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異世界で、変身ヒーローやりました。  作者: ヤガミタケト
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4話 結成、ヒーローが作る喫茶店。

どうも考えが煮詰まってきた。

かといって、この水を飲む気はない。


「ごめん、普通の水を」

「アヤくん、私にも頼む。普通でいいから水道水でいいから、工夫はいらないから」

「……あーい」

間があった返事だが、普通の水が来ることだろう。

たぶん、異世界であっても水は水だ、と思う。

「確かに、不審なのは分かる。情報が私だけでは信じにくいだろう」

と、どこからかヒロシがリモコンを取り出して、虚空へとボタンを押す。

テレビの電源ボタンだったのだろう。後ろななめ上にあった大型薄型テレビの電源がついた。


『昨日未明、異世界人と思われる集団が銀行強盗を行いました……』

「なかなかなタイミングだな」

「ちょっとリモコン貸して」

ヒロシの持っているリモコンを即座に奪い、他のチャンネルに変える。

どうやらビデオ録画というわけではない。

残念ながら知っているテレビ番組はないが、昼時ということもあってワイドショーかドラマの放映ばかりだ。

コロコロとチャンネルを変えるが、テレビのテロップでたまに、『またも異世界人か』と書かれていると、ヒロシの話に信憑性が増す。

ただ、テレビの話を聞いていると、相当異世界人の鎮圧には力がいるらしく、捜査は難航とか暗礁に乗り上げるとかコメンテーターやナレーションが意見を述べていた。


「まあ、こういう現状だから異世界人は迫害、いや、よく思われてないわけだ」

わざわざ言い換えなくても。異世界人であるオレを思って変えたのだろう。


「犯罪の全部が異世界人じゃないだろうに」

「だが、凶悪な犯罪には必ず関わっていることは分かっているからな。組織にいたからこそ、分かる」

なるほどな。中にいるからこそ把握できることもある。

「行っていたことの詳細までは分からないが、科学者部門にいた私だからこそ、作戦に必要な道具の開発だとかは請け負っていたこともある」

悪の片棒を担いだのは自覚しているさ、とため息を吐きながらぼやく。

テレビの方向でもなく、虚空を見上げているヒロシは無表情だ。

だが、今まで表情のあるやつが無表情というのだから、それなりなつらい思いはあるのだろう。


「過去の清算など出来はしないし、組織にいたことを後悔するつもりもない」

「だが、組織を潰す」

「そうだ。いつか来る、災厄の時。それを手をこまねいてみているわけにはいかん」

「戦争か」


この世界の住人、対、異世界からの来訪者、という構図になる。戦争は、人が死ぬのを正当化する。

例え後の世がどう思っても、戦時中は、敵を倒せば正しいのだから。


「いや、異世界人の能力がもし、ヒロユキの言う『スキル』というのであれば、戦争にはならない」

「おい、この世界の人間で太刀打ちできないってことか」

「ああ、……殺戮だ」


ふと思い出したのは、進化という流れについてだ。


スキルを持つ、ということがいわゆる人間の進化した姿という理論を掲げる小説があった。

その小説の一説から引用すれば、進化とはこういうことらしい。


長い歴史から見れば、進化の過程において、劣等種の淘汰は必要だろう。

例えば、ネアンデルタール人とクロマニョン人は別人種だ。

あくまで一説にはなるが、ネアンデルタール人からクロマニョン人に進化したわけではなく、従来種であるネアンデルタール人が、外来種であるどこからともなく現れたクロマニョン人に淘汰され全滅した、というものがある。

淘汰の理由は環境の適応能力など、挙げればきりはない。

が、そういう歴史の転換期、と見てしまえば、仕方ない、で終わるかもしれない--。



淘汰=殺戮と置き換えれば、進化した人類である異世界人が旧世代である現世界人を殺すのは、

進化という考えではありえるのだろうが、殺されるほうはたまったもんじゃない。



とにかく、ヒロシのやりたいことは分かった。

そして、オレが望むのは、少なくとも、人が死ぬことじゃない。例え、進化の過程だとしてもだ。

人は殴りたくない。暴力反対だし。

戦争なんてごめんだ。

でも、率先して自分が傷つくなんて、それもなんだかいやではある。

ヒロシの言いなりになるのもごめんだ。

悪いが、オレはどちらにも肩入れできない。


「ヒロシ、正直に言って欲しい。異世界人を殺し尽くしたいのか?」

「ああ。それで世界が平和になる。少なくとも犯罪率は減少するぞ」

即答かよ。しかも真面目に言うとは。しかも危ない思想だろ、それ。

どこの過激派か。

「オレも異世界人ですが」

「ヒロユキは協力者だ。全てが終われば、英雄だ。転送する技術も特急で行うさ。何だったら特別にこの世界の住人として帰化してもいいんじゃないか?」

「……じゃあ、だめだ」

「なぜ! いい条件じゃないか! ヒロユキ、お前はヒーローだ! 他の異世界人とは違う! 私が認めよう、お前はいいやつだ! 確かに私の想定とは違い、戦闘員から逃げた! だが、それは他のやつらとは違う! 争いを好まず、冷静に誰も傷つかないことを考えるなど、他のやつらにはない行動パターンだ! それは平和を愛することだ! 平和を愛する心があるなら、平和を守る思いもあるはずだ!」

