6-3 水と油には石鹸を
「お待たせしました。シローさん考案の、フルーツサンデーパフェになります」
ウェイトレスの悪魔娘さんが、4つのパフェを持って来てくれた。
ふわふわ卵ケーキとカスタードクリームの上に、魔界産フルーツと生クリームがこれでもかと盛られ、てっぺんには丸くて大きなイチゴ(にそっくりな果物。目が付いてる気がする)。
説明した通りの出来栄えになってる。
さすがヌメルンさんだ。
「やっぱり疲れたら糖分は必要だからねー」
「そうですね。甘いものは、疲れ切った頭への負担を和らげます」
エルはそう言いつつ、細く長いスプーンをパフェの山につっこみ――大きくすくったクリームとフルーツを、口へと運ぶ。
「――ッ!」
まるで背景に電撃が落ちたかのように、目をカッと開くエル。
「ど、どうかな~お味は」
「……美味しいですよ」
さっきまでの不機嫌そうな顔はどこかへ吹き飛んでしまい、パクパクとパフェを食べていく。
万年シワが寄っていた眉間がゆるみ、幸せそうな、まるで昇天してしまいそうな表情だ。
「ん~ッ!」
こう喜んで貰えれば、こちらも作った甲斐があるってもんだ。
あとは――
「はーい、シュバルちゃん。あーんして」
「ひとりで食べられるぞ」
エルの動きが一瞬だけ止まるが、シュバルが拒否して、スリーピィが頬をふくらませたことにより動きを再開。
こえー。
「じゃあシローくんにも食べさせてあげる♪」
「試食なんだから、スリーピィも食べてみてよ」
「でもなぁ」
「もしかして、甘いものが嫌いなの?」
「ううん。こんな甘いの食べたら、太っちゃうなーって」
ピシッ――世界が割れる音が聞こえた、気がした。
「いいよねーエルちゃんは。甘いの食べても、全部お胸にいっちゃうし」
「……わたくしは、日課の適度な運動はもちろん。事務仕事によって脳を酷使しています。どこかの自堕落なだけの能天気クイーンとは違います」
ピキッ――そんな音が鳴る。
「……あれー? エルちゃん、果物残してるよー? 嫌いなの?」
「フフン。これはですね――」
「それなら食べてあげるよ~」
赤い果物をひょいっと指でつまみあげ、パクッとその小さな口の中へ納めてしまった。
「あ」
「ん?」
「おいひ~♪」
「あ、あああ……ああああッ!!」
スプーンを持ったままエルが震えだした。マズい。
「ほ、ほらエル。俺のあげるからさ~。――ほらシュバルも!」
「すまん……最初に食べてしまった」
この、楽しみは先に食べる派め!
「……サキュバスクイーン、スリーピィ!」
「これまでのアナタの愚行、蛮行、淫行。すべてはこのダンジョンのためと、見逃してきましたが、もうガマンできません!」
「ぐこー? ばんこー?」
「アナタが、ダンジョンのモンスターに抱きついたり、いやらしく体を撫でまわしたり、あまつさえキ、キスを求めたり……」
褐色の耳が真っ赤になる。
ウブすぎる……。
「あんなの挨拶じゃん。ここのモンスターとは本番も夢も一切禁止しないって、ちゃんと約束守ってるよ?」
「……本番?」
「うん。セッ〇ス。オスの〇ン〇ンをメスの穴に――」
「それ以上、言わなくてもいいです!」
きょとんとした表情で告げた言葉に、西部劇で銃弾で撃たれたガンマンのようによろけるエル。
「そ、そういった下品な言葉を、公の場で発言する行為もです!」
「サキュバスから下品取っちゃったら、もうただのエッチなお姉さんじゃん」
うん。
でも、気軽に下品な発言するのは、君だけだよ――
他のサキュバスの皆さん、他モンスターと会話する時とか、割と丁寧だし。
「ともかく! これ以上、ダンジョンの風紀を乱さないためにも――わたくしと決闘をして貰います!」
「え、えぇ、本気なのエル!?」
俺はスリーピィのステータスカードを見たことがある。
あの圧倒的なレベルや魔力を見たら、とてもじゃないけどエルに勝ち目は――
「ふん」
なんかエルがカードを投げ渡してきた。
どれどれ――
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
種族:ダークエルフ・レジェンド(ランク1)
称号:ブラックドラゴンのしもべ
ダンジョン総合事務担当
エルフ魔法完全制覇、など
名前:エルメイア
レベル:8888
ライフP:28882
マジックP:??????
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「え、えええ!?」
サキュバスクイーンよりもレベルとランクが高い!
他のステータスはそこまで差はないけど、ライフと魔力と取得している魔法の種類は、エルが断然に多い。
「これでも526歳。ダテにエルフとして生きているワケではありません」
「えー、おばさんじゃん」
今度は完全に、エルが石像みたいになって固まった。
「ちなみにわたしは、213歳! シュバルちゃんは?」
「……534歳だ」
「えーっと……享年25歳です……」
みんな、想像よりはるかに年上だった。
「いいのかなー。わたしが勝ったら……もう徹底的に調教しちゃうよ?」
「構いません。ですがわたくしが勝てば――もう二度と、このダンジョン内でのいやらしい言動と行為は封印させていただきます!」
「それでいいよー。負けないし」
例えるならば。
ダンジョンの風紀委員長なエルと、奔放ギャルなスリーピィ――その決闘がここに決まったのだった。
「で、なにで勝負するの? よくある魔法アリアリの殺し合い? どっちかの首がチョンパするまで続けるやつ」
物騒過ぎる。
「そ、それはさすがにダメ! 女の子同士が、そんな血で血を洗うようなバトルは――」
「えー。女の子だって殺し合いくらいするよー。でもそう言って貰えると嬉しいな♪ ぎゅー」
「ぐえー」
「ふむ――では、こういうのはどうだ」
シュバルがスゥっと息を吸い込み――
「今の話、みなは聞いていたか!」
『イエス、ボス!』
「うわっ、どっから沸いた」
気付けば。
非番のモンスターだけでなく、ダンジョン中のモンスターたちが大集結していた。
「これより――誰がこのダンジョンのヒロインとして相応しいか――ダンジョンヒロイン総選挙を行う!」
『うおおおおおッ!!』
シュバルが拳を振り上げると、ノリのいいモンスターたちはテンションアゲアゲで雄たけびのように叫んだ。
まぁ、ここまでは――俺の作戦通りだ。




