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Wine・Red  作者: 雪白鴉
六章
75/78

73、カフェ

 朝、白井の部屋にアラーム音が鳴り響く。目を擦りながら起き上がり、アラームを止めた。

 携帯を開くとメッセージがたくさん溜まっていた。

 友達や家族からの「誕生日おめでとう」の祝いの言葉。一つ一つ開いて丁寧に返す。本日十月十七日は白井の誕生日である。


「・・・はぁ」


 すべてのメッセージに対して返した後、白井は大きくため息をついた。

 洗面台にって顔を洗い、髪をとく。ハンガーに引っ掛けてあった出勤用の服を来て台所に立つ。昨日の夕飯の生姜焼きとレタス、卵を取り出した。油で熱したフライパンにかき混ぜた卵を入れ、平べったい卵焼きを作り、レタス、生姜焼き、卵、レタスの順番でパンに挟み、ラップで包んだ。


「よし」


 残りのパンをトースターで焼き、その間にインスタント味噌汁を作る。本日の朝ごはんはこれである。

 朝ごはんを食べ終わった白井は、時計を見てから洗面台に向かい、髪をポニーテールに結い上げた。


 仕事の準備が整い、家を出た。

 少し歩いた先にバス停があり、しばらくするうちにバスがやってきた。いつもと変わらない日常の風景。いつもと同じ生活方法。今日もいい天気である。


 しばらくするうちにバスはホテルの前で停まった。バスを降りてホテルに入り、制服に着替える。


「おはようございます、白井さん」

「おはようございます」


 そこにいたのは昨夜の夜勤務の人だった。その人は白井に引き継ぎを済ませ、家へ帰って行った。

 その後、次々とスタッフたちがやってきて、朝礼に入る。


「本日、大手文房具メーカーの社長ご家族がいらっしゃる。担当でない者も失礼のないように」


 夜勤、つまりナイトシフトの人の引き継ぎと立てられていた予定を共有し、本日もホテルスタッフとしてのしが始まる。


「水瀬はまずワインセラーに行ってくれ。で、あとは・・・まぁ、わかっているだろう。やることは」

「はい」


 静かに返事をした水瀬は、朝礼が終わり次第、すぐにワインセラーへと向かった。

 それを見た白井は西野に問いかける。


「水瀬さんが朝からワインセラーに行くなんて珍しいです」

「なんか、ソムリエの資格を取得されたらしいです」

「そうなんですか!?いつの間に・・・」


 水瀬がソムリエの資格を取得したということは、もうロビーアテンダントの仕事をしないということなのではないか、と白井はあからさまに落ち込んだ。


「あ、でもロビーアテンダントの仕事は続けるそうですよ」

「あ、そうなんだ・・・」


 西野の気の利いた言葉に安堵した白井の横で、倉橋が「西野先輩ナイスです!」と心の中で思っていた。


 その頃、水瀬はワインセラーの扉を開けていた。ワインを貯蔵するための冷気が全身を覆う。

 シャトー・マルゴーに続くボルドー五大シャトーにアメリカのオーパス・ワン、イタリアのサッシカイア。もちろん赤ワインだけでなくシャブリ、ムルソー、ピュリニー・モンラッシュなどの白ワインも多数保管されている。

 水瀬にとってここは天国でしかないが、仕事である。保管してあるワインを調べ、不足している在庫は無いか、セラーの温度に問題はないかを調べ、新しいワインの仕入れも行う。


 そうやって思いのほかすぐに半日が過ぎていく。


 その頃だった。


「ここだね、ホテル・グランド・リリス」


 ホテルの前にやってきたのは三人組の若い女性。つまり、椎名真知御一行である。


「ほ、本当に来ちゃった・・・」

「会えるかどうかは望み薄だけど、行くっきゃないっしょ!」

「おー!」


 椎名以外の二人はなかなか乗り気である。そして、なかなか高級ホテルのカフェなんて来ないのだから、それはそれで気分が上がっているのだ。

 二重のガラスドアを通り、見えたのは煌びやかなザ・高級ホテルロビー。一般人など入る気の失せる圧倒的オーラ。ロビーで談笑している客も、スタッフも全員階級が上の存在に見えるのだ。


「で、カフェエリアってどこ・・・?」


 キョロキョロとまるで怪しい三人組。初めての場所で戸惑っているのだろう。

 そんな様子の三人組を見つけたのはワインセラーから帰ってきた水瀬だった。そしてその三人の真ん中にいるのが椎名、そして両端にいるのが合コンにいた二人だと気がつき、水瀬は三人の元へ寄った。


「いらっしゃいませ、ようこそホテル・グランド・リリスへ」


 三人が目を丸くして水瀬を見る。


「み、水瀬さん・・・本物だ!」

「すごーい!」


 なんだか思いもよらない反応をされて水瀬はなんと返そうか迷った。すると次は椎名が口を開いた。


「す、すみません、お仕事をお邪魔してしまって・・・」

「いえ。何か用があっていらっしゃたのでしょう。何なりとお申し付けください」

「あの、カフェってどこですか?」

「はい、カフェならあちらにございます」


 水瀬が示した場所には確かにカフェの看板。


「ご案内しましょうか」

「でも、今、お仕事中では・・・」

「これも仕事の一つです」


 そうして水瀬に連れられ、三人はおしゃれなカフェへとやって来た。


「どうぞごゆっくり」


 水瀬はそれだけ言って軽く頭を下げた後、ロビーへ戻って行った。


「確かに合コンの時と雰囲気変わんないね」

「うん」


 水瀬の仕事っぷりに感心する三人だが、今回の目的は水瀬ではない。「白井」という人物なのだ。


「で、その白井さんってロビーにいた?」

「さぁ・・・顔がよくわかんない・・・」

「さっき聞いておけばよかったね」

「あ、じゃあカフェのスタッフさんに聞いてみようよ。ワンチャン知ってるかも!」


 立ち上がった一人がカフェのスタッフを見つけて質問をした。


「すみません、今日白井っていうスタッフさんホテルに来てますか?」

「白井さん、ですか。はい、いらっしゃいますよ。あ、今ちょうどコンシェルジェの方の前に」


 ロビーを見ると、コンシェルジェデスクの前にポニーテールの女性が見えた。前と髪型は違ったが、スタッフが言うのならば白井に間違いないだろう。


「お知り合いですか?」

「あ、ま、まぁそんなところです〜・・・」

「ご要望であればお呼びしますが」

「でも、今お仕事中では・・・」

「もうすぐ休憩に入られますよ。昼にはよくこちらのカフェに来られますし」


 ホテリエとはいえ、休憩時間にホテルのカフェに来ることがある。ホテルスタッフ専用の食堂もあるが、短時間で済ませたい白井はしょっちゅうカフェを使うのだ。


「じゃあ、来られるまで待ちます」

「承知いたしました。なにかお飲み物でも」

「じゃあ、珈琲三杯お願いします」

「畏まりました」





 

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