椅子を後ろに倒すかのように、立ち上がり、歩き回りながら、身振り手振りを入れて大声を上げる。

そして最後に、仁王立ちでオレを指差す。


どうやらヒロシの決めポーズは、仁王立ちして指差す、だな。


「アヤ、水まだ?」

「あんた、マスター完璧に無視してその行動取れるのは凄いと思うよ」

はい、水。と貰った新しいグラスに入った氷水を、一口つける。


あ、水だ。普通の水なのに、さっきよりうまい。


「で、私の話はどうだ」

マスター、水です♪ と機嫌よく渡される水を一気飲みするヒロシ。仁王立ちのままで、もう一杯頼んだ。

「ある程度、オレの分析もしているなら分かると思うが」

「ん?」

「できれば、共存したいってのはオレのわがままになるのか? 争わないって言うならそういう方向もありなんじゃないか?」

「甘い! 甘すぎる! 何その砂糖とガムシロ混ぜて蜂蜜まぶした後、ザラメ入れてよくかき混ぜた後サッカリンまぶして、って口に入れた途端に、虫歯になるわ! 糖尿病だ! 死因は甘くて死だ!」

あ、アヤくん、も一杯水もらう! ってどんだけオレの考えは、ヒロシに言わせるとスウィーティーだったのか。

「って、ヒロユキの考えはそうなるだろうからな。そこは妥協するさ。だが、いつか分かるだろう。私の言うことは正しいと、な」

「あー、まあ、そこはどうだか分からないから。とにかくオレの考えが分かってるなら、さっきの演技は不要な気がするけど」

「形式美だ。ともかく、世界の現状は話を続けても分からんだろうし。そちらは時間が解決してくれるだろう。さしあたって、今後しばらくの方向性を確認しよう」

アヤもカウンター向かいの席に座る。って自分だけオレンジジュースかよ。

「まずは、喫茶店を本格的にオープンする。明後日くらいからだ。申請は済んである」


は?


「私はコーヒーや飲み物を担当しよう。アヤくんはウエイトレスとレジ。ヒロユキはすべてだ」


おい。


「基本、私は研究があるので担当が出来ないときはヒロユキだ。アヤくんも雑用もあるからな」


待て。


「私のプランは完璧だ。まずはこの喫茶店『うまかるカフェ』を軌道に乗せるぞ」

「どこが完璧だ! なんだそれは! 世界の危機とか関係ないだろうが!」

「何を言うか! 世界の危機の前に、私たちの生活の危機! 私たちを救えず世界など救えるか!」

ちなみに、うまくて軽食とれる喫茶店、なので『うま・軽・喫茶店』=『うまかるカフェ』らしいが。

そんなことはどうでもいい!


「なんでオレが全部担当するんだ! 喫茶店の経営なんて分からないぞ」

「大丈夫だ。この『サルでも成功する経営術! ~喫茶店をつくろう~ 漫画版』がある」

カウンターにどこからともなく出される一冊の漫画本。やけやたらに厚いが。

しかし、用意いいね。どうやらカウンターの裏からアヤが出したみたいだが、オレの反応は想定済みか。

「それにしばらくの預貯金はあるからな」

「生活の危機じゃないのか?」

「ハハハハハ! 何を言うか億単位の金があるが、私の研究はいつか世界を食い潰すぞ」

「研究するなよ! 億単位があるならまず生活の危機じゃなくて世界の危機優先しろよ!」

というか世界を食い潰す研究をやめたほうが、世界のためじゃないか?

と思ったが、ヒロシの比喩表現だろう。アヤも「素敵です、ハカセ!」って言ってるし。

「あ、あと、ユナイドライバーの説明と変身後のスペックについて渡しておくから、こっちを先に熟読しておくことだ」

「そっちのほうが重要だろうが! というか経営するより、そっちに慣れるほうが重要だろうが!」

なんだかツッコミ担当になっているが、スルーするととんでもないことになる。

大切なものを失う、そんなスルーはごめんだ。

「私の経験上、経験は実戦で培われると」

「いきあたりばったりでヒーローできたら、誰も苦労しないと思う!」


仕事もそうだが、何事も訓練や事前の準備などを行って実践する。

そして、その後にでた問題や疑問を解決するために検討を行い、また次の実践時に行う。

そういうのが欠落していると、大事故の元だ。

何事も、やりました終わりましたではいけないのだ。


「まあ、確かに私は天才だから仕方あるまい。では、早速今から変身して活動開始だ!」

「人の話を中途半端に! ちょっと待てって! アヤ! お前も何か言え! おかしいと思わないのか!」

「ハカセ、最高です! 早速働きましょう!」

だめだ! 聞きやしない!

事務仕事よりも、なんだか、疲れるぞ。


もうどうしようもないので、変身してそのままカウンター席で説明書やらを読むことにする。

変身しろ、とヒロシがあの後もうるさかったので、仕方なしに、だ。

アヤは「瞬間であの姿! さすがハカセ! 想定どおりですね」って知ってたのかよ。

今、あの二人は、地下にある研究所? で機材チェックやら何やらで忙しいらしい。

かなりうるさいようだが、オレはこのスーツの機能の一つ「騒音防止」を使っている。

オレの思考とリンクしているようで、強く思うと視界に半透明ディスプレイのような画面が出てきたのだ。

で、「使用しますか?」と聞かれたので、無言で肯定の意思を思うと、機能した。

イヤホンなどに搭載されているノイズキャンセラ機能だな、これ。

他にも、説明書の最初のあたりにあったが『リラックス音源・川のせせらぎ』とかもある。


変身スーツにいるのか、この機能は? と思う無駄機能が、結構多い。


ちなみにこの説明書、ドライバーと能力説明で1000枚越えてる気がする。

コピー機に入れるA4の紙束が1束で500枚あるが、2束よりも多い目算だ。


この変身スーツのおかげか、かなり読むのは早いように思えるが、それでも100枚は読めたかどうか。



……早く帰りたい。

オレのカバンとともに。



1日は、まだ、長い--。


主人公がまだ、変身スーツについて理解をしてないので、

スペックについては次か次々の話で。

閑話は、喫茶店のメニューについてです。

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