5話 これは、オレの力じゃない
スーツの説明がおざなりになってますが、ヒロユキがそれくらいしか知らない、という前提です。
あしからず。
燃え上がる炎。
せわしなく動くことを余儀なくされる場所。
倒さねば、どこからともなく湧き上がる敵。
的確な表現を述べるならば、そこは戦場だった。
「ナポリタンできた、よろしく!」
「新規! ベジサンドをツー!」
「追加! バニパフェ、ワン!」
作る、注文、作る、注文、注文、作る作る、盛り付ける。
作り手が一人に、注文が殺到。
ちょ、ちょっと待て。これはやばい。注文が多すぎる!
喫茶店開店、3日目の過ごしやすい日差しの昼下がりに。オレは、戦場にいたのだ。
それにしてもおかしい。
コーヒーの注文より、食事関連の注文が多い。
確かに食事の時間帯ではあるが、専門店へ行けと。
むしろ、軽食を出す喫茶店で昼食とはいかがなものか。
よし、ベジタブルサンド完成。注文名はベジサンド。
材料は、レタストマトキュウリのピクルス……など、旬の野菜を6種類くらいを手作りバケットパン、
--オレお手製だ--をカットしたものではさむ。でこれも手製のドレッシングを掛けて出来上がり。
どこぞの地下鉄の名を冠するサンドイッチみたいだが、ドレッシングはとある本を参考に作った。
カロリーはあるが、すぐに消化でき体にいい、で肌にもいいという女性へのお勧めメニューだ。
『完成率100%』
変身スーツの仮想ディスプレイに文字が出る。
そう、このスーツの機能として教育型人工知能、つまりAIが搭載されている。
現時点では、文字でのナビゲーションや危険に対しての警告音などしかないが、ゆくゆくは音声やら人間のようにコミュニケーション……できるかもしれない、とはヒロシの言葉。
とにかくこのAIのおかげで、オレはこの戦場でもなんとか生き延びているのだ。
ありがたやありがたや。
と、バニラパフェ完成。注文名バニパフェ。
バニラアイスをメインとしながらも、ってこれも手作りだが。
とにかくミントやチョコチップなどの3種類のバニラアイスを楽しめるだけでなく、中層の3種果物ゼリーを間に、最下層が超濃厚バニラアイス。
アクセントは、頂上のバニラアイスをうさみみのように2つに分けて、片方を少し下に曲げるところだ。
この部分だけ、超濃厚バニラで作るので、なかなか形が崩れないってところがポイント。
変身スーツは行動においてもナビをしてくれるので、常に最適化された行動が行える。
最初は本当に大変だったが、今じゃもうオレだけでは何も出来ない。
よくできた相棒になっている。
「ベジサンド、バニパフェよろしく!」
「アイスコーヒー、ツー!」
「ヒロシ、お前がやれ」
AIナビの情報では、コーヒーはいつでもオーケーみたいなので。
もう、周囲の状況まで把握してくれているあたり、いっそこのAIに指揮を任せたくなるくらい。
しかし、本当に注文が多い。
どれだけ、手際や効率を酷使して作るにしても、ゼロ時間行動は無理なのだ。
落ち着く暇もない。
頭の片隅で、こんな思考ができるのもこのスーツのおかげだが、それでもつらい。
まさかと思うが、敵の攻撃じゃあるまいな。
苦しいのはオレだけで、ヒロシやアヤは大喜びだぞ。
初めての売り上げのときはご近所さんや知り合いだったけど、二人して、
「「初売り上げばんざーい!! 今日はごちそうだー!!」」
って、夕食をオレにちょっと手の込んだ食事を作らせたんだからな。
今日も、その勢いだと、売り上げ新記録、でまた豪勢な食事を作ることになりかねない。
そ れ は 、 い や だ。
「オムピラフ、ワン!」
「ちょ、待て」
「エレロード、ワンきたぞ!」
「ををををい!」
手間隙かかるメニューが一気に来た!
