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白百合姫は毒に染まる  作者: 嘉ノ海祈(旧 九条聖羅)


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王位を継ぐ者

「アウレイリア様こそ、この国の次期女王に相応しい」


 男がそう呟くと、反対側の席からダンと大きな音がした。


「何を言っている。あれは庶子ではないか!女王になら第一王女か第二王女が相応しい!」


「アルトゥール卿のおっしゃる通りだ!王座には正統な血統の者が就くべきだ!平民の穢れた血が混ざる女子が就くべき座ではない!」


 白い立派な髭を上がった息で揺らしながら、怒りを露わにする初老の男アルトゥール。そして、それを援護するように彼の取り巻きが声を荒げる。そんな二人の反対側に座る男は、眉間にしわを寄せながらため息をついた。


「第一王女は数々の男を誑し込んでは貢がせ、王宮を騒がせているではありませんか。第二王女は我がままで待女達を困らせた挙句、こちらが与えた予算では飽き足らず、陛下に強請り予算を増やす始末。あの二人に任せてはこの国が傾きます」


「シュテガー卿のおっしゃる通りにございます。庶子とは雖も、アウレイリア様には確実に陛下の血が混ざっております。大体、王というのは血でなく、素質そのもので選ぶものでしょう。王とはそれに相応しい器を持った人間がなるべきです」


 冷静な声でアルトゥールにそう返した男シュテガーと、その側近。アルトゥールはこの男の嫌な冷静さに余計に腸を煮えくり返された。


「其方!言わせておけば!!この国の王妃様や王女様方を侮辱する気か!」


 湯だった顔でそう声を荒げるアルトゥールを、シュテガーはフッと息を漏らしながら冷めた目で見た。


「事実ではございませんか。アルトゥール卿が第一王女に貢いでいることも私は存じておりますよ。それで、ご子息の待遇を融通するように仕向けたこともね」


 シュテガーの言葉にアルトゥールは分が悪そうに言葉を詰まらせる。


「ぐっ、それは今は関係ないであろう!」


 アルトゥールの言葉に、シュテガーは眉を上げてシュテガーを見た。


「…関係ない?大ありですよ。そのような者がいるから、このような腐った王宮になるのです。親の権力とコネで入った無力な子どもほど碌な仕事をしない」


 サラッと告げられたその言葉に、アルトゥールはギリッと歯ぎしりをする。元々あった皴は、怒りで更に深く刻まれていた。


「貴様ぁ!言わせておけばぁ!」


 怒鳴るアルトゥールに動じることもなく、シュテガーは瞳を閉じて言った。


「少しは落ち着かれたらどうか。卿は心臓がお悪いのですから、そんなにかっかされては心臓に悪いでしょう。倒れてしまっては大変だ。今卿が倒れられたら、ご子息はさぞかし困ることでしょうな。何しろ、小遣いをくれる存在がいなくなってしまうのですから」


 スッと目を開けてそう述べたシュテガーに、アルトゥールは拳を震わせ唸った。


「くぉのぉぉお!」


 怒りに目を染めるアルトゥールを横目に、シュテガーは静かに席を立ち、部屋の扉へと向かう。彼の側近も静かに彼の背を追った。


「優秀な会計士を雇っておくことをお勧めしますよ。収入と支出の計算ができないご子息の為にもね」


「ふんっ!余計なお世話だ。お前こそ、そろそろ若い女を娶るんだな。そのままでは後継ぎもなく、家系が潰れるぞ」


 苦し紛れの一言に、手を一振りして返すと、シュテガーは会議室を後にした。しばらくして、側近がシュテガーに尋ねる。


「よろしいのですか?アルトゥール卿は随分とお怒りのようですよ」


 シュテガーはそれに表情を変えることもなく、前を向いたまま答える。


「好きに言わせておけばいい。…ユリウス。アウレイリア様に面会の手続きをしておいてくれ」


「かしこまりました」


 僅かに口の端を上げて去っていった側近を見送り、シュテガーは廊下で立ち止まる。ふと、窓から空を見上げた。視界に煌々と輝く赤い月が移る。


「…この国の終わりも近いかもしれんな」


 誰もいない静まり返ったその廊下で、彼の呟きを拾った者は誰もいなかった。

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