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Case.96 画面の向こうの歌姫

……………………


 ──Case.96 画面の向こうの歌姫



 夜ノ街アソビのグッズ販売会場には大勢の悪魔が列を作っている。


「グッズはおひとり様各種1点のみとなっておりまーす!」


「列を崩さないでくださーい!」


 ヴァレスが言ったように夜ノ街アソビのアクスタやぬいぐるみなどなどの様々なグッズが販売会場にはところせましと並んでいる。

 それから会場には何やらスクリーンが準備されていた。

 何か放送するんだろうか?


「購入の際には悪魔の方はID提示にご協力願いまーす!」


 並んでいる悪魔のほとんどは登録悪魔らしく、IDを提示している。

 それから……アソビちゃんクイズなるものに参加していた。


「アソビちゃんの世界で2番目の好物は?」


「グラタンコロッケ!」


「正解です。購入手続きに進まれてください」


 クイズは恐らく転売目的での購入防止なのだろう。

 それを考慮しなければいけないぐらい、アソビってのは人気らしい。


「ヴァレス。お目当ての品は買えそうか?」


「たぶん……。品切れにならなければ……」


「祈るしかないな……」


 行列はまだまだ続いている。

 CD目当ての悪魔も多いようだし、買えるかどうか。


 しかし、不安は何とか解消された。

 奇跡的にヴァレスまでCDがギリギリ残っていたのだ。

 残り2枚という状況で、ヴァレスはCDをゲット。


「やったー!」


「あとはクイズとお会計だな」


「ええ!」


 俺たちはヴァレスを連れてレジカウンターに。

 レジカウンターにはゴツいミノタウロスの店員が待っていた。


「アソビちゃんクイズです。アソビちゃんが思わず食べ過ぎてしまったと反省した地球の食べ物を3つ挙げてください」


 ……いや、こんなクイズ、分かるやついるのか?

 俺は心配になってヴァレスの方を見るが、やつは余裕の様子だった。


「グラタンコロッケバーガー、カツカレー、そしてハムカツ!」


 ヴァレスはさっとそう答える。

 ……何というか揚げ物率が高いな?


「正解です。どうぞ購入手続きに進まれてください」


 ミノタウロスはにこりと笑ってそう言い、人間のレジ係が会計を始めた。


「やったー! やったぞー!」


「よかったな」


 アソビのイラストが描かれたCDを手にぴょんぴょんとはしゃぐヴァレス。

 推し活も傍から見ている分には楽しいものだな。

 実際にやったら金がかかりすぎるんだろうけど。


 俺たちがはしゃぐヴァレスを見ていると、会場に広げられていたスクリーンに映像が映された。


『やっほー! アソ友のみんなー! 元気にしてるかーい!』


「ああ! アソビちゃんだ! まさか、生配信!?」


 にこにこと笑う二次元少女の顔がスクリーンに表示されると、ヴァレスがそう叫ぶ。

 いや、驚いているのはヴァレスだけではないようだ。

 他の客たちもびっくりし、同時に笑顔でスクリーンに手を振っている。


『みんな、今日はグッズ販売に来てくれてありがとうー! お礼を兼ねて今日は歌って踊っちゃうよー!』


 そう言うとカメラが引き、アソビの全身像がスクリーンに表示される。


「アソビちゃんのダンス配信!? マジで!?」


「珍しいものなのか?」


「珍しいよ! 凄く! レア中のレア!」


 ヴァレスは大興奮の様子で会場も沸き立っている。

 そんな中で俺とカリギュラはぼんやりとスクリーンを眺めていた。

 歓声を上げるほどではないが、ヴァレスがここまで入れ込むVtuberというのも興味がある。


『いっくよー!』


 それからアソビは歌い、踊り始めた。

 その歌声は……脳みそに響く感じで……俺はこの歌声に少し心当たりがあった。


「これ、もしかしてセイレーンの歌声か……?」


 セイレーン──。


 美しい女の姿で現れ、その魔法のかかった歌声で相手を惑わす悪魔の一種だ。

 歌による心理戦の達人とも言え、地獄戦争中ではやつらの歌声が聞こえると警戒したものだ。


「そうみたいだな。恐らくはセイレーンだろう」


 カリギュラは全く影響がないらしく、平然としている。


「まあ、正体がセイレーンだというなら、この人気もある意味納得か」


 まだ正体がセイレーンだと断定できたわけではないが、もしセイレーンならその歌声で悪魔たちを魅了するのも分かるというものだ。


「しかし、切れのいいダンスだな」


「あれぐらいなら俺様でも踊れるぞ」


「嘘つけ」


 俺とカリギュラはヴァレスと一緒にアソビの生配信を眺めた。


『ふう! 今日は楽しかったねー! 次は夜の配信で会おう、アソ友の諸君!』


「おおおおーっ!」


 会場は大盛り上がりでヴァレスも満足した様子だ。


「なあなあ。買い物が終わったならそろそろ帰ろうぜ。時間ごとに料金が発生しているんだからな?」


「ああ! 今日は本当にありがとう、便利屋さん!」


 飽きてきたカリギュラの提案にヴァレスは頷き、それから俺たちはデパートを出た。


「夜ノ街アソビ、か。今日の夜に配信があるなら見てみるか。暇だし」


「なんだよ、阿賀野~? お前も魅了されたのか~?」


「違うよ。好奇心、好奇心」


 俺はそう言い、カリギュラとともに自宅に帰った。


 しかし、その夜にネットを見てもアソビの配信はなかった。



 * * * *



 ヴァレスのグッズ販売に同行してから2日後のことである。


「……依頼のメールが来ている」


「何の依頼だ!?」


「直接話したいとしか書いてない。とある芸能人のマネージャーだとか」


「芸能人! 面白そうだな! 受けようぜ!」


「どんな仕事かも分からないのに受けられるかよ。とりあえず会って話してみよう」


 そう言って俺がメールを返信すると、その日の午後に依頼人が現れた。

 依頼人は気真面目そうな風体の若い男性と──赤毛のセイレーンだ。

 セイレーンの方は憂鬱そうに俯いている。


 この前セイレーンの歌らしきものを聞いたあとでセイレーンに会うとは奇遇だな。


「どうも初めまして。私、こういうものです」


 そう言って名刺を差し出す男性。


「スタジオ・パンデモニウムのマネージャーの吉田吉広さん」


「はい。ご相談したいことがありまして。いいでしょうか?」


「まあ、とりあえず中へどうぞ」


 俺は事務所の中に吉田マネージャーとセイレーンを通す。


「それで依頼というのは?」


「実は……当社所属のVtuber──夜ノ街アソビの抱えているトラブルを解決してほしいのです」


……………………

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