【アンデッド戦争終結】
ルーアクシウムにおけるエルフの勝利は近隣の里に瞬く間に知れ渡る。
戦闘終了後、負傷者の手当てや里で破損した箇所の修理が速やかに行われた。
エルフの遺体の回収及び敵の死体の火葬もまた同時進行で行われ、魔王軍の残党が付近に潜んでいないかの探索も始まる。
そして戦闘から二日が過ぎ、エルフの女王率いるエルフ本軍が到着。
被害状況及び死傷者数が女王に報告された。
女王がルーアクシウムに来たその夜、急使が到着。
急使の携えてきた書状に目を通し、女王メリーカは呟いた。
「終わったか・・・」
書状にはダークエルフ軍によってルービアンカが奪還された事が記されていた。
丁度ルーアクシウム戦最中の頃にルービアンカをダークエルフ軍8000が急襲。
ルーアクシウムに戦力を割いていた魔王軍は急襲に対応できず次々と兵は倒れていった。
激しい戦いの末、大将ナーガイアを討ち取り残った魔王軍は魔界へ敗走した・・・との事である。
翌日、戦死者を悼む鎮魂の儀が執り行われエルフ達は喪に服す。
その次の日に、ガルボは女王に呼ばれ城に赴いた。
「お前がガルボか?」
「はい」
女王の面前で片膝を付き恭しく頭を下げ答えるガルボ。
「よいよい、面を上げよ
堅苦しい事は抜きだ」
その女王の言葉にガルボは恐る恐る顔を上げる。
流石のガルボも女王の前では恐ろしく緊張する。
「大剣を持ってスペクターのダグバルドを倒したって?」
好奇の眼差しでガルボを見て問うメリーカ。
「はい、これです」
ガルボはクレイモアを両手に持ち目の前に掲げる。
「ほう・・、それは・・、ルーネメシスにあったクレイモアだな?」
「はい、ルーネメシスにあったクレイモアです」
ガルボの答えに内政長のウィンダムが口を開く。
「それはルーネメシスの宝として里に保管されていた筈だが・・、ルーネメシスの里の長から持ち出す許可は取ったのだろうな?」
「あ・・・その・・・」
ウィンダムの言葉にガルボは言葉を詰まらせる。
「もしや勝手に持ち出した訳ではないだろうな?」
「あの・・・いえ・・・はい・・・」
ガルボは弱々しく答える。
そもそも何故クレイモアを持ってきたのかガルボ自身もよく判っていないからだ。
「これは問題だな
窃盗の罪に当たるぞ、分かっているのか?」
ウィンダムの言葉にただ恐縮するしかないガルボ。
と
「ふ・・・ふふふふふふ・・・」
おもむろに女王が笑いを漏らす。
「面白いなガルボ、剣に導かれたのか?」
女王の言葉にガルボは「はっ」となる。
導かれた・・確かにその言葉はその通りかも知れない。
「はい、確かに導かれたのかも知れません
実はその時の事はよく覚えていないのです」
女王は「ほぉ・・・」と呟く
「真の名剣は持ち主を選ぶと聞く
剣に選ばれし者、端から見れば勝手に持ち出したように見えるので宜しくはないが・・・
しかしそれが結果としてルーアクシウムを救った事に繋がるから面白いな」
「しかし、罪は罪なので私はどんな罰も受けるつもりでございます」
そのガルボの言葉に女王は笑む。
「そうだな、ならばそれについては罰を受けてもらう
それで良いな?、ウィンダム」
女王はウィンダムに向かって言う。
「・・・はっ」
ウィンダムは何か言いた気だったが、その言葉のみでその件は終わらせた。
「心配しなくても形だけだ」
・・・・!?
ガルボの耳元で囁くような女王の声が聞こえ、ガルボは驚いた。
そんなガルボをメリーカは面白がりながら言う。
「それとは別の話だが、今回の活躍に見合った報酬は用意するので楽しみにしていよ」
「・・・いえ、大した活躍などしておりませんので報酬は・・・」
「何を言っておる?、2軍とはいえ敵軍の将を討ち取ったのは手柄だ
しかもスペクターのダグバルドならば尚更だ」
「・・・はぁ」
「遠慮せずに受け取れ、英雄殿にタダ働きさせたとあっては私は歴代の女王に会わせる顔がない」
「・・・はい」
そう女王に言われればガルボも素直に返事するしかない。
「それはそうと、シルティアは元気にしているか?」
「・・・え?」
ガルボは唐突に女王から出た言葉に目を丸くさせる。
「シルティアの事をご存知なのですか?」
「知っているぞ・・・とはいってもシルティアが子供の頃だけれどもな」
「はい、元気にしています」
「そうか、それは良かった」
「あの・・・女王様、なぜ私がシルティアに関わる者と?」
「ん?・・竜の加護を受けし者だろう?、お前は」
「はい、しかし・・・それが判るのですか?」
「無論だ、お前から竜戦士として竜に与えられた力を感じる
オーラと言うのか・・・うっすらともそれが見えるからな」
「竜・・・女王様はシルティアが竜である事をご存知なのですね?」
そこまで話して女王は「おや?」・・・と思う
何か話が噛み合っていない、これは・・・。
「ガルボ、すまないがシルティアの事を詳しく話せ」
女王の言葉にガルボは頷き、出会った時の状況からシルティアが竜である事をついこの間知った事、そして現在シルティアはルーネメシスにいる事を話した。
「ああ、そうか」
メリーカは心の中で苦笑する。
このガルボがシルティアの想い人かと思ったが、違うのだ。
ノートンという青年がそうらしい。
「なる程、なる程」
・・・と一人納得するメリーカと今一会話が掴めないで困惑するガルボ。
「ガルボ、一つ聞いてよいか?」
