6-4 ダンジョン総選挙・1
★かんたん黒の迷宮マップ
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地上2階以上は、眠りの塔エリア
地上1階はダンジョン入り口、休憩所、厨房1
地下1階、地下3階、地下5階など
奇数階は、冒険者が攻略するエリア
地下2階、地下4階、地下6階など
偶数階は、動く壁の収納エリア
地下8階
モンスター居住区エリア
(食堂、宿舎、厨房2、大広間、事務所など)
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◆地下8階・転送装置前
朝方。
ダンジョンへの出勤で順番待ちしているみんなに、俺はチケットを渡していく。
シュバルも人化したまま、腕組みをして見守っている。
「これからランキング結果発表の、前々日までこの“闘表券”をみんなドロップするように」
『へーい』
「自販機、宝箱の中にも入れておくように」
『ポム!(了解しました!)』
『発案者:俺』『責任者:シュバル』の下、発動する『ダンジョンヒロイン総選挙』の開始だ。
基本は、アイドルグループでよくある総選挙と同じ。
候補者の中で、もっとも得票数の多かった人が、黒の迷宮ヒロインの座を獲得する。
まずモンスター側のみで集計をして、次に冒険者からの票数を加える。
そして闘技場表明券――
ランキング集計前日に、できるだけ大勢の冒険者を、長く滞在させるためのイベントを起こす。
ついでに、エルとスリーピィの摩擦も解決――できればいいんだけど。
「我々は長生きゆえに、どうしても問題を先送りにしてしまいがちだ」
20年ダンジョン先送りしてた竜が言うと説得力がある。
「しかし、同じダンジョンで働く者同士――そんないさかいを抱えたままでは働き難いだろう」
「そうだね」
優劣さえ目に見える形で決まれば、強者に従うという魔界ルールによって、ひとまず矛を収めてくれるだろう。
……大丈夫かな。
「じゃあ、ひとまず立候補者の様子でも見て回るかな」
「ああ」
シュバルには録画用魔水晶を。
俺は音声収集装置を持って、みんなの様子を伺うのであった。
★ダンジョン地下1階・厨房
・立候補3:ピンク
・立候補4:ヌメルン
美味しそうな匂いと、なにかを炒める音でお腹が空いてくる。
「ポム~ポム~(おイモの皮むき~やさいのお手入れ~)」
今日の仕込みを手伝っているボル隊のピンク。
マメに毎日洗濯されている、清潔なピンクの布が特徴的だ。
「ポム(ヌメルンさん、おやさいここに置いておきますね)」
「ありがとね~ピンクちゃん」
「割とサポートが得意で、よくダンジョンの掃除なんかもしてくれるんだよね」
「ふむ。こういったメンバーが居てくれると、なにかと助かるな」
物陰から2匹の様子を観察する俺とシュバル。
俺たちは、あとでダンジョン内に流す候補者たちのドキュメントムービーのための撮影をしている。
普段はよく見ることのない働きぶりを見せることで、みんなも士気が上がるというものだ。
「ヌメルンさんも忙しそうだね」
「彼女は触手の精密動作にかけては同族の中でも随一だ。またその十数本の触手で、数多の冒険者を捕食してきた経歴を持つ」
「ごくり……」
現在の黒の迷宮モンスターは、ダンジョン拡張に伴い約100匹(正規・派遣含む)だ。
しかし初期のメンバーは、主にシュバルとエルが直接スカウトしてきたモンスターばかり。
なにかしらの技能で突出しているのだ。
「――胸板の厚い男性冒険者しか狙わない偏食家として、前のダンジョンを解雇されたところをスカウトした」
「えぇ……」
「もしトップを取ったら、好みの男性だけを集めた触手パーティーを開きたいと頼まれている」
触手に満たされた部屋に放り込まれる、マッチョで胸毛が濃ゆそうな男たち。
その逞しい胸板に、ねっとりとした液が浸み込んだ触手がまとわりつく。
逃れようとしても、その度に触手はキツさを上げていく。
やがて、触手の与えてくる快感に抗うことすらできなくなった男たちは、恍惚の表情で――
「おえ……」
ちょっとその絵面を想像しちゃったじゃないか。
「つ、つぎ行ってみよう」
★ダンジョン地下8階・事務所
・候補者2:エル=レイヴン
そっとドアを開けて、中の様子を伺う。
「エルさん。倉庫の在庫チェック終わりました」
「分かったわ。お疲れ様」
「食材の発注なんですけど。ハーピィさん、卵の調子が悪いって言って規定数はムリだと言ってます」
「分かりました。こちらから他の鳥系魔獣の牧場へ連絡してみます」
「エルさーん。スケサンが、食堂のお酒の種類増やしてくれって……」
