第027話 階層突破
「をを……」
ハジメは二階層と思われる石部屋にV字ポーズで現れた。
煤けた印象があった一階層の石部屋と違って、整然とした印象の部屋であった。
「二階……だよな?」
身体の中をヌルリと何かが通り抜けた感触があった。
きっと、転移をする時のショックなのだろうと思った。
(どういう理屈なのか分からないがダンジョンだし……)
物質が空間を転移するのは常識的に考えても無理がある。
考えても分からないものは『ダンジョンだし』の一言で済ましていく事にしている。
難しいことは偉い人に押し付けるに限るのだ。
「ふむ、一階の石部屋と変わらないな……」
周りを見渡すと転送されて来たのは同じような石部屋であった。
違いは一階層と違って石が散らばっていない事だ。
「一階が石だらけなのは壁にあった板状パネルが剥がれてしまったせいだったんだな……」
きっと、出現した時の地震で崩れたのだろう。
「構造も似たような物らしいし」
出入り口が見える。扉も無い所もそっくりであった。
部屋の外にはレンガのような物で作られた通路が見える。
外を覗いてみると何かがいる気配がした。
「……」
よく見ると変なコンニャクがポヨンポヨンしている。
「お前か……」
愛想を振りまいているのかと勘違いしたくなるほど、スライムはポヨンポヨンしている。
「また、スライムじゃん……」
スライム。
第二階層に降りたハジメが初めて目にした魔物であった。
「ゴブリンみたいのを想像してたんだがな……」
どうやら、この階層もスライムだらけのようだ。
一階層より強い魔獣が出現して経験値もアップと期待していたが違うようである。
ネット小説通りにはいかないもどかしさを覚える。
「まあ、探索は後にしてまずは帰還を試さないと」
来たのは良いが帰れないのでは非常に困ったことになる。
普通に考えれば、天井を掘っていれば一階に行けそうだ。だが、ここはダンジョンなのだ。
「きっと上手くいかない」
ハジメは苦笑いしながら呟いた。
ダンジョンが思い通りにならないのは良く知っているつもりだ。
なので、オーソドックスに今来た魔法陣を使って帰還を試みる。
先ほどと同じように魔蘇を放出するイメージで叫んだ。
「転移!」
何も起こらなかった。『転移』のキーワードだけでは駄目なようだ。
「え?」
一階から転移してきた時にはV字ポーズを決めていたのを思い出した。
「入口に転移」
先程と同じようにV字ポーズを決めながら叫ぶ。
やはり、駄目だった。
「なんだよ~二階に転移で行けたじゃんか~」
そう呟くのと同時に魔法陣が赤く光った。
「あえ?」
背中を嫌な汗が流れていく。普通に考えれば異常を知らせるサインであるはずだ。
ハジメは魔法陣を鑑定してみた。
何か拙い事をしたのなら、外世界に帰れなくなってしまうのだ。
すると『制限:同じ階層なので転移出来ません』と表示されていた。
「ああ、そういう事か……」
二階から二階に転移しようとしてると注意されているのだ。
ちょっとだけ焦ってしまったハジメは安堵のため息を漏らす。
「第一階層に転移」
魔法陣が淡く青色に光ったかとハジメは石部屋から消えた。
暫くするとハジメが現れた。無事に往復出来たようだ。
「そうか、行先をイメージしないと駄目なのか……」
ダンジョンに直に足を付けなくても転移は可能なようであった。
その証拠に靴を履いていた。
「そりゃそうだよな」
どうやらV字ポーズは意味が無かったらしい。変なポーズを取らなくても往復出来たからだ。
ちょっと惜しい気がしたのは内緒だ。
「エレベーターだって行先階のボタン押すしな……」
取り敢えずは他の階層への行き方は覚えた。
項目の説明では魔蘇を使うとのことだった。
だが、この魔法陣はダンジョンに直に書かれているので、今は無関係の項目であるようだ。
「うーん、まだまだ謎は多いな……」
見知らぬ知見を得る事が出来たのが、何より嬉しそうであった。
第二階層の探索は明日以降にするとして、今はシン・スライムプレスの事に専念する事にした。
「転移魔法陣を動かすだけの魔力は使えたと考えて良さそうだよな……」
魔蘇が注がれていないので休止中と在ったのに、転移が出来たのは魔蘇を入れることが出来たからだ。
それは魔力を使えたことの証左に他ならない。
「魔力が使えることが分かっただけでも儲けものか……」
きっと、上の転移魔法陣でやってみた魔法鍛錬方法が上手くいっているのだと思うことにした。
後は確認してみるだけだ。
「まあ、一歩づつ……だよな」
「一階に転移」
魔法陣が光るとハジメは一階に戻っていった。




