も行っているわ」


「成功したと?」


「そう、今見せるわ、カトゥーラ」


実験体と接していたカトゥーラが小走りでエクシーヌに近づいてくる


「エクシーヌ様、如何なされましたか?」


アリスによく似た顔の女カトゥーラ

かつてはバルダム王子の奴隷だったS2の女だったが、今はエクシーヌの奴隷としてここで使役されている

カトゥーラをさらったのは、アリスを尊敬するエクシーヌが似ている女を手元に置きたかったからだ


「お客様よ、カトゥーラ」


「いらっしゃいませ」


「どうも」


素っ気なくカトゥーラに挨拶をするホイクール

アリスならともかくアリスに似た女に興味はない

そんな事より早くキマイラの進化を見たいのだ

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