「却下です――と言いたいですが、また外へ飲みに行って問題を起こされても困りますね。あとでシュバル様へ報告をあげます」
デスクの上には連絡用の水晶玉、山のような書類。
壁には大量の本が入れられた棚。
なんか花が呼吸しているように見える観葉植物。
その奥にある3つのデスクに囲まれて、エルは次々と指示を出していた。
「うわ、忙しそうだな……」
「姫役は幻影魔法でもなんとか対応できる。それに今はスリーピィもいる。しかし……こっちはエルが居ないと回らないのが現状だ」
次々とくる案件を、スムーズに解消していく仕事デキ女。
それをサポートする悪魔娘さんも、初期の4人から8人へと増えている。
「エルさん、これ……」
「これは、匿名希望さんからの陳情ですか。“ギュスター商会の悪魔娘さんたちの服装もメイド服にしませんか? スカートは短めで”――ほぉ」
おもむろにエルは立ち上がり、カツカツカツッと早歩きでどこかへ――あっ。
「こんな忙しい時に、ふざけた意見書出したのはアナタですよね。シロー」
ドアの隙間から覗いていたのはバレていたらしい。
「え、えぇ? そんな~どんな証拠があって俺だって疑うのさ~」
「……こんなデザインのイラストまで描いて指示するのは、アナタくらいですよ」
突き付けられたのは、俺が丹精込めて描いた黒の迷宮公式ユニフォームとして相応しい、黒白の和装ミニスカメイド服だ。
絶対領域と乳袋には特にこだわった自信作――
「……じゃあ、これ燃やして捨ててもいいですね」
「ヤメテ! それ自信作なの――あっ」
語るに落ちるとはこういうことか。
めっちゃ怒られた。
★ダンジョン地上4階・サキュバスルーム
・候補者1:スリーピィ
「失礼するぞ」
「うーん。香水の良い香りが……」
部屋へ入ると、どうやら彼女たちはなにか作戦会議をやっているようだった。
ドンッと、テーブルの上に大きな麻袋を置くサキュバスクイーン、スリーピィ。
彼女の前には、待機ポーズをしているサキュバスの部下のみんな。
ちなみに秘書だった青髪さんは、元々の眠りの塔へダンジョンマスターとして残ったみたいだ。
「いい? この金貨を、ダンジョン中のモンスターへ配るの。投票はすべて、このスリーピィに入れるように説得してね」
『かしこまりました』
「お店の方と、ダンジョンの通路や食堂。あっちの村にも顔イラスト付きのポスターはるのよ。夢見せる冒険者には、わたしが直々にアピールするからね」
『はッ!』
「そのためのお金は惜しみなく使うといいわ!」
『すべては、クイーンの1位のために』
うーん、清々しいほどに選挙法違反。
「あっ、シローくんにシュバルちゃん。遊びに来てくれたの?」
「……いいのかな、シュバル」
「なにがだ」
「お金で買収したりとか、エッチなことで誘ったりとか」
一応、他の候補者に直接、間接な妨害など禁止。
もちろん殺害したら即失格――というルールは決めておいたけど。
「え~? 魔界の選挙と言えば『金』『暴力』『セッ〇ス』は基本の3拍子だよ?」
分かってたけど、魔界ってバイオレンス吹き荒れてるな。
「ほかにも『暗殺』『謀殺』『闇討ち』は基本だし~」
「例えば魔王を決める選挙だと……100人以上いる候補者も、選挙当日まで生き残れるのはわずか5人ほどと言われている」
治安終わってる。
「そうでなくては、魔王は務まらないだろう」
「うへー……でもお金配るのはナシね、ナシ。みんなマジメに働かなくなっちゃうし」
「ええ~」
頬をふくらませて、かわいく怒ってもダメ!
「じゃ~モチモチさせてもらうかー」
「え、なにがモチ――もごっ」
俺の身体ごと持ち上げて、上に下にめちゃめちゃ伸び縮みされた。
◆ ◆ ◆
★ダンジョン地下8階・大広間
その日の夜。
「――じゃあこれで、候補者5人分出揃ったね」
「ああ」
シュバルはもう元のドラゴン形態に戻ってる。
あっちの姿もいいと思うんだけどなー。
「……定期的に村の報告聞いてると、グリュウのやつ。もうずっと冒険者のインターセプト続けてるみたいだね」
しかし目標のダンジョンがフワフワしていた頃と違い、今は男性冒険者の多くはこの黒の迷宮を目指している。
週末には、軽く50人以上。いや、100人は来る見積もりだ。
本来の期限である1か月後には――1位になれるくらい増えていると思う。
「……ヤツもこの状況は知っているはずだ。それにしては、目に見えた動きを見せていないのが気になるな」
「うーん。向こうのダンジョンに直接、偵察に行けたらいいんだけど」
所属モンスター以外がダンジョンへ侵入すれば、即バレる。
これは隠密スキルを使っててもだ。
「――忘れてくれ。今は、我々のダンジョンのことへ集中しなければならない」
「そうだね!」
さて、週末までにいろいろ準備しないと……。