「はい、何でもお聞き下さい」
「結婚はしているのか?」
「・・・・は?」
これまた唐突な女王の質問にガルボは面食らう。
「いえ・・・しておりません」
「何だ、独身か」
「はい」
「好きな女性はいるのか?」
「いえ・・・おりません」
「ほぅ?、お前のような男を独りにさせておくとはエルフの女たちは見る目がないな」
「あ・・・いえ・・・」
「まぁ、それにしても大剣を手に敵を倒せる者がエルフにいて嬉しく思うぞ」
「いえ、私の力では持ち上げるのが精一杯で振り回せすのは無理です
恐らく竜の力の賜物だと思います」
そのガルボの言葉にメリーカは「ん?」とした表情になる。
「見たところアンデッドを攻撃できる対アンデッド用の魔法と、攻撃魔法を無効化する対攻撃魔法の防御しか掛かっておらんようだが・・・」
「え!?」
女王の言葉にガルボも不思議そうな顔になる。
正直剣を軽々と振り回せたのも竜の力だと思っていたが、どうも違うようだ。
メリーカは少し考え、口を開く。
「或いは、それもまたクレイモアの意志なのかも知れない」
「クレイモアの・・・」
手に持つクレイモアを見るガルボ。
クレイモアは何も語らないが、心なしか重くなった気がする。
それはまるで「ようやく気づいたか」と言われているような・・・そんな気がした。
そのクレイモアを見ながらメリーカはかつての就任式を思い出す。
就任式に招待された竜王家を護衛する竜騎士達。
巨大な大剣を背負い、規則正しく整列するその姿は圧巻であった。
メリーカの大剣や大型の武器好きは実はその時から始まったのだ。
「・・・あい、分かった
今日はもう良い、御苦労であった 下がってゆるりと休むがよいぞ」
もう少しガルボと話をしていたいが、他にも色々とする事があるため何時まででもこうしてはいられない。
「はい、それでは失礼致します」
ガルボは一礼し部屋を退出する。
ガルボがいなくなってからメリーカはウィンダムに話しかけた。
「さてと、牢にいる者と話をするか
名は・・・何だったかな?」
「はい、ゴドウィンという者です」
切り札のフレッシュゴーレムを失ったゴドウィンは戦場から逃げ出す際にアクアエルフのキィー・ン・ルらに見つかり生け捕られ牢に捕虜として入れられた。
メリーカ到着時にメリーカとゴドウィンは対面し最初は噛みついていたゴドウィンだったが、ルービアンカ奪還の報に諦めたのか大人しくなり、色々と口を割ったのだ。
その中でメリーカの目を細めさせたのはエウンジークの王妃や王姉の話である。
ルービアンカに急使を送りそのエウンジークの三人の女の保護を現在ルービアンカを管理しているダークエルフ軍に依頼する。
ダークエルフ急襲時にゴドウィンの部下が三人を運べる筈はなく、戦闘に巻き込まれていなければ必ずルービアンカに居る筈なのだ。
報せは直ぐに来た。
それらしきフレッシュゴーレムの女達を保護しているのでルーアクシウムに送るという報せ。
どうやらダークエルフ側もその存在に困惑していて、どうしたモノかと思案していたようだ。
「人間界の王家の者だ
丁重に出迎え火葬し、永遠の眠りについて頂く」
「納骨はどこに?」
女王の言葉にウィンダムが墓の事について訪ねる。
「ルーエルシオンの聖墓地で良い」
「はっ」
どちらにしてもルービアンカでも大規模な火葬を行う必要がある。
情報ではルービアンカで亡くなったエルフ達の遺体は何故か冷凍保存されて丁寧に保管されているという。
その話もゴドウィンから更に詳しく聞き出さなければならない。
「魔王軍の残党狩りはどうなっている?」
「はっ、近隣の里であるルーミシュールとルーネメシスで小規模な戦闘があったとの報告を受けています
が、どれも鎮圧されたとの事です
後は森林地帯で潜伏していた敵と戦闘に入り、殲滅したと各所から伝達が入ってきております」
「・・・・そうか」
メリーカは目を伏せ、終息に向かう今回の戦争に深呼吸をした。
「よぉ、アルン」
翌日、病院を訪れたガルボは包帯ぐるぐる巻きでベッドに寝かされているアルンを見舞った。
「あ!・・・ガルボさん!!、恥ずかしながらこの様です」
「生きてりゃいいさ、直に歩けるんだろ?」
「ええ、まだ暫くは無理ですが療養すれば元のように歩けるようです」
「・・・お互いよく生き残ったな」
「はい、ですが亡くなった方々が大勢いるので複雑な気分ですが」
「それはそれ・・・だな、嫁さんとは会ったかい?」
「はい、泣かれてしまいましたけど」
「そうか、まぁ幸せにやんな」
「ありがとうございます、あの・・ガルボさんは?」
「俺か?、ルービアンカに帰る
里を復興させないとな」
「ああ、ですね」
「治ったら嫁さんと一緒に遊びに来てくれ、子供も一緒にな」
「ガ・・ガルボさん!」
子供と言われて顔が赤くなるアルン
「んじゃあな」
「はい、色々ありがとうございました」
手をひらひらさせながらガルボは病室から出た。
院から出たガルボは伸びをする。
ルーアクシウムに避難していた家族とも再会したし、女王様にも直々に会ったし。
戦争は終わったし。
「さてと・・・」
クレイモアを手にガルボはこれからの事を考える。
「目下はルービアンカの復興だな、忙しくなる
あっと、その前にシルティアちゃんにお礼言わないとな
ノートンにも土産買って帰るか・・・」
晴天の眩しい日の光が顔に当たりガルボは目を細めた。
一章END




