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第48話 ポニーテール

「……おいおい、大丈夫かよ?」


 足を止めてしまった俺に優希さんは掠れた声を掛ける。


「す、すいません。大丈夫です……」


 後は階段を登れば地上だ、という所でそう呟く。


「……本当はな、お前達の言った通り、星灯とは戦いたくなかったんだ。でも、このやり場の無い怒り。怒りは原因を知っていた。なら、ぶつけるしか無いじゃんかな。……だからさ、謝っといてくれ、お前は私の妹だよ、って」

「優希さん……っはい!」


 階段を半分まで登った所で、足を止めた。地上からの地響きが伝わる。


「早く正門へ回れ! こっちは、良い! これ以上、侵入者なんざいないだろうからな。全員、正門へ回れ!」


 地上から聞こえる力強い声。

 正門と言えば、他の皆がいる方だ。頑張ってくれてるっ!

 様子を見つつ、地響きが止むのと同時に俺は地上に出た。


「直ぐそこに、菫花の家があるのでそこで軽く手当させてもらいますね」

「……現クロスプリンセスか」


 菫花の家に着くと優希さんは、


「クロスリリース」


 そう言って、椅子に腰掛けた。


「ちょ、優希大丈夫?」


 こちらの世界に戻った楓が優希さんの傷に声を上げる。


「後はこいつにやってもらう。お前はもう、星灯の所に行ってやれ」


 優希さんなりの気遣いなのか、何もして無い内にそんな事を言われてしまう。更には、楓に背中を押され、菫花の家を追い出されてしまった。

 外に出ると、楓は扉を閉めた。


「あ、あのさぁ、星灯に伝言頼んで良い?」

「……優希さんと同じ事を言うんだな。言っておくけど、優希さんは先輩のお姉さん的な存在だから、敵意を示さないけど、お前は嫌いだ」


 元クロスなのに、散々星灯先輩を裏切って、馬鹿にして――、


「だから……っ、こっちだって、星灯にはやりすぎたってか謝るよ。でも、もっと星灯の事知りたかった……言っといて。何を間違えたんだろうね? って」


 その後直ぐに扉が閉まった。何だよ、あいつ。泣きそうな顔で笑ったりして。

 でも、そっか。皆、それぞれに思いを抱えてて――俺たちだけじゃないんだ。なら尚更、人間殲滅、阻止しないとな。


 俺は先輩の所へと急いだ。



 ☆☆☆



「ごめんね、月灯? 逃げたりして」


 菅原虹波が広場を去った後、独り言の如く呟く。

 返事は求めていなかったし、ただただ言いたいだけだった彼女は、返事を待たずに目の前に見える出口へと向かった。


「星灯。私は君の思いを踏みにじったよ」

「優希さんの事?」


 月灯は答えなかった。


「うーん、それならね、やっぱり……ありがとう、かな? だって、優希さんが優しい優希さんに戻ってたもの。私の背中を押してくれたもの」

「ふふはっ……君には適わないや。力が必要なら呼んで! 星灯を守るためなら、絶対に力を貸すから」

「……っありがとう!」


 名寄星灯は一度足を止め、ポケットから髪ゴムを取り出すと、ポニーテールに結く。さらっ、と銀髪が揺れる。

 再び、足を進めた。


 これは、彼女がまだ小さかった頃、優希がしてあげていた髪型だった。

 名寄星灯なりの、優希へのけじめなのだろう。

 優希の力はもう借りないという――。

 

「おっと、足音がするみたいだよ」


 月灯に言われて、足を止める。


「うん」


 今の彼女は戦えない。クロスの菅原虹波が近くにいないのだ。隠れてやり過ごす他無い。


「行ったみたい」

「ありがと。……じゃあ、行こうか」



 ☆☆☆



「先輩!」

「虹波君か……」


 星灯先輩は広場を抜けた所にある、上へ続く階段にいた。

 もう少しで普通の部屋に出る、という所で、ずっと身を潜めていたみたいだ。


「先輩、優希さんと楓から伝言なんすけど」

「うん?」

「優希さんからです。ごめん、お前は私の妹だよ……だそうです」

「っ……うん。そっか」


 今まで、見たどの先輩の笑顔よりも、今のこの笑顔が一番綺麗だ。嬉し涙で、潤んだ瞳には色が無いけれど、先輩には――先輩の心には暖かい色が溢れている。


「楓からの、伝言です。……何を間違えたんだろうね? だそうです」

「こ、虹波君! 楓がそう言ったの? 本当に?」

「はい、そうですよ?」


 俺の言葉を聞くなり、涙は溢れ、頬を伝った。


「そっか、そうなんだ。……虹波君、ありがとう」


 どこか切なさの入り混じった、優しい声で先輩は告げた。


「この先はどうなってるんですか?」


 気持ちを切り替え、作戦を立てようとする。


「確かこの先は、地上三階の部屋に続いてると思うの。部屋を通って階段を上る、っていうのを繰り返して……六階まで行くと王室」

「六階ですか。結構ありますね」

「でも、多分全ての階に敵が居るわけじゃないから……。それに、皆とも合流できると思うから」


 どんな敵がどれだけ居ようとも俺たちが倒さなければいけない事に変わりは無い。


 先輩が俺の名前を呼ぶ。


「はい」

「クロスエンフォース!」

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