オムピラフはオムライスのライスをピラフにし、なおかオムレツ部分をふわトロにするため、効率化を図っても時間がかかる。
エレロードとは、正式には「エレメンタルロードパフェ」。地水火風をイメージしたフルーツソースと長濃厚バニラ、そして先ほどの4元素とは別の木火土金水の5層のアイス+プリンが光と闇をイメージとした、とにかく作るのが面倒というか時間がとにかくかかる。
値段も値段だが、今の時に注文されるとつらいものがある。
あくまで店としての事情なのだが、お客さんも察して欲しい。
小さい店に、多くを求めないで欲しい、と。
そんなオレの気持ちとは裏腹に、店には客が絶えない。
『現在、行列での待ちがあります。想定終了時間は夕方もしくは閉店時間ちょうどです』
おい。
本気で敵からの嫌がらせを想定したぞ。
ヒーローとしての活動前に、店の活動でやられるぞ。
『インターネット情報から、現状に至るまでの情報を収集しました。推測も含めて聞きますか?』
おや? メッセージインフォの画面なんていつできた? ってこの調理中に進化したのか?
では簡潔にお願いします。調理のナビと併用するので大変かもしれませんが、聞きたいです。
『結論。ヒロシとアヤの宣伝によるものです』
……敵にばれてもいいのかあいつらは。
アヤは、ヒロシの後輩で、組織には所属してたことはないって話だからいい。
ヒロシはアウト。オレはグレー。敵前逃亡したから。
『マスターの不安に関しての解答は推測になります』
そちらも簡潔にお願いします。エレロードはもうそろそろ完成します。
オムピラフは、その後。
『ヒロシは異世界人ではないので、組織の優先レベルとしては最低です。研究情報も既に現在の技術に組み込まれているために技術として確立しているものと思われます』
ヒロシは既に用済み、と。じゃあオレは?
『このスーツのジャミング&ステルスとダミーデータシステムの併用にて、多少高性能の戦闘員用、いわゆるパワードスーツと認識させています』
用済みがそれなりのパワードスーツと逃げ出した、ってことになるから、無視しても問題なし、か。
『YES』
なぜにそこだけ英語?
今日の売り上げ……、諭吉っぽい人が100超えた。
諭吉っぽいが、名前は違うんだよ。もう気にしない。
しかし、材料ストックを通常日予想の3倍以上使った。
赤く塗らなくても、このスーツは3倍以上の働きをしたということだ。
ツノなんて飾りです! そんなの偉い人には、って言いたくなる。
少なくとも、オレの力じゃないな。このスーツの性能に助けられた。
何せ、身体的疲労がまったくないのだ。環境としても快適だったし。
とにかくAIも含め、感謝だ。それは忘れてはならない。
『感謝は不要です』
いえ、気持ちだけなので受け取ってください。心では土下座です。
返事はないので、肯定してもらえたものと受け取ろう。
では、あの二人を叱りに行こう。
仕事はほどほどに。
ワークライフバランスというか、プライベートも大切にしないと。
それを伝えるために。
「「売り上げ更新キター!!」」
……ノートPCでの帳簿付けは感心だが、万札の束で頬をたたきあう二人は、間違いなく変人。
天才とアレは紙一重を、常々その通りでやってくれるので、その点は諦めているが。
伝えるべきことは伝えておかないと。
しかしながら、AIの進化機能は凄い。
やはりいつかしゃべるんじゃないだろうか。
ちなみに、現在分かっているスーツの性能はこんな感じ。
システム面
・進化型AI
・万能型ナビゲートシステム(AI依存)
・情報データへの遠隔接続(強制接続含む)
・視界における仮想空間文字表示
スーツ機能面
・身体能力強化
・身体機能管理システム
・インナーマッスル訓練
・疲労軽減
・五感強化および遮断
後は、脳の機能の強化もあると思う。
他にも変身機能に使っているあの空間理論とやらを使えるようだが、何をどうすればいいのか。
疑問は多いが、おいおいAIに聞くとしよう。
ヒロシの資料では分かりにくいのだ。
何せ、最後のあたりになると「もうとにかくあれで大丈夫」とか「以下略なので理解するように」とか、最終的には「察しろ」「使ってみれば何とかなる」。
それで分かったら、オレも変人の仲間入りだから分かりたくない。
悩みは、尽きない。
後半は、異世界人についてです。
でも、戦いません。先に謝罪します。