第023話 謎のハンドル
「釣りの要領でプレス板を吊るすか……」
物干し竿の先端に滑車を取り付けた。
そこから紐を伸ばして巻き上げ機に取り付けた。
ちょっとした装置になるのでダンジョンの中に設置したままには出来ないからだ。
「いちいち運び出すのも手間だしね……」
土台は使い古しの乳母車だ。父親が赤ん坊の時に使ってたらしい。
大きい車が付いているので使い勝手が良さそうだと運んできた。ついでに洗濯機も持ってきた。
洗濯機をバラしてモーター部分だけを取り出す。二層式の古いやつだ。
「このハンドルなんだろう?」
脱水槽の脇にハンドルが付いている。回すとローラーみたいなのが回転するのだが用途が不明であった。
昭和初期の家電品には謎が多いようである。
「まあ、良いか」
バラしたモーターに通電すると普通に動作した。
全自動洗濯に慣れると二層式は面倒なので使わなくなったのだ。
「まあ、家事の自動化は時代の流れだしね」
そんな事を呟きながら洗濯機をバラしてしまう。
「ああ、電気どうしよう……」
山の中なのでコンセントは無い。
「そだ、納屋から電線で引っ張ってこよう」
害獣対策用に畑の周りに通電させる装置がある。それに電気を配給するので長い電線が納屋にしまわれている。
埃を被るぐらい長いこと使ってないので平気だろう考えた。
「まあ、誰も使ってないから平気だろ」
そう思って納屋まで来たがふと思い出したことがあった。
納屋からここまでは千五百メートルといった所だ。長さが圧倒的に足りない。
「う~ん……」
ケーブルの束はどう見ても百メートルといった所だ。数十個買わないとイケナイ計算だ。
貧乏高校生には出来ない出費である。
「参ったな……おや?」
するとポータブル電源と書かれた段ボールを見つけた。
「あ、そういえばキャンプで明かりが無いと言われて買っていたっけ」
焚火の火で十分じゃないかと父親は主張していたが、『暗いのは怖い』との母親からの猛抗議で購入したものだ。
「使って無さそうだな……」
埃を被っている段ボールを見ながら、そういえば一度も使ったのを見たことが無かったのを思い出した。
「うん、これを使おう」
これがあれば当面の問題は解決する。ハジメはポータブル電源を内緒で使うことにした。
ポータブル電源に充電をおこなってからダンジョンの前まで持ってきた。
「やっと続きが出来る……」
洗濯槽側のモーターだと制御信号を与えないと上手く回転させることが出来無い。
だが、脱水槽の方は通電だけで回った。
「ちょっとしなっているけど大丈夫」
重さのためか先端が下に垂れ下がり気味であった。
「まあ、これが上手く行くようなら竿を二本にすれば良い話だし」
目的は重しをぶら下げてスライムをプレスする事だ。
装置の耐久性の向上では無い。
「よしー、巻き上げ!」
ハジメは板状パネルの塊を持ち上げた。
モーターはスルスルと持ち上げていく。荷重に問題は無さそう。
ところが、あと少しで想定した高さになろうとした時に傾き始めたのだ。
「え、え、ちょっと!」
止める間もなく板状パネルは下に落下してしまった。
シン・スライムプレスは前倒しで傾いてままだ。
「ああ、バランスが悪いのか……」
モーターの重みだけでは不足していたようだ。
ハジメは納屋から中身が空になった肥料袋を持ってきた。
祖父が施設に入ったので、もはや田を耕すことは無いが昔使っていた袋が沢山ある。
それを持ってきて土嚢代わりにするのだ。
「必要なのは創意工夫」
乳母車の中にモーターを置いてあるが、それだけではバランスが取れないのだろう。
土嚢を乳母車の中に積んで実験の再開。
「これで大丈夫……だよな?」
ポータブル電源側のスイッチをオンにするとモーターが回転してプレス部分を持ち上げる。
物干し竿がしなっているが順調なようだ。
「よし、巻き上げに成功!」
所定の高さになったらスイッチをオフにしてみた。
今のところグラつく様子は無い。
「シンスライムプレス……発射ぁぁぁぁ」
ストッパーを外すとプレス部が落下した。
ハジメが様子を見に行くとスライムたちは魔石に変わっていた。
「ヨキヨキ、考えた通りに動くことは出来たな」
後は工程を自動化させる方法だ。タイマーと連動させれば良いのだがやり方が分からなかった。
「腹減ったし一旦帰宅するか……」
このシン・スライムプレスはこのままにして帰宅する予定だ。
竿の部分はダンジョンの土面には接していない。
『空間にある外世界の物はダンジョンに吸収されてしまうのか?』
これを確かめる必要があるのだ。
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