七話目
私はあまり人に近づきたくない。
いや、あまりどころか極力近づきたくない。
いわゆる、パーソナルスペースが広いんだろう。
でも一人、例外がいる。
「…………」
いる……んだけど、その例外は学校からずっと口を開かない。
「真衣……?」
「…………」
困った。
こんなに黙りこくった真衣は初めてかもしれない。
かといって早足で私を置いていこうとしている、とかではない。
私の腕にしがみついて離れないのだ。
「真衣、そろそろ離してくれないと……」
「…………」
どんどん腕が痺れてきている。
痕もついているんじゃないかな。
困ったなあ。
今日はまっすぐ家に帰る予定だったけど、振りほどくこともできず真衣の家に来た。
真衣の部屋で、真衣をくっつけたまましばらく沈黙が流れる。
まあ大体原因はわかっている。
「真衣、あれは佳奈がどうしてもって言うから……」
「…………私だけじゃなかったの」
「も、もうないから、ね?」
「…………」
真衣が腕を離してくれた。
腕をさすっていると、今度は身体に抱きついてきた。
もしかして焼きもちやいてたのかな。
まあ私があれだけ普段真衣以外を遠ざけているのに、いきなりハグなんてしてたら驚くよね。
私も真衣を抱きしめ返した。
しばらくそのまま時間が過ぎる。
……あれ?
なんかだんだん強くなっているような。
どんどん息苦しくなる。
全身がつぶされる感覚。
真衣と私の境目がなくなりそうだ。
たまらず私は真衣の背中をたたいた。
ぱっと腕が外れた。
いったん深呼吸をする。
前もこんなことあったような。
「……綾香に触れていいのは私だけだから」
「え? うん」
一瞬真衣が見たことない顔になったが、ぱっといつもの笑顔になった。
「ごめんね! ちょっと焼きもちやいちゃって」
「あ、あはは、ちょっとびっくりしたよ」
「今日は泊まらないんだっけ。じゃああと少しだけど何しようか」
「うーん…………」
あれから、真衣はいつも通りに戻った。
佳奈は一度ハグしたからと、何度かまたハグをしてほしいと言ったけど、拒否しておいた。
もちろん佳奈のことを嫌っているわけではない。
ただ、真衣以外に近づくのが嫌いなのは変わらないから、となんとか説得した。
「綾香ああああああ」
ひらりと身をかわす。
でもまあそれであきらめる佳奈ではなかった。
「もうちょっとだったんだけどなー!」
「綾香に触れていいのは私だけだからね!」
もう一人、私に飛びついてきた。
こっちは優しく受け止める。
「相変わらず仲良いねー」
「真衣、あたしにも綾香を触らせて!」
「そんな物みたいな……」
「ダメだよー!」
「綾香は私のモノなんだから」
お読みいただきありがとうございました。