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「さてと、これからのことを考えましょ。」
「そうだな…とはいっても。ここは無難に聞き込み調査じゃないか?」
「そうね…ここの地形の情報とか全くないものね。」
「先ずはあのお嬢ちゃんに聞いてみるのがいいかな?」
「そうね。」
話の方向性は決まったとばかりに二人はメモ帳を胸ポケットから取り出し書くべきことをまとめ出した。
「お料理をお持ちしました。」
先ほど案内をしてくれた若い女の子が体格と比べて少し大きめなお盆を持って部屋に入ってきた。
少し足がフラフラとしていて危なっかしいもので、警察官二人はハラハラとしたものだろう。
机の近くにお盆を置き、女の子はせっせと配膳していく。
その手つきは慣れたものでテキパキと働いている。
「食べながらだとマナーは悪いかもしれないが質問してもいいかい?」
配膳が終わったところを見計らい男の警察官は聞いた。
女の子は少しぽかんとして小さく小言を一つこぼした。
それは二人の警察官には届かなかった。
少女は少し迷いながら答える。
「お客様以外に旅館には誰もいないので少しの間でなら女将も許してくれると思います。許可を取ってくるのでその間お料理を堪能してください。」
「ありがとね。」
「迷惑のかけてしまって申し訳ない。」
「いえ、お構いなく。」
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「うま!?何このにく初めて食べた。」
「たしかに、この味は初めてのものだ。」
二人は用意された料理に舌鼓を打つ。
見た目は質素なものであるが味は格別なものであった。
「失礼します。女将に許可を頂いてきました。」
「本当に申し訳ない。」
「それじゃあ早速聞いてもいい?」
「はい問題ありません。」
早速聞き取り調査を…
「なら聞くけどこのお肉はどこのお肉。」
するわけでもなく、先ほど食べていた肉の行方を聞いていた。遭難者の行方ではなく。
男性警察官のは何聞いたんだこいつと言う顔で女性警察官を見ていた。
そんな男性警察官から目をそらしつつ女の子の方を見る。
女の子もこの質問は予想外であり、てっきりもっと重要な何かを聞かれると思っていたため少し間が空いてしまうのも無理はないだろう。それは接客業としては本来失礼なのではあるのだが。
「…その肉は特別なもので近頃行われる儀式に使うお肉なんですけど、女将は久しぶりのお客様だからといってお出ししております。」
「じゃあ一般で買えるものじゃないのね。」
「はい。」
女性警察官は残念そうに顔を下に向ける。
そんな警察官にもう一人は拳で頭を軽く殴った。
「何勝手なことを聞いたんだ。ごめんねお嬢ちゃん、本当はそんなことを聞きたいわけじゃないんだ。」
「えっ…あっ…いえ別に…」
女の子は一歩下がった。
「僕達はある調査でここにきたんだ。ここら辺で遭難者が出そうな又は誘拐されそうな場所に心当たりはないかい。」
「…何か、事件ですか?」
不安そうに女の子は聞く。
「まぁ、そんなものよ。でも心配しないで私たちがなんとかするから。」
「それで何か心当たりは?」
おそらく女の子はそれらしいところを記憶の底を思い出しながらそれらしい場所を探しているのだろう。
手を顎につけてうーんと唸っている。
それはさっきまでの接客とは違い年齢らしい姿であった。
「えっと…一つだけ心当たりが…」
「本当!?」
「…!は、はい。少し奥にあったところにトンネルがあるんですけどそこの先に廃屋があるって女将から度々聞いております。そこは確か曰く『呪われている』と。」
「呪い?それはないでしょー。」
女性警察官は女の子の言葉を即座に否定した。少し顔色が青いのは気のせいだろうか?
