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1945年に飛ばされた私、iPhoneだけ2025年と繋がってるんだけど? 〜終戦回避は無理ゲーでも、戦後復興をRTAして100歳まで君臨する〜  作者: 栗昆布
第3章 東京デフラグ ―更地をコンクリジャングルへ!編―

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通知。

 銀座のホテルの地下倉庫、重油と埃が混じり、澱んだ湿気が肌にまとわりつく。サオリとハナは、隅に追いやられた穴のあいたソファに腰を下ろし、短い休息を取っていた。

 工藤の配下から無造作に配られたのは、石のように硬い干し芋が数片と、防衛食の沢庵だけだった。サオリは、奥歯が軋む音を聞きながら干し芋を咀嚼し、塩辛い沢庵で無理やり胃に流し込む。喉が焼けるように渇くが、腹は一向に満たされない。サオリはふと、浮き出た鎖骨や細くなった手首を無造作に眺め、つい現代の癖で口を滑らせた。

「……ねえ、ハナ。私、めっちゃ痩せたよね。お腹のあたりとか、もうペタンコだし」

 すすで汚れた顔を上げたハナの瞳には、明らかな拒絶の色が宿った。

「……バカ言ってんじゃないよ。痩せたなんて、そんな景気の悪いこと言わないで。もっと食わなきゃ力が入らねえよ」

 ハナの声は低く、刺すように鋭い。サオリはハッとして、咄嗟に視線を足元へ逸らした。

「あ、いや、違うの。……それよりさ、この靴。もうヘタってきちゃって、全然ダメ。こんなところで作業するのに向いてないっていうか……。パンツもスカスカになってきて、動きにくいったらありゃしない」

 サオリは自分の履いているパンプスを忌々しげに見つめた。底は磨り減り、形は崩れ、もはや足を保護する役目を果たしていない。ちょうどそこへ、昨夜トラックを運転していた工藤の配下の男が通りかかった。サオリは作業の手を止め、男を呼び止めた。

「……あの、すみません。どこか、もう少し丈夫な靴とか、落ちていたりしませんか? 服も、サイズが合わなくなってきちゃって」

 男は一瞬足を止め、値踏みするようにサオリの足元を一瞥した。鼻先でせせら笑い、吐き捨てるように言う。

「贅沢言ってんじゃねえよ。何でもかんでもほしいもんが手に入るご時世じゃねえんだ。こんなときによ。……工藤さんの役に立ち続けな。そうすりゃ、そのうち分け前が回ってくるかもしれねえぜ」

 男が去っていくと、横で聞いていたハナが呆れたように口を開いた。

「そんな妙な靴履いてるからだよ。タビでも履きゃいいじゃんか。楽だよ、そっちの方が」

 ハナの言葉に、サオリは言葉を詰まらせた。機能性を求めるなら足袋。この時代ではそれが正解なのだ。だが、サオリの頭の中では別の計算が働いていた。

(……足袋か。いや、明日にでも、もっとまともな服と靴をなんとかしなきゃ。機動力がないのは、この先、致命傷になる)

 サオリは軍手をはめ直し、作業に戻った。視界の端では、竹本が電球の剥き出しの光の下で、図面と計算尺を手に、無言で数字を書き殴っている。

 竹本は、配られた干し芋をくちゃくちゃと口の中で鳴らしながら、計算だけに没頭していた。湿った咀嚼音が、静まり返った地下の空気に奇妙に響く。周囲の罵声も、重油の臭いも、彼には届いていないようだった。その異様な没頭ぶりは、ここが戦時下の地下であることを忘れさせるほどに静謐せいひつで、かつ不気味だった。

 サオリもまた、油まみれの銅線を一本ずつ束ねる作業に没頭した。指先の切り傷がじりじりと痛むが、今はそれすらどうでもいい。

 作業の合間、資材の影に隠れて、サオリは泥だらけの手でiPhoneを取り出した。

 画面右上、アンテナピクトは「バリ5」を示している。だが、期待した着信はない。代わりに、ロック画面には場違いな通知が一つ浮かんでいた。


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 サオリは、煤けた指でそのポップな文字をなぞった。今一番欲しいものが、画面の向こう側の世界では安売りされている。鏡のようなディスプレイに映るのは、痩せこけた自分の顔だけだった。

 サオリは感情を殺し、iPhoneをポケットの奥へねじ込んだ。


「サオリ! 何ボサッとしてんだ、早く手を動かせ!」

 現場の怒声が飛ぶ。


 サオリは返事もせず、再び電線に手を伸ばした。今は、この地獄で工藤と結んだ「仕掛け」を完成させること。この狂った計算を形にすること。それだけを、ただ淡々と、機械的に進めるだけだ。

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