第073話 何処にでもドア
自室に戻ったハジメは、ドローンの映像を見ながら考え事をしていた。
「うん……ひょっとしなくてもボス部屋だろうな……」
ハジメが愛読している指南書(属性:ラノベ)には区切りの良い階層にはボス部屋があるとされている。
5という数字に拘りが有るらしいダンジョン設計者にとって、第五階層はそういう区切りである可能性が高い。
「中ボスか或いはダンジョンボスか……どっちにしろ強いんだろうなあ」
ハジメの筋力・頑丈・敏捷は何れも一桁台である。
今のところ出てくる魔獣がスライムだけだ。
なので、筋力や頑丈・俊敏を底上げしても得にならないと考えていた。
「魔法を使えるようになりたいだけだし……」
そう考えて今は魔力に全振りしている。
方針としてMPを増やす目的で魔力、オーブ魔石狙いで幸運を上げていくつもりだ。
「まあ、ボス部屋を攻略しなくても叱られるってもんでもないしなあ」
一度様子を確認した後は放置しようと心に決めた。
危ないことに挑戦しない主義なのだ。
翌日、ハジメはドローンで見つけた扉のある広場にやってきた。
「あれか……」
石畳の広場にポツンと扉だけが立っていた。
「……」
ハジメは扉を中心にグルリと歩いてみる。
「普通は壁とかに埋め込まれているもんじゃないの?」
表にも裏にも何も無い。ただ扉があるだけだ。
扉の厚さは平均すると五センチ程度。ドアノブは厚みには入れていない。
「何か……一見すると普通の家の玄関ドアだよな……」
ハジメは扉を横から眺めたままで、指先でちょっと押してみた。
すると……扉全体がすぅ~と横に動いた。
「コイツ……動くぞ?」
ハジメは扉を押したまま広場の中を歩き出した。扉は何かに引っ掛かる事もなく動いている。
まるで下面に滑車でも付いているかのようだ。
「扉の下には何も無いよな……」
しゃがんで覗き込んだが滑車どころか土台すらなかった。
つまり浮いているのである。
「移動できるボス部屋……」
移動できることに、どんな利点が有るのか不明である。
意味不明な状態にハジメは戸惑ってしまっていた。
「……何処にでもドア?」
何だか某国民的アニメ(某になってない)に出てきそうな魔道具だ。
「持ち帰って部屋に飾って置こうかね?」
自分の部屋にダンジョンのボス部屋が在る光景はシュールで良さげである。
ハジメの厨二心を擽る物があった。
そんな事を考えているとカツンと何かにぶつけた振動が手に伝わってきた。
「何?」
移動先を覗き込んでみたが何も無い。透明な壁が在るのかと、回り込んで空間を手で探るが何も無い。
「ん?」
だが、床を見てみると薄っすらと魔法陣が見えていた。
「ああ、魔法陣の中限定で動かせるのね……なんで?」
ハジメは薄っすらと見える魔法陣を鑑定した。
名称:青狸の広場
機能:亜空間機能補助
状態:動作中
制限:無し
・五大魔蘇エレメント(聖霊有効・火・水・風・土有効)
・名称:ダンジョン名称(原初の迷宮)
・機能:魔蘇供出
・状態:稼働中
・加護:有効
・■■:■■■■■■
「いや、青狸って……」
ハジメはストレートな書き方に苦笑してしまった。
「狸じゃなくて猫だったはずだが……まあ良いか……」
だが、機能には亜空間機能への補助と書かれている。
やはり、目の間に有るのは亜空間に通じる何かだ。
「扉を鑑定……」
名称:キング・スライムちゃんのお部屋
機能:亜空間への出入り(資格が有りません)
機能覧に資格が無いと表示されていた。
これは第五階層の魔獣を必要数討伐していないせいだろうと推測される。
「あああ……やっぱりボス部屋じゃんか」
思っていた通りにボス部屋であったのだ。名称にキングとあるから違いない。
だが、ハジメが着目したのはそこでは無かった。
「亜空間への出入り口……図書館への出入り口と同じものなのか?」
そして着目したのはもう一つ。
「亜空間機能への補助って……」
魔法陣に書かれた機能の項目だ。
図書館も亜空間に作られていると書かれていた。
しかし、出入りには毎回入口を作成していた。
ところが目の前に在るのは扉である。
常に出現させて置くのに、相当量の魔蘇が必要なのであろう。
「維持するのに魔蘇を補完しないといけないって事だろうな……」
魔法陣で魔蘇を補完する事により、亜空間への出入口である扉が維持されている。
つまり、この魔法陣があれば、この場所以外でも亜空間へのアクセスが可能となるのだ。
これは図書館のような空間を、自在に出現させ操作出来る可能性を示唆していた。
「アイテムボックスが自作出来るかも知れないって事ジャマイカ?」
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魔石が有れば魔蘇の補給は可能なのは確認済みだ。
そして、ハジメは魔法陣を書くスキルは持っている。
つまり自作する環境が整っているのである。
「ふふふ……やってみるしかありませんねぇ」
エアメガネをクィっと上げながら呟く。ハジメの研究魂に火が点いたのであった。