「そのトンネルはすぐに見つかるかい?」
男性警察官は女性警察官を放置して女の子に詳しい話を聞こうとした。
隣で「やめて!?」といっていたがそれは無視した。
「はい、すぐにわかると思います、この村唯一のトンネルですから。」
「ありがとう。それだけでも聞ければ何か手がかりになるものがつかめるかもしれない。協力感謝します。」
「いえ、こちらこそあまり力になれず申し訳ございません。それでも力になれたなら幸いです。」
女の子が部屋から出た後二人は急いで温泉に入り明日あの英気を養った。
余談だが敷布団が少し近すぎるのを見て二人は顔を見合わせて照れ臭そうにしていた。
二人は朝早くに起きた。
それはもう大変早くにだ。ふゆ…というのもあるのだろうがそれにしてもまだ早い。
それはまだ朝日の明るい光を受けず村には数少ない光源が唯一の光であった。
前を見ることもできない。もはやどこに何かあるのかも二人用の部屋でさえ見渡すことができない。
流石に早か起きすぎたか、二人の警察官の共通認識であろう。だからといって二度寝するわけではない。
寝過ごすなどもってのほかだからだ。
二人は手探りでボタンを探した。
途中色々と触った(触れた)がそれは置いておこう。
ようやく部屋に明かりがついた。時間にしておそらく10分だろう。
さっきまで暗い部屋だったので光がついた時二人の警察官の目は薄くなり光を拒絶しようとした。
「早く起きすぎたかな。」
「そうみたいね。まぁ、早く起きるに越したことはないし別にいいんじゃない。」
「そうだね。さて少し体でも温めようかな。」
男性警察官は立ち上がり体をひねるなど体操をし始めた。
それに習い女性警察官も自分なりの運動をし始めた。自分たち以外に客はいない。その言葉が案外気を楽にさせていたのだろう。
しっかりと体を動かしていた。
「おはようございます。」
どうやら今日も女将さんではなく女の子のようだ。
「おや?随分早いね。こんな早くに起きるのがいつも通りかい?」
「はい。毎日この時間でございます。」
「へぇー偉い!!」
「そうですかね?」
「昔の私よりしっかりしてるわ。」
「いや、今のお前よりもしっかりしてると思うが…」
「……」
女性警察官は黙って男性警察官の腹のど真ん中を殴った。
不味いとところに入ったのか男性警察官は膝から崩れ落ち嗚咽している。
「朝食の準備はできておりますがどう致しますか?」
「ならいただこうか。」
随分早い朝食になるのだが、おそらく二人の理由を知っていたため手を回してくれたのだろう。その気遣いが有り難く二人は受けることにした。
部屋で待っていると昨日と同じように体の大きさには合わないお盆を持って女の子が一人で朝食を持ってきた。
昨日と今日のことなので流石に手伝おうと男性警察官はお盆を受け取った。
当然ながら最初は女の子も遠慮ではなく本気で断っていたのだがしつこい手伝いの申し出だったので仕方なくお盆を渡した感じになっている。
朝食を食べ終えたらすぐに制服に着替え旅館から出た。女将や女の子はお辞儀をし見送りしていた。
地形を知るために村を二手に分かれ探索する。ポツポツと村人達も各々の仕事をこなしていた。年齢はほとんどのものが白髪の少し生えた男性と女性。年齢はぱっと見では40〜50代。
おそらく女将よりかは若いだろう。
いろんな村人達に事情を話しどこか怪しいところを聞いた。
全ての村人は女の子が言っていたのと同じ、まるで口裏を合わせたかのようにトンネルを怪しいと言った。
「はぁ、みんなトンネルが怪しいって。そっちは?」
「こっちも同じだ。これはトンネルに行くしかないだろ。」
「そうね。ならさっさと移動しましょ。」
二人は合流してそれぞれの情報を共有しようとした。しかし、どれも似たようなものだったため真新しい情報は一つもなかった。
パトカーで言われた通りのトンネルまで向かう。
トンネルは案外早く見つかった。
想像してたものよりも古かった周りも草木で覆われて長い間人が通っていない方がわかる。
「本当にここ?」
「そうみたいだな。」
流石の二人も自信がないようで互いに行くか行かないかを相談しあっている。
頼れるのは車のライトのみそれ以外の光はトンネル内には見えなかった。
「行くか。」
「…えぇ。」
パトカーはゆっくりと走り出す。




