第022話 再び黒い渦
ハジメは次に自動化方法を考えることにした。
今、出来る方法はタイマーを使ってスイッチのオンオフだ。
「巻き上げ用モーターと制御盤が必要だな」
巻き上げ機は洗濯機のモーターを持ってくれば可能な気がしている。
他にモーターの付いている物と言えば扇風機だがパワーが不足してる。
今は板状パネルを五段重ねで使っている。重さは十キログラムだと思う。
その重さを持ち上げるのなら洗濯機のモーターでなければならないだろう。
制御機器は炬燵のスイッチを改造すれば良いと考えた。
ハジメの実家納屋の中には、型式が古くなった家電品が山のように詰め込まれいた。
捨てれば良いのに『いつか使うかも知れない』との謎のパワーワードで収納されているのだ。
土地だけは無駄にデカいので出来る方法である。
後、残る大問題は、ダンジョンは外世界の物質を吸収されてしまうという問題だ。
これは前に作った石斧が石以外の部分が無くなっていることから確かであろう。
これを回避するように工夫しないと、折角制作するシン・スライムプレス装置が壊れてしまう。
「草を縛り付けて置けば何とかなるかも……」
経験値獲得を伝える位なので、きっとダンジョン由来と勘違いするのだろうと予測していた。
だが、ここではたと気が付いたことがある。
「これって不要ごみを放棄仕放題じゃね?」
不穏な事を思い付いたのだ。
清潔好きな日本人はごみ処理の問題に頭を悩まし続けているのだ。
ダンジョンの中に放置すれば一日経てばダンジョンに吸収されてしまう。
しかも、無料で処分できてしまうのだ。
「んーーー……」
これは益々内緒にしないとイケナイ気がしてしまった。
「難しい問題はエロい人に任せよう……」
ハジメは自分の問題に取り組む事にした。考えても分からないことに時間を使わないのだ。
まず、納屋から不要になった物干し竿を持ってきて五センチ毎に印をつけた。
それをダンジョン内にぶっ刺して吸収される速度を測ろうと考えついたのだ。
「まあ、簡単な実験ですし……」
入口から見える所に物干し竿を立てる。
といっても外世界のスコップでは掘る事が出来なかったので、良さ気な石を使って掘り込んだ穴に差しただけだ。
「もう少し草が欲しいな……」
ハジメは草部屋に行く。
すると足元にスライムが居る事に気が付いた。
「あっ、逃走スライム」
後で始末しようと放って置いたのを思い出した。
「やれやれ……」
コイツを始末しようかと、ハジメは石斧を取りに戻ろうとした。
すると、スライムはプルルと震えだした。
「攻撃が来るのか!」
ハジメは身構えた。
以前、スライムの攻撃を受けた時には同じような動作をしたのを覚えている。
スライムが攻撃行動に移る理由は不明だ。
距離が関係してると思うが、スライムプレスを覗き込んだ時には攻撃は受けなかった。
なので、近い距離で叩くなどをすると攻撃してくるのかも知れない。検証が必要だ。
「ん?」
しかし、スライムはジャンプして来ない。身構えたまま、ちょっと首を伸ばしてみる。
「……」
スライムはぷるぷると震えているだけだ。
その妙な行動に石斧を取りに戻るのを止めて観察する事にした。
「んー、なんだろう?」
ハジメが不思議そうに見ているとスライムが光りだした。
光ると言っても眩しい光では無い。モアッと瞬くような光り方であった。
見ている現象はリポップの時を思い出せた。
「リポップした奴なのに、またリポップするつもりか?」
やがて、スライムの上に黒い渦が出てきたかと思うと、プルルンと震えて二つに分裂した。
「をーーーっ!」
両方のスライムはぷよぷよと動いていた。まるで最初から存在していたかのようだ。
リポップして一定時間が経過すると分裂して魔獣が増加する仕様が判明した。
「成る程、リポップした後に何もしないでいると分裂するのか!」
時間を見ると百二十五分程度だ。
ダンジョンの魔獣が増える様子が珍しく暫し眺めていた。
だが、ここで重大な問題に気が付いた。
「じゃあ、魔石は回収しないと無限に増えてしまうんじゃないか?」
ダンジョンの中をミッシリと埋め尽くすスライムを想像してしまった。
つまり、ダンジョンでは魔石を回収するのは重要な項目になる。
「それは、ちょっと拙いかもしれん……」
ハジメは考え込んでしまっていた。




