1-2 俺はドラゴンと出会う
「はぁ、はぁ――」
俺は、森の中を走っていた。
いや、逃げていた――
『ちょうどエサのボルを切らしてたんだわ』
ニコニコ笑うゴブトの笑顔は、純粋だった。
何か悪いことを考えているとかではない――それが、ここでは当たり前なのだ。
ここは日本じゃない。
人権ならぬ、魔物権なんて――最弱には存在しないのだ。
それがよく分かった。
魔獣のエサにされかけたところを、なんとか隙を見て逃げ出し――
「はぁ、はぁ……」
もう何時間走っただろうか。
後ろを振り返っても、誰か追いかけてくる様子は無い。
エサの脱走なんて、気にもしてないのか――
どこへ行けばいいのだろう。
もう町には戻れない。
あるいは、他にも町はあるだろうけど――地図も無しに、この森を脱出できるとは思えない。
詰んだ。
その事実が俺に重くのしかかる――のだが、
キュルルル――
魔獣の鳴き声ではない。
俺の、腹の虫だ。
「……ひとまず、腹ごしらえするか」
こんな状況でも、腹は減る。
前みたいに木の実を探しても良かったが、もっと腹にたまるものが食べたい。
「やるか。釣り」
落ちていた枝、木に巻き付いていたツル、それと小石。
これらを組み合わせて――もの凄い簡単な釣り竿の完成だ。
こんなのでも、釣られることに慣れていない魚ならいけるはず――あとは魔界の川に、まともな魚がいるのを祈るしかない。
◆ ◆ ◆
心配は杞憂であった。
「大量じゃねーか!」
10匹くらいの、鯉のような魚が釣れた。
額に宝石がついている以外は、目立って変な部分は無い。
近くにあったデカい葉っぱで魚を包む。
「さっそく火を……ってこの手じゃ厳しいよなぁ」
それでも生で食べるのは気が引ける。
なにせ、生牡蠣を食べたのが原因で死んだのだ。
ここでさらに“当たる”なんてことは、是が非でも回避したい。
髪もない頭部に、一滴、二滴と、なにかが当たる感触――
「雨か!」
川の周囲を見ると――すぐそこに大木が見えた。
根元は巨大な空洞になっている。
「えっほっ、えっほっ」
魚を運び、なんとか振り出す前に、洞穴へ退避できた。
――しょうがないので、ここで焚き火でも出来ないかチャレンジしてみるか。
「確か枝とツル、燃やせそうな枯れ葉かなんかで火を起こすんだよな」
この丸い手も、そう捨てたもんじゃない。
よく分からないけど持とうと思えば、掴めるのだ。
どうやってるのかは知らない。
「こうやって擦って……」
釣り竿を分解して、火おこしの道具として再利用する。
しかし、すぐに火は付かない。
何度も何度も繰り返し――ようやく煙のようなものが立ち上り始める。
「ふんふーん」
徐々に火の種になるものをくべて、魚を拾った枝に突き刺す。
なんとか自力でたき火を起こせた感動と共に、火を囲うように魚を配置していく。
「いやぁ、意外となんとかなるもんだな」
『誰だ……』
「……?」
腹の奥へ響くような、重低音。
それは、この洞穴の奥より伝わってくる。
煙が、暗闇へ吸い込まれていく。
『このワシが寝ているというのに――』
巨大な影が、姿を現した――




