【クーシーとゴブリン族】
ゴブリン。
昔から存在する悪戯好きな妖精である。
神々が活躍した時代の末期、緑の神によって創造されたゴブリンは小人と呼ばれた子供の姿を持つ人型の精霊と同じぐらい可愛らしい容姿を持っていた。
違っていたのはリトルがベージュオレンジの肌の色なのに対してゴブリンは薄緑色の肌を持っていた事だ。
神々消滅以後、長い年月の中でリトルは絶滅したがゴブリンは生き残った。
しかしその中でゴブリンは善と悪の二つの種族に大きく別れる事になる。
どのくらい昔の事か?・・・は定かではない。
ゴブリン達は歴史を書き残さない為、二つに別れたその経緯は口伝によって語り継がれている。
ただ、伝えられている話は善と悪側によって違いがあるが。
【ガブリンの口伝】
かつて、とある地域のゴブリンの少年が魔法使いの宝石を盗んだ。
大事な宝石が無くなった事を知り怒った魔法使いだったが、盗んだ犯人が分からない。
ところが別の地域のゴブリン達が魔法使いに告げ口したため、魔法使いは少年と少年が住む地域のゴブリン達の姿を変えてしまった。
大きく姿を変えられてしまった者達はガブリンと呼ばれる事になる。
これがガブリンの祖である。
一方、魔法使いに告げ口した地域のゴブリン達は姿を変えられる事はなくホブゴブリンと呼ばれる事になる。
ガブリンが今日までホブゴブリンと敵対するのは、この時の恨みがあるからだ。
【ホブゴブリンの口伝】
善と悪のゴブリンがいた。
だが悪のゴブリンは悪を成すが故に罰が下る事となる。
悪のゴブリンは世代を経る事に容姿は醜く変わり、かつての面影すらもなくなっていった。
悪のゴブリンは妖魔ガブリンと呼ばれ、魔界の生物が如き姿に成り下がり邪悪に変容していった。
一方、善を成したゴブリンは悪戯ゴブリンと呼ばれ神から愛された姿を留め今日に至る。
ガブリンはホブゴブリンに妬みや恨みの感情を抱き、戦いを挑んでくるのだ。
精霊界の一角。
ゴブリン達が住まう広大な森林地帯がある。
ゴブリン達は国という概念を持たない。
ホブリンやホブゴブはそれぞれ部族ごとに村を作り住んでいる。
ガブリン達はその村の概念も持たず、洞窟に居住していた。
「ファイヤーガブリンか・・・」
精霊番犬はそう呟きガブリンの住まうエリアを駆ける。
ここ最近の話だがホブゴブの村々をガブリンが襲撃し、食料や女を略奪していく事件が多発していた。
クーシーは現在その事件を追ってガブリンのいる地域に足を踏み入れている。
一部説明すると、ホブゴブリンには二種族の種族が存在する。
一つは元々のホブゴブリン種。
そしてガブリンとホブゴブリンのハーフであるハーフ種だ。
長い年月に渡りガブリンとホブゴブリンは争ってきた。
大体はガブリンの略奪目的によるホブゴブリン地域の侵入だが。
さらわれた村の女達はガブリンの子を生む事もしばしばだった。
その生まれた子供達の容姿はガブリンとホブゴブリンの中間ぐらいの容姿を持って誕生し、やがてその種は独自に村を作り始める。
それがホブゴブである。
元々のホブゴブリンはホブリンと呼ばれ、ハーフ種族はホブゴブと呼ばれた。
ホブリンとホブゴブは対ガブリンの同盟を結びそれぞれの生活圏を築いていく事になる。
最近ホブゴブの村々を襲撃しているガブリンは普通のガブリンではなく火ガブリンと名乗り炎の魔法を使うという。
しかしゴブリンには元々魔力はなく、魔法を使う事は出来ない筈だ。
「有り得ないな」
そうクーシーは思う。
ひょっとしたらホブゴブ達の見間違いか勘違いではないかと。
しかし昔からガブリンと争ってきて生態を熟知しているホブゴブ達が見間違うだろうか?。
何よりタダのガブリン相手なら急襲されたとしても十分に戦えるだけの力をホブゴブ達は持っている筈だ。
にも関わらず男達は殺され女達は連れ去られ、食料は奪われるという略奪され放題の状態という事はガブリン側が何かしらの力を得たという事を表している。
いや・・その略奪者達が本当にガブリンであるという証拠はない。
もしかしたらガブリンに似た火の魔法を使う別の何かかも知れない。
しかし、やはりガブリンを熟知しているホブゴブ達が見間違えるとは考えにくい。
「まったく、一体どうなっている!!」
クーシーは唸った。
エルフ界に向かう精霊番猫と別れた後、クーシーはクーシーの集落にいる長老に精霊界の異変についての報告をした。
その翌日、ホブリン達の情報が入ってきた。
炎の魔法を使うガブリン達によってホブゴブの村が次々と襲われ焼き払われているという。
「ガブリンが魔法を使うのか?」
