【山賊と呼ばれる冒険者達】
「山賊?」
男が受け付けを済まし待合室で待っていると、冒険者の店の壁に山賊退治の壁紙が貼られていた。
近づいて詳しく見てみると、成功報酬は高いが危険度はBクラスでかなり高い。
しかしそれは当たり前の事で山賊退治には戦闘が付きまとい、当然討伐側にも命の危険が伴う。
そもそも山賊が何人いるのか判らないし、腕っぷしの方も分からないでは進んで依頼を受ける者がいるとは思えない。
そんな事を考えていると店の店長が声を掛けてきた。
冒険者の店とは、主に冒険者と呼ばれる日雇いたちの仕事斡旋所だ。
大小様々な仕事依頼をクライアントから貰い、任務遂行に最適だと思われる冒険者達に仕事を振り分け達成させる。
勿論、成功報酬の中から斡旋料を頂く。
ライオネル王国の都に出店している冒険者の店に男が足を運んだのは昨日。
店内に人は殆どおらず、閑散とした風景が室内を覆う。
かつては何百人もの冒険者達が入れ替わり立ち替わり訪れ賑わいを見せていた冒険者の店。
だが現在は閑古鳥が鳴き、何人もいた受け付け嬢も現在は1人にまで人員削減されている。
しかしその1人ですら暇を持て余していた。
「ははは、見ての通り客はいなくてね
冒険者が激減して仕事も殆ど無くなっているんだ」
ポリポリと禿げた・・・もとい剃ってつるつるの頭を掻きながら店長は話を続けた。
「今あるのは薬草採集ぐらいだなぁ
ただ、結構危険な場所にも行かなくちゃならないから危ない任務になっちまうけどな」
それを聞いて男は答えた。
「いや・・仕事の話じゃない
いや・・仕事の話か
何にせよ聞きたい事があるから答えてくれると有り難い」
そう言う男。
そんな男の全身を頭の先からつま先まで注意深く見た店長は男の胸に掛けてある紋章に目を止めた。
ドラゴンとそれを刺し貫いている剣。
「竜殺士か・・・」
店長は頭の中で浮かんだ竜殺士という単語を口には出さず、椅子にドカリと腰を下ろした。
「・・・いいだろう、何が知りたいんだね
答えられる事は答えよう」
目の前の男が情報を得たがっている事を知った店長はやや真面目な顔になり言う。
「おっと、その前に・・・だが
お前さんは人間じゃないな?、何者だい?」
店長にそう切り出された男はニヤリとする。
「流石は色々と冒険者を見てきただけの事はあるなぁ」
そう言うと帽子を脱ぎ、すっぼりと隠していた髪を露わにする。
店長は男の髪を見て驚いた。
「銀髪・・・君は風精霊かい」
噂には聞くがシルフを実際に見るのは店長も今日が初めてだ。
「ああ、名はライトリーってんだ、宜しくな店長!」
ライトリーはニカッと笑顔を見せた。
ピイィィィィィン・・・
微かな振動が起こり、ピックミーは顔を上げる。
アリシュトロの防衛を司る機関の更に特殊な部署に所属するピックミーはその振動を感じ少し唇を噛む。
振動の正体、それは魔族の侵入である。
しかも門を使って乗り込んでこられた。
「まずいな・・」
そう呟くと座っていた椅子から立ち上がり、部下を呼ぶ。
歓迎すべからざる侵入者の来訪
その事をタウナに報告するべく走らせた。
「正直お手上げね」
一週間前に交わされた宿屋兼酒場の二階でのタウナとの会話をルセルは思い出す。
そのタウナの言葉にルセルとマーギランは顔を見合わせた。
「精霊界からの援軍は無し・・・じゃね」
「やはりかの」
マーギランは精霊界の決定をタウナに話したが、案の定の答えが返ってきた事に目を細めた。
「人間界の団結はやはり難しいと?」
「そう、無理
足の引っ張り合いしかしてないからね、少なくとも西方はね
動けるとすれば北方の国々、東方の国々の一部
あと戦力になるのかどうか分からないけど山賊共ね」
「山賊共って?」
変な言葉が飛び出したために怪訝な顔で聞くルセル。
「ああ、えっと・・職を失ったかつての冒険者連中のなれの果てよ
夜盗や盗賊やって生き長らえている人間達だけど、各地にいる連中をかき集めれば少しは戦力になるかもね
もっとも、従えばの話だけど」
「へ~」
「ふむ・・・ちなみに魔王軍の構成は?」
マーギランの問いにタウナは答える。
「魔王軍正規兵10000に魔獣1000匹って所ね」
「正規兵というのは人型の魔族じゃな?」
「そう」
「ふむ・・・では魔獣というのは具体的には何じゃ?」
「主にオーガとヘルハウンド、特にオーガは強いわよ」
「オーガ?」
聞き慣れない名前にルセルは尋ねる。
「そう、オーガ
オークよりもデカくて強い怪物
通称人喰いの鬼、肉食で人間達は餌として喰われているわ」
「ん~・・・」
タウナの説明にルセルは唸った。
オークは知っているがオーガは聞いた事がない。
何よりもオークよりも強いとなると・・・。
「ほう!、オーガが魔獣か・・時代は変わったの」
マーギランは可笑しそうに白髭をいじる。
「まぁ・・ヘルハウンドの数が多いから一括りにしてるけれど、魔人って言えば魔人だし怪物と言えば怪物ね」
「オーガの数はどのくらい?」
「200ぐらいと聞いたけど、詳しくは分からない」
「そうなんだ、そう言えば正規兵はどのぐらい強いの?」
「まぁ、人間の兵よりは・・程度かな?」
「なるほどね~、しかし結構な戦力だね
一方此方は大した戦力を持ってないから確かにお手上げかも」
「でしょ?」
タウナは当然とばかりにルセルに言う。
「でも勝算がない戦いでも、覆せたら面白いと思わない?」
その言葉を聞いてルセルとマーギランは苦笑した。
あれから一週間、アリシュトロ城下のタウナが用意した家でルセルとマーギランは人間界や魔王軍についてあれこれ考える日々を送っている。
しかし突如タウナから城に呼び出され、アリシュトロ城に出向いた。
詳しくは分からないが、何やら魔王軍絡みの侵入者が来たらしい。
城に赴いたルセルとマーギランは早口で何か部下達に指示を出していたタウナに近づいた。
「敵がやってきたわよ」
「え!?、魔王軍?」
「多分ね」
「多分?」
「正体は分からないけれどね」
「そうなんだ、何か出来る事は?」
ルセルの言葉にタウナは答える。
「多分魔族よ、しかも強い力を持った
場合によっては戦ってもらう事になるかも?
