プロローグ ー大切な人ー 幼馴染視点
俺は幼馴染である葉月優海と少し大きめのデパートに来ていた。
今日で夏休みが終わり、明日から新学期が始まる。
高校2年生の俺たちは少し前まで終わらない宿題と戦っていた。
せっかくの長い休みなのに宿題を出すのは勘弁してほしい。
まぁ、俺が計画的に終わらせなかったのもいけないのだが。
今、本当であれば俺の家で勉強会をしているはずだった。
それなのにデパートにいるのは2週間前に終わってしまった俺の誕生日と関係している。
時は遡り、1時間程前―
「あー!大和の誕プレ買ってない。それにお祝いもしていないじゃん。ねぇ、今からやらない?」
机を勢いよく叩き、こちらに身を乗り出してきた優海に一瞬身構えてしまった。
どうやら俺の誕生日パーティーをしてくれるようだ。
優海は今思い出したかのように言っているが、ものすごくわざとらしい。
前々から用意してくれていたのだろう。
「俺は嬉しいから別にいいけど、優海の宿題はどうするんだよ。俺よりも全然終わっていないだろ」
「宿題なんざ後回しでいいのだよ、大和くん。もうお店予約しちゃってるからさ、早く行こ!」
「わかったよ。今日だけだからな」
「やったぁー!ありがとう、大和!」
という感じで優海に連れてこられたわけだ。
宿題は今日の午前中に終わらせたかったのだが仕方ない。
徹夜で頑張るか⋯。
優海とは幼稚園から高校までずっと一緒に過ごしてきた。
単刀直入に言うが、俺は優海のことが好きだ。
多分、片想いだと思うけれど。
少し茶髪で長い綺麗な髪に、大きく優しいトパーズ色の瞳、少し高い背。側から見ても、ずっと一緒にいる俺からみても可愛いのだ。
そんな優海に変な虫がつかないよう、ずっと睨みを効かせてきた。
当の本人は彼氏ができない、と嘆いていたけれど。
それでも俺は臆病だから、13年間告白できずにいる。好きな人の前では、素直になれないみたいだ。
そんなことを考えていると優海の足が遅くなった。隣を見ると、優海はアクセサリーショップのショーケースに目を奪われていた。
「どうしたんだよ、それが気になるのか?」
「うん、そうなの。これペアネックレスなんだけど、めっちゃ綺麗じゃない?」
赤ん坊のような可愛い瞳でじーっとみつめてくる。
ネックレスは優海の瞳の色と少し似ていた。
これをお揃いにしたいんだろう。
「いいよ。だめって言っても聞かないだろ」
「さすが大和。わかってんねー!じゃあお会計してくるわ」
やっぱり欲しかったみたいだ。
買ってきてはすぐにネックレスをつけた。
首につけたそのネックレスはとても似合っていた。
「大和もつけてみてよ」
そう促され、つけてみる。
「どう?似合ってる?」
「めっちゃ似合ってる。二人でお揃いだね!」
「⋯可愛い」
「ん?どうかした?」
「い、いやなんでもない」
危ない、心の声が漏れていた。
可笑しそうに笑う優海を見て、胸がキュンとしてしまった。
俺は昔からこの笑顔に弱い。今日もこの笑顔が見られるのなら、とついてきてしまったし。
そして俺が優海のことを好きになった理由の1つでもある。
人を幸せにすることができる顔だ。
俺がこのネックレスを何があっても手放さなくなったのは、この瞬間からだったのかもしれない。
その後、優海が予約してくれていたレストランで夕飯を食べた。
「今日はありがとな。でも良いのか?優海の奢りで。生活費とか大丈夫なのかよ」
「いいのいいの。せっかくのお祝いなんだから私に奢らせてよ。母さんたちからの仕送りで生活には余裕があるし、バイトもしてるから」
「じゃあお言葉に甘えて」
食べ終わったあと、二人で少し歩いてから帰路に立った。
「今日は楽しかったね」
「あぁ。次は優海のお祝いだから楽しみにしてろよ」
「うん―」
急に映像が途切れた。
意識がぼやけ、先ほどまでのふわふわした感覚ではない、生きている感覚が伝わってくる。目を開けると、懐かしい匂いはもうそこにはなかった。大好きな笑顔はどこにも見えない。
見えるのは夜営用テントの中で眠る仲間の寝顔と炎の消えた焚き火だけであった。
それが認めたくない現実を思い出させてしまう。
「夢、だったのか⋯」
今見ていたような時間がずっと続いてくれたらよかったのに。
これが現実じゃなくて夢だったらよかったのに。
そう思い、身体を起こす。
夜番の最中に居眠りをしていたようだ。
それにしてもすごく懐かしい夢をみた。
幸せだった5年前の。
優海が見つからない絶望的なこの状況で。
「なんで今なんだろうな⋯」
とめどなく溢れる涙を拭いながら、お揃いのネックレスにそっと手を触れた。
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