ホブリン達の話に半信半疑の長老だが、【炎の祭典】絡みかも知れないという事で本来なら関与しない事案だがクーシーをゴブリン界に派遣する事にした。
「炎の祭典・・か」
その話はクーシーも知っている。
しかし、まさか自分の代で来るとは思わなかった。
とは言え、本当に炎の祭典かどうかはまだ確定はしていないし、この件がそれと関係あるかどうかも不確かだ。
ちなみに精霊界の巡回警備隊はドワーフ界に炎の巨人が現れ、暴れ回っているとの事で其方に出払っている。
クーシーは盟友である黒犬と白狼、そして白狼の仲間である若い雄狼100頭を連れてゴブリン界に乗り込む事にした。
基本的には群れで生活する狼だが、100頭による大移動は流石に多すぎるし何より移動における体力の消耗が激しすぎるためにそれは無茶苦茶だとも感じられた。
しかし敵の正体と数が不明なため、今回だけ特別に頭である白狼に無理を言って若い衆を引き連れての集団行動を頼む事になったのだ。
カサカサ・・カサ・・
タタ・・タタ・・
闇夜の中、ガブリンの住まう地域の森林地帯を駆ける精霊番犬と黒犬。
ここ数日の探索でガブリン達の住まう洞窟の幾つかを見つけ出す事に成功した。
それぞれ静かに監視していた二頭は明らかに通常のガブリンとは違うガブリン達が行き来する洞窟をその中に発見した。
通常のガブリンとはどことなく違う。
よく見なければ判らない違い。
しかし何がどう違うのかと問われると、肌の色がどことなく赤みがかかっている・・ぐらいか。
ただ、危険な臭いが辺りに強烈に漂う。
犬系の嗅覚は鋭い。
特に精霊界の番犬の異名を持ついクーシーは単なる臭いだけではなく、正邪の臭いも明確に嗅ぎ分ける。
そう、どことなく違うガブリン達の臭いは近づけば近づくほどプンプンと邪悪な臭いを漂わせクーシーの鼻を曲げさせた。
取りあえずその洞窟をクーシーは暫く離れた位置から集中的に監視してみる事にした。
ちなみに他の洞窟は黒犬や旅の道中で合流した人狼達に分散して監視させる。
丸一日監視を続け他の洞窟を見張っていた黒犬達の話を総合した結果、通常とは異なるガブリン達はクーシーの監視していた洞窟以外ではいない感じであった。
しかしそうは言っても、それらがホブゴブの村々を襲っている炎を使うガブリン共だという証拠がない。
しかし証拠は見つかった。
「あれは・・」
次の日の朝、60人近くのホブゴブの女達が全員洞窟から出てきた事だ。
女達は紐で繋がった首輪を付けられガブリン達に引っ張られて、近くの川で牛馬のように体を洗われ再び洞窟に戻っていった。
標的の所在地が分かったクーシーは急遽、黒犬と人狼を呼び集め洞窟を急襲する作戦を練った。
遠くで待機させている白狼達も呼び寄せなくてはならない。
幸いな事にゴブリンの嗅覚は鋭くないため、余程油断していなければ臭いから存在を知られる事はない。
あるとすれば音だ。
草木と体が擦れる音、もしくは足音。
偵察時には土に足跡が付かないように気を配る必要があったが、急襲時には気を遣う必要性はない。
だが、洞窟に接近する際の足音には気を付けなければならない。
その事を黒犬に伝え、白狼の下に遣わす。
攻撃についての問題点は3つ。
一つは洞窟内にいるファイヤーガブリンの数が分からない事。
魔法を使えるとしても、それ程多いとは思えない。
しかし、もし想像する以上にいた場合は相当の苦戦を強いられる事になる。
それと中にいるのはファイヤーガブリンだけとは限らず、通常のガブリンもいた場合は数で不利になる。
何よりガブリンの巣には必ずリーダー格たる長のガブリンがいる。
リーダー格に相応しく通常のガブリンよりは強いのが普通だ
問題なのはこのリーダー格も火の魔法が使えるか否かだ。
普通に考えればファイヤーガブリンのリーダーがファイヤーガブリンではないと考えるのは無理がある。
それを考えた場合、こちら側にも相当の犠牲が出る事は確実だ。
二つ目は洞窟内部の状況が分からない事。
どのぐらいの広さなのか?
どういう構造なのか?
深ければ迷子になり、もたついている間に敵に反撃の時間を与える事になる。
三つ目はホブゴブの女達だ。
基本的には全員救出を兼ねた攻撃だが、ガブリンが人質に取る可能性も十分に有り得る。
その時にどうするか・・・だ。
多少の犠牲はやむなしとしてガブリン殲滅を優先させるのか、それとも人質の救出を優先させるのか。
悩み所ではある。
まぁ・・あれこれと考える事は多い・・。
クーシーは色々考えながら白狼達の到着を待つ事にした。