その時はお願いね、ルセル」
頷くルセルを見ながらタウナはやや険しい顔になる。
気軽にそう言ったが来襲した敵のレベルを考えるに、決して事態は楽観視できない。
「かなり強そうなの?」
「この間話した門からの侵入よ
あれの封印を解けるのは並大抵の術者じゃないわ
戦闘タイプではなかったとしても一定の攻撃魔法は使えるだろうから手強いわよ」
「ん・・分かった」
「ふむ、それにしても侵入者が分かるようになっとるとはな」
マーギランの問いにタウナはニヤッとして答える。
「エルフ界を参考にしたわ」
その言葉に二人は顔を見合わせた。
ビイール城陥落の報を受けてターリィナは銀髪の魔法使いに問う。
「国王は?」
「・・・残念ながら生き残った者はおりません」
フウッ・・・と溜め息をつくとターリィナは指をこめかみに当てる。
「死体は?」
「残念ならが合成魔獣に食い散らかされ誰が誰か判らない状態です」
「キマイラ第四型でもやはり暴走する・・か、こちらの犠牲は?」
「はい、キマイラスタッフ1名と兵士三名が犠牲になりました」
「・・・十分な体制下でも犠牲を強いるか」
「如何致しましょう」
「犠牲になったスタッフや兵士は丁重に葬りなさい
あと、キマイラスタッフには更に研究を続けなさいとね」
「は!」
そう言うと銀髪の魔法使いは退出していく。
一週間前、待っていたキマイラスタッフがようやく到着しターリィナは直ぐにキマイラの三匹をビイール城攻撃に投入した。
噂のキマイラ第四型の戦闘能力を試してみたいのと、どのぐらいのコントロールが可能なのかのテストである。
初期型は全くコントロールがきかず、かつ戦闘能力も無いという不良品であった。
二型は多少のコントロールは可能になったが、戦闘能力は相変わらず乏しいガラクタであった。
三型は多少のコントロールがきくまま、戦闘能力が上昇した
四型はコントロール性を大幅に上げた新型である。
とは言ってもまだまだ不安定であり、とても群で使える代物ではない。
正直オーガの方が遥かに強く集団戦にも対応する。
「ちなみに」
「はい」
ターリィナの言葉に赤毛の魔法使いが返事をした。
「山賊共は殲滅できたのですか?」
その言葉に赤毛の魔法使いは金髪の戦士と顔を見合わせる。
「・・・いえ」
それに答えたのは金髪の戦士。
「各地に散らばり攻撃すれば逃げ出す連中ですので手こずっているそうです」
「・・・国を相手するよりも難儀という事ですか?」
「はい、正直分散されたり土着民の中に混じると見つけ出せません」
「情けないですね、早く殲滅するようにと将軍に伝えなさい」
「は!!」
ターリィナの多少の苛立ちの籠もった声に二人は顔色を変えた。
山賊は度々魔王軍の邪魔をしてくる。
合成魔獣の到着が遅れたのは来る道中、山賊の攻撃にあったからだ。
それ以外にも行軍の邪魔をしたりしてくる。
真っ向から挑んでくる訳ではなく現れては消え現れては消えの繰り返しだ。
それはまるで「赤い戦士」のそれのようでターリィナを苛立たせる。
最初赤い戦士は山賊の一味と考えていたが、どうも違うようだという事で本腰を入れての攻撃はしていない。
が、鬱陶しい事に違いはない。
「さて、ビイールは落ちた」
目下の所、ターリィナが今一番片付けなくてはならない案件はビイールと手を組んでいた小国リゴーシュの始末である。
「ソーニナ国のように大虐殺をするか、それとも・・」
ターリィナの楽しみの一つは虫をいかにいたぶって殺すかという事。
「・・・・・」
こめかみに指を当て目を閉じて考えていたターリィナは、静かに目を開いた。




