気絶していた間に説明されていたこと
宇都宮は4か国語を話せるマルチリンガルだ。
髪を金髪に染めている陽気な正確な持ち主だ。
身長は俺よりは低いが、筋肉質ってこともあって肉体の威圧感はある。
確か今海外へ留学していたんじゃなかったけか。
SNSの<CONNECT YOU>では海外ならではのオープンな投稿が多くを占めていた気がする。
「なんて説明したらいいんだろう。なんか──」
私も衝撃的だからあまり理解できていないんだけど、と前置いて続ける。
「私たち全員、拉致されたみたい。」
「拉致…?」
拉致ってあの身代金とかが要求されるあの?
ドラマとかでよく見るあの?
普段からテロリストや犯罪分野に突っ込む仕事をしているが、実際に自分が拉致されたなんて実感はない。
頭の上のクエスチョンマークが見えたのだろう。
宇都宮が続ける。
「思ってることは多分同じ。私は拉致された記憶がない。
いくら留学先が陽国よりも治安が悪いといっても。」
「じゃあ、どうやって…」
「わからない。ただ、犯行者は身代金とかを要求して『いない』みたい。」
「じゃあ、狙いは何だ?」
ここで若干の沈黙が走る。俺と同じくこの場で起きていることのすべてを理解できていない、そう顔に書いてあった。
「どこから説明したらいいものか。ゲームマスター?は私たちに人狼ゲームをやるように指示してきた」
「ゲームマスターって──」
誰だ、と聞こうと思った瞬間に宇都宮に制止された。
まだ、話の途中だと言わんばかりに。
「とにかく人間の声じゃなかった、多分人工音声なんだと思う。だからだれが黒幕なにかはわからない」
思い返すだけで寒気がするのか。それともただ単に居酒屋が寒いからか目の前の宇都宮は腕を組んで寒いようなジェスチャーをする。
「人工音声が言うには、私たちのなかに人狼役のAIが居るって。人数は10人。」
なっ──
AI!?
その言葉に反応して辺りを見渡すが、周りにいるのは人間ばかり。
ヒューマノイドロボットなんて目につかない。
「一体だれがAIなんだ?」
「そんなのわかったら苦労しない。だから、人工音声が言うには、私たちが自力で人狼役のAIを見つけ出さないといけないって。」
愛聖の言うことを頭の半分で聞きながら、もう半分で考えてみる。
ここにいるクラスメイトは30人。
うち人狼役のAIは10人。
つまりは、差し引いて20人の人間がいる。
通常の人狼ゲームとルールが一緒なのであれば、市民の役割を持つ人間が勝つためには、最速で10日かかるということになる。
そうやって考えていると途方もない時間だ。
「これが悪戯って言う可能性は?」
「それも考えたんだけどね。」
愛聖は居酒屋中央の通路に立つ幸司郎の方へ向く。
「彼が歩いちゃったからね。」
愛聖の話を詳しく聞くと、幸司郎は人工音声の説明の後、
彼の足が不思議な光に包まれて足が全快したらしい。
その直前まで松葉づえが無ければ、歩けなかった幸司郎が、だ。
──その辺のよくあるデスゲームとは違って誰かが死ぬことはないんだな。
デスゲームで
うっせえ!信じられるか!俺は帰るぞ!!
って言って見せしめにゲームマスターに殺されるお決まりのシーンってあるはずなのだが、
今回そう言うものはなかったようだ。
大体、状況はわかってきた。
「それで人狼ゲームはいつから始まるんだ?」
「明日の10時からだってさ。」
ため息交じりに宇都宮が言う。
明日ってことは──
「わかった?このゲーム。マジで最短で10日かかるらしい。」
現実世界に戻るには10日間誰がAIなのか疑いながら過ごさなければならないってことか。。。
半分現実のような半分冗談じゃないような、
ただそんなふわふわとした感覚が俺の中に漂っていた。
「ところで、もういい?私も話したい相手いるのだけれど。」
「あ、悪い。説明ありがとうな」
大丈夫、そう言いつつ愛聖は去っていった。
俺は次に何をするべきだろうか。




