第046話 スライムの体液
翌日、ハジメはホームセンターに行って、耐酸性アルカリ手袋とエプロンを買ってきた。
靴も安全靴というつま先に強化プラスチックが入った物を購入。耐酸性があるかは不明。
足首には手袋を切って筒状にした物を靴下の上から被せる事にした。
「これで強酸対策は万全……だよな?」
と、言っても石斧で叩くような事はもうやらない。
ハジメが欲しいのは経験値であって戦う事ではないからだ。
「スリングショット……じゃなくてスリングライフル頼りになるな」
木の棒の先端にダンジョン石を取り付けて石矢を作成してある。
これをスリングライフルで打ち込めばダメージが通ると考えていた。
「よしっ行ってみよう」
ハジメは意気揚々と第四階層にやってきた。
装備は耐酸制服と盾代わりのフライパンにスリングライフルだ。
いっぱしの探検者のようである。
「確か……あの廃墟の中に居たんだよな……」
昨日、見かけた場所に行くとスライムが居た。
「スライムを鑑定……」
そっと近づいてスライムを鑑定した。
名称:ミューカス・スライム
HP:50/50
MP:0/0
状態:正常
「ミューカスって……まんまじゃん」
第四階層にいたのは、粘液スライムという捻りも無い名前であった。
だが、今まで現れたスライムの中では最強である。
「でも、HPが五十ってやっぱり強いんだな」
それでもハジメはスライム狩りを続ける。何とかして殲滅しないと次の階層に行けないからだ。
「……」
スリングライフルで慎重に狙いを付ける。スライムまでの距離は五メートル程度。
余り近いと粘液が飛んでくるので距離をとった。
ビンッ
石矢がスライムに刺さった。しかし、スライムは気が付かないのかモゾモゾと動いていた。
鑑定してみるとHPが1だけ減っていた。ダメージは通るようだ。
「でも、一本じゃ駄目なのね」
ハジメは次々と石矢を放つが、スライムに刺さるだけで黒い霧に変化する気配が無かった。
スライムがヤマアラシのようになった所で、用意してあった十本の石矢が途切れてしまった。
「くぅ……」
悔しそうな顔をするハジメ。スライムはモゾモゾと動いているだけであった。
するとスライムに刺さっていた石矢がポロポロと落ち始めた。
「何だ?」
近づいてみると石矢の先端が溶けていた。ダンジョン石の鏃はその場所に落ちている。
木のシャフト部分だけが溶けているのだ。
「うん、スライムの体液は強酸で出来ているのか」
やはり粘液は体液を飛ばしているものであったようだ。
その体液にシャフト部分が溶かされてしまったようである。
「刺さるということは攻略方法が在るんだな」
シャフトは外世界の物だ。むろんダンジョンで通用しないのは分かっている。
なので、ダンジョン産の石を削って鏃を作っていたのだ。事実、スライムに刺さっている。
「……待てよ?」
しかし、やり方を変えればどうだろうと思い付いた。
「スライムの体液が酸性だって言うのなら、アルカリ性の液体が有効になるんじゃね?」
以前にもアルカリ性の洗剤を使って見たことがあるが何も変化が無かった。
その時には表面にぶっかけただけである。なので通用しなかったのであろう。
「なら、鏃を注射針みたいに加工出来ないか?」
これならば、石矢で突き刺してアルカリ溶液を注入すれば、ダメージを与えるのではと考察したのだ。
「上手くいきそうな気がする」
石同士を擦り合わせれば削れるはずだ。
狩猟では無いので鏃に返しは不要。尖っていて突き刺されば良いだけなのだから加工は簡単に思えた。
「よし、やってみよう……」
ハジメは第一階層に戻ってダンジョン石の加工を始めた。
最初はダンジョン石同士を手でこすり合わせていたが遅々として進まない。
「手間が掛かり過ぎて日が暮れてしまう……」
そこで、ハジメは電気ドリルの先端にダンジョン石を接着剤で取り付けた。
すると面白いように削れていく。ただ、直ぐに駄目になってしまうので頻繁に取り替える必要があった。
「おおお……これは捗るな」
先を尖らせたダンジョン石には、一本の溝が作成されていて深さは三ミリ程であった。
取り付ける予定の針は、針と言うより美容液の注入キットから都合した金属パイプだ。
太さは一ミリ程度。要は中が空洞になっている筒が欲しかっただけなのでこれで事足りる。
注入はバネ仕掛けの注射器本体。石矢が刺さったタイミングで押し込んでくれるはずだ。
「よしっ試してみるか……」
新しく作ったシャフトに鏃針を装着させて第一階層のスライムで試してみた。
弓矢ではなく手持ちでぶっ刺してみる。この階層のスライムは触手も粘液も飛ばさないので安心だ。
最初はぶよぶよと動いていたがやがてパチンと弾けてしまった。
体液が中和されてしまったので、スライムの形を維持出来なくなったのだろうと考える。
「うん、一階のスライムはライフが低いから直ぐに弾けたたな」
思惑通りであった。スライムは打たれ強いが内部からの攻撃には弱いのだ。
新しく取得した知識にハジメはニヤリと微笑んだ。嬉しかったらしい。
「よしよし、石矢をもう少し作成しておくか……」
ハジメは試作版が上手く出来たので量産に取り掛かった。




