15話
本番が始まる。
司会は大御所のノモリさん。
「久しぶりだねぇ、Yuuuちゃん。新曲出したんだって?」
「お久しぶりです。今日は披露させて頂けてとても嬉しいです。」
「前回のね、反響が凄いみたいで、Yuuuちゃんが歌うところは視聴率38パー行ったらしいよ。凄いねぇ。」
横に座る二継さんから歯ぎしりの音が聞こえる。
「大勢の方に見て頂けてとても嬉しかったです。」
「今日も期待してるよ〜。」
「頑張ります!」
「お次は二継ちゃん!アルバム出したんだって?あ、髪切った?」
次の演者の紹介に移る。ニコニコと頷く動作を入れ、笑い声を出すのも大変だ。あくびでもしようものなら先輩の二継さんにキレられるだろう。
演者の紹介も終わり、歌が始まる。私はトリ際なので出番は随分後だ。
二継さんは中盤なのでハッキリと時間が分かれて視聴率勝負は分かりやすいだろう。
そんなことを考えてると二継さんの出番が始まった。
<何かが産まれる毎日>
二継さんがヒットした3年前の曲。新しく出したヒットアルバムに入ってる曲だ。
私がアイドルを、いや。
僕がアイドルを始めたキッカケの曲。
大好きな曲だ。テレビを意識して身体をリズムに合わせてる人が多いだろうが、僕は本心で、本能で、無意識に身体が動く。
<そんな日に、ありがとうと伝えたい。>
歌い終わった二継さんはカメラに一礼した後、僕を見つめる。「負けない。」そんな気持ちが伝わる視線だ。その歌に相応しいように僕も、いや、私も歌おう。
「お次は世界No1、その称号が最も似合うであろう人物。Yuuuさんです!」
<私の証明は僕には出来ない>
僕が私の事をそこに在ると言えるの
嘘みたいに変わる姿に誰も気づかない
歌を歌い 涙流し 何も変わらない毎日
そこに自分はいるのかな
私の証明は僕には出来ない
愛してる人すら 誰だかわからない
私の日常は何一つ変わってないのに
今 生きる 意味を 誰が証明してよ
歌を歌い終わり、二継さんに目を向けると、彼女は俯いていた。
収録が終わり、香具師奈我さんの車に乗る。
Yuuuの格好のままで。
パパラッチやスタッフさんに見られるとマズイので事務所までこの格好で乗り、タクシーで家に帰るのだ。
しかし、こんな活動がいつまで続くのだろうか。
学校も、芸能活動も、偽りすぎだ。
「昨日のMタミみた?」
「みたみた!まじYuuu最高だった!」
「ねー!可愛かったし最高!歌もなんか凄い聴いてて泣いちゃった。」
「わかる!なんでだか分からないけど泣けてきたよね。」
「そうそう。ウチらとかもさ住民票とかでさ、戸籍とか確認できるけど、ああいうのが手違いとかで無くなったら誰が証明できるのって感じ。」
「わかる!でも、莉奈のことはウチが絶対に証明してあげる!」
「んー!加奈大好き!」
「はいはい、二人ともウチのことほっといてアツアツにならないで。でもさ、作詞作曲はYuuuでしょ?よくこういう曲思いつくよねぇ。」
「確かに凄いよね。」
「案外、免許無くして本人確認書類なくて思いついたりとかありそう。」
「え、Yuuuって免許取れる年齢なん?全てプロフィール非公開でしょ。」
「いや、可能性とかの話で、保険証とかかも知んないけど〜」
朝から随分と賑やかな会話だ。
僕の悩みを知らずに軽い感じで言われるのは複雑な気持ちだが、こんな素性を明かすような曲を作った当初は事務所からNGを貰ったが、いざ出してみれば大ヒットするとの手の平を返された。
「おはよう、優くん。」
「あ、おはよう、古川さん。」
「昨日のMタミみた?」
「う、うん。」
見た、どころか出演してたけど、知る由もないだろう。
「Yuuuってどんな気持ちであの曲を作って、歌ったんだろうね。」
「え、ど、どうだろう。」
何故、僕に聞いてくるんだろう。
間違ってはないが。言えるはずもない。
「私ね、今、凄いバカな事を考えてる。」
そういった古川さんの瞳に映る僕の姿は。
300以上のブックマークうれぴくるすまっくすです!
本来は今日書くつもり無かったのですが、御礼の意を込めて書いて見ました。
古川さんは誰を見つめているんでしょう。
新作
なんでも出来るよ、山本先生‼︎
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