竜騎士の傍らに佇む母
竜騎士の嘆きの続きを思いついたので、書きました。
大粒の雨が城塞を濡らし続ける。
石造りの砦には湿気がこもる。
竜騎士である息子が血まみれで帰ってきた。
手には真珠貝のように、なまめかしく鈍く光る、平たい丸い物。
「あなた、まさか、聖竜様のお身体を傷つけたのではないでしょうね?!」
思わず悲鳴が上がる。
息子は昏い目を向けたが、口を開くことはなく自室にこもってしまった。
数日が経ち、息子は死に瀕している。
戦での名誉の負傷ではなく、あの雨の日、泥に潜む疫神の怒りを買ったのだ。
聖竜様の血を受けた土地神様がどう思われたのか。
その眷属の怒りは当然のことだろう。
息子の恋人の聖女は「ひどい! 裏切りだわ!」と泣きわめいて、治療を拒否している。
神官は、竜騎士の誓いを破った者に、神のお力を借りる治癒は施せないという。
無力な母は、愚かな息子を眺めるしかできない。
雨はとうに止んで、大きな火柱が立った。
息子は聖竜様を見送ることができなかった。
激情に飲まれた、自らの愚かさのせいで。
息子があの日手にしていた、美しくも禍々しい鱗は、すでにここにはない。
聖竜様のお身体と共に、空に還ったのだ。
息子は死守しようと闘ったが、病で弱った体ではさしたる抵抗もできはしない。
ひと呼吸する毎に、魂のかけらが抜けていくようだ。
息子よ、これがお前が望んだ結末なのか。
梅雨の中、ジメジメとした気分を味わわせてしまい・・・お読みいただき、ありがとうございます。