6-2 みんな一緒に
「ふむ。やはりそうなったか……」
冒険者がやってくる合間を狙い、そのことをシュバルへと相談に来た俺だった。
「エルは見ての通り、マジメだ。それでいて潔癖な部分もある」
「サキュバスが同じ職場で働くだけでも、イヤがってたもんね」
「だがワシが許可を出したものだから、表だって抗議もできないのだ。悪いが、グチくらいには付き合ってくれ」
「グチで済んでる内はいいよ――」
もしエルとスリーピィがぶつかり合うことになったら……たちまちダンジョン内は大混乱になってしまう。
いや、その日はもう近いかもしれない。
「なら、逆に考えるのだ。シローよ」
「うん?」
「いずれぶつかり合うのが分かっているのなら――それは、早い方がいい」
「……たとえば?」
シュバルは、とある提案を出してきた。
「古来より――女とは、甘い食べ物が大好物なのだ」
◆ ◆ ◆
姫ドレスから着替え、自室から出てきたところへ声をかける。
「お、お疲れーエルさん」
「……シロー、なにか用事ですか。わたくしはこれから、ダンジョン拡張による新たな正規、派遣モンスターの選定があるんですが」
「そ、それは俺とシュバルで片付けておくからさ――ちょっと休憩しない?」
できるだけ陽気に振舞っているのだが、エルには怪訝そうな顔をされる。
「……なにを企んでるんですか」
「そ、そんなことないよ~。俺はいつでもナチュラルだよ~」
精一杯のカワイイポーズで体を揺らす。
「……」
「実は、俺が監修して作って貰った新作スイーツがあるんだよ。エルの評価が高かったら、魔動自販機でも売り出そうかなって」
「試食ですか」
「そうそう」
「……仕方がありません。少しくらいなら付き合いましょう」
エルはいつもシュバルにくっ付いているから、なかなか街へ遊びに行く機会もない。
たまに魔界チャンネルで、美味しそうなケーキを食べる映像を、よだれを垂らしながらボーっと眺めているのを、シュバルは見たことがあるらしい。
――そりゃ割と重症じゃないかな。
「行きましょうか」
そのクールな言動とは裏腹に、カツカツカツ――とめっちゃ早歩き。
どれだけ楽しみなんだ。
◆
このダンジョンモンスターが利用できる福利厚生のひとつ。それが食堂。
いろんな種族の、いろんな好物料理が楽しめるということで人気が高いスポットだ。
徘徊シフト、中ボスシフトの入っていないモンスターたちがまばらに利用している。
そんないくつもあるテーブルの中に――彼女が居た。
「あれ? エルちゃんにシローくん。どうしたの?」
「げっ」
スリーピィである。
レースのついた、胸元を強調したフリフリのエプロンドレス。
ブラウンショートヘアー。見ていると吸い込まれそうな紫水晶のような瞳――
ボルに変身していない時は、大抵はこの恰好だ。
どことなく、日本で好きだったアニメキャラに似ている。
「やぁスリーピィ、奇遇だねぇ」
「シュバルちゃんに誘われてねー。なんでも、美味しいお菓子が食べられるんだって♪」
「……チッ」
エルさん。舌打ちなら、もっと隠れてやってくれませんか?
もう露骨に不機嫌なの隠さなくなってきたな――
「じゃ、じゃあ一緒に食べようか。ほら、エルも座ってさ」
「――失礼します。クイーン様」
「どうぞどうぞ~。でもすごいよねー、エルちゃん」
「なにがですか?」
「そんなにお胸が大きくて――誰かに揉まれたの? やっぱりシュバルちゃん?」
おおい。いきなり下ネタ付きセクハラは止めて下さい!
「すぅ……ふぅ……すぅ……」
めっちゃ震える呼吸を整えながら、アンガーマネジメントしてる……。
「これはお母様ゆずりです。それよりクイーン様」
「なぁに?」
「クイーン様は、なぜいつもシローにちょっかいをかけているのですか?」
「えーっと、エルさん?」
「彼はコレでも、『黒の迷宮』の営巣担当です。仕事を円滑に進めるため、色々しなければならないことが多いのです」
「ふんふん」
「アナタのように、万年男に発情しているだけでお金貰えるようなお仕事の方には、想像もできないでしょうが」
うわぁ、それをスリーピィに言っちゃったら……。
「うーん……。わたし、エルちゃんのこと大好きになってきたなー」
「はい?」
「首輪をハメて、わたしのペットとして飼いたいくらい、大好き♪」
こっちはこっちでサドオーラ全開だ。
こんな見た目には忘れてはいけない。
彼女は、サキュバスの女王なのだ。
「その澄ませた顔が、どんどん蕩けていって――わたしの唾液なしじゃ、生きてられないくらいにするの……楽しみだなぁ」
「ほぉ」
「ちょっ、待ってエル。抑えて――」
「なにをしているんだ」
この渋い声は、シュバル!
「もうなにをやって……シュバル?」
特に疑問に思ってなかったけど、食堂はドラゴンが利用できる大きさじゃない。
でもシュバルはここで2人を鉢合わせようと提案してきた。
その答えが――
「クイーンも。エルをからかうのはよせ」
「はーい、シュバルちゃん」
190センチはあろうかという長身。
まるで西洋の彫刻のように深く、それでいてスッキリとした顔立ち。
腰まで届く髪は、磨かれた黒曜石の艶やかを思わせる。
ラフな麻の服に身を包んだ、若い冒険者風の男がそこにいた。
「ってシュバル!? 思わず誰のモノローグかと思ったよ」
「なんの話だ」
「失礼しました、シュバル様」
特に2人は驚いた様子もない。
「竜魔法には、因子を持つ生物に変化できる魔法がある」
「そういえば、グリュウも最初に出会った時は、ゴリラ化してたっけ」
ん? 因子?
「我らがドラゴンの始祖は、人と交わったとされる」
「へー。異種か――もとい異種恋愛かー」
「しかしブラックドラゴンは、その後も様々な強い種族と交わった――ゆえに、他のドラゴンからはやっかみを受けることも多いのだ」
「ふーん……」
なんか時代劇のお侍さんが喋っているような渋さのある声だ。
「なにをニヤニヤしてるんだ」
「いやー? あっ、そうだ。みんな揃ったし、さっそくスイーツ食べようよ」
さて――上手く2人をおもてなしして、仲良く……なれるかなぁ?
もうかなり不安しかない。




