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ハピとザクロの戦い

 ゴブリンの群れ、群れ、群れ! 圧倒的数のゴブリンに迫られ、ハピ達は交戦中だ。ハピの仲間は旧王都守備隊の隊長であるザクロ、それからザクロの部下30名と、旧王都に住む草食動物達の中でも、腕自慢の数千人だ。今いるのは旧王都の周囲を取り囲むように点在する要塞の1つだ。


「隊長、10時方向にいた鹿さんチームの損傷率4割を超えました。戦線の維持は困難、要塞の背後へ敗走させます。ですが、フォローしないと背後からゴブリンに飲み込まれます」

「わかったわ。第3班と第4班で上空から攻撃支援。要塞の背後へ逃がしてあげて、それと同時に後詰のイノシシさんチームを前に出して」

「はっ!」

「隊長、鹿さんチームを倒したゴブリン達の一部が、11時の方向で戦っている豚さんチームの側面を襲いそうです」

「そちらには第7班と第8班を支援に出して、イノシシさんチームが到着するまで、持ちこたえさせるのよ」

「はっ!」


 そして敵は、旧王都から少し離れた場所に現れた、ゴブリン城から現れる大量のゴブリンだ。ゴブリン達はこちらよりはるかに多く、数万、下手したら10万近い圧倒的な物量でこの要塞を攻め落とそうと迫ってくる。現在はザクロの指揮の下、正面、つまり12時の方向に象さんチームを配置し、左翼に鹿さんチームと豚さんチーム、右翼にサイさんチームと駱駝さんチームを配置し、なんとか前線を維持している。そして、後詰に控えているのはイノシシさんチーム、キリンさんチーム、かばさんチームだ。さらに遊撃部隊として、馬さんチームやうさぎさんチームなどがいる。


 とはいえ、すでに戦闘開始から30分、どの部隊も損傷率が激しく、どこまで使い物になるのか不明な状態だ。なにせ戦闘要員の損傷率6割で全滅といわれる軍隊の戦いにおいて、すでに損傷率9割の部隊すらあるのだから。だが、背後はすぐに旧王都だ。ここを通すわけには行かない。


 そんな中比較的元気なのが、ハピと、ザクロ率いる旧王都守備隊だ。30人を3人1組に分けた合計10班を、当初より遊撃部隊として稼動させていたが、現在でも24人8班が稼動していた。そして、負傷により脱落した6人も、完全に動けないほどではなかったために、羊さんチームと一緒に、他の動物さんチームの怪我の治療に当たっていた。


「ハピ、回復薬が足りない。要塞から運び出して!」

「は~い」

「ハピ、包帯が足りないわ!」

「は~い」

「ハピ、補給用のレーションを出して配って!」

「は~い。ううう、なんで我輩がこんな目に・・・・・・」


 そして、ハピもなぜかここに混ざって、下働きをさせられていた。


 なぜこんなことになったのかといえば、ぷうとザクロのせいだ。当初はハピもお気軽に実況をしていた。ザクロが、開始早々象さんチームと牛さんチームが一気に襲い掛かった~、ごにょごにょごにょごにょ。解説のハピさん、どうですか? なんて聞いてくるから、ぴぴとぷうはかわいらしいにゃんこです! と返事をしたり、ぷうがゴブリンキャッスルを出したときも話を振られたから、ゴブリンゴーレムはかわいいゴブリンです! って返事をしたり、その後も、ぴぴとぷうはとっても強くてかわいいにゃんこです! などなど、順調に返事をしていたのだが、事件が起きた。


 象さんチームの一員として、最前線で戦っていたファントが、ゴブリンゴーレムに腹部を剣で攻撃され、赤い液体を口から吐いて倒れたのだ。そして、そのままの状態でずりずりとゴブリンゴーレムはファントを引きずって行った。


 もちろんファントが口から出した赤い液体は血なんかじゃない。そもそもゴブリンゴーレムの剣は土製なので、切れ味なんて悪いというよりも無い。突き刺そうにも先端すら丸いので、遠くから見ると剣っぽくみえるが、実際はただの土の棒だ。なのでファントを切って胃なんかが傷つき、吐血したという可能性はゼロだ。じゃあ、ファントが口から出した赤い液体が何かといえば、間違いなくここへ来る途中、ファントの背中に乗ってのんびりしていたハピと一緒に食べた、朝ごはんのデザートのトマトの残骸だ。たぶん、ぷうに投げ飛ばされして、ごろごろと胃を揺さぶられたりして弱っていたところに、ゴブリンゴーレムの攻撃が胃に当たってしまい、口から出ちゃっただけだったのだろう。


 それに、ぷうのゴブリンゴーレムは、やっつけた象さんチームのメンバーや、牛さんチームのメンバーを、更なる戦いに巻き込まれないようにと、ゴブリンキャッスルの側にある、入ると回復効果のある檻に運び込んで、入れていただけだ。ノリとしては、ケイドロとか、ドロケイにおける檻のようなかんじだ。檻には回復魔法がかけられているため、中に入ると自動で怪我が治るし、破壊して助ければ戦力が回復するというなんとも遊び心溢れるにくい処置だった。本来なら、そういった遊びのように、檻に入ったメンバーが、兄ちゃん助けて~とか言って盛り上がる予定だったのだが、気を失っていた人が勝手に起きるわけでも無いし、魔力切れでばたんきゅうしてたら、それこそなかなか起きない。しかも、誰にも言っていなかったうえに、ゴブリンゴーレムの勢いがすごすぎて誰も檻に近づけなかったために、旧王都チームが檻の性質に気が付くことはなかった。


 そして、そんな事情をしらない旧王都チームのメンバーからしたら、やられたファントを無残にも引きずり、無慈悲に檻にいれた極悪非道のゴブリン達が襲ってきたのと同じことだ。エレフならぷうがファントに酷いことをしないともわかってただろうし、そもそもトマトをもしゃもしゃ食べてたことも知っていたはずなのだが、やられた弟と、その弟を思う兄の兄弟愛が引き起こした象さんドラマは、旧王都の他のメンバーの精神に、盛大なダメージを与えた。なにより、旧王都でも最強クラスの種族である象さんチームが大苦戦している上に、やられたファントは、そんな象さんチームの中でも誰の目にもわかる巨象ペアの片割れだ。


 そして、そんな精神状態のところへなだれ込むゴブリンゴーレムの群れ。旧王都チームは本格的に戦う前に、すでに瓦解寸前だった。だが、そんな中、ザクロが無慈悲の一言を投げかける。ザクロは逃げ出そうとする旧王都チームにこう言った。


「あれ、もう終わり? なら、面白そうだし、私達の軍事演習にそのゴブリン達を使わせてもらっちゃおうかな」


 そのままの意味だ。いわゆる言葉の裏の意味なんてない。今回、旧王都守備隊の妖精さん達は、実況やら映像中継やら、裏方仕事を担当してくれていたが、もともと楽しい事好きなのが妖精の特徴だ。本当は参加したくてたまらなかった。でも、みんなのためにぴぴ達やうめ達が用意したイベントだからと、今回は参加できないことを残念がっていた。ただ、みんながやめちゃうなら、代わりに参加したいな、という、本当にそれだけの意味だったのだが、旧王都チームのみんなはそうは取らなかったようだ。


 旧王都のメンバーに戦闘力なんか期待して無いから、逃げてもぜんぜんおっけいだよ。旧王都の防衛は、私達がやるからね。


 たぶん、こんな風に聞こえたのだろう。そして、ここに集まった旧王都のメンバーは、腕自慢の荒くれ者気質のものだった。普段から、旧王都防衛軍などという、妖精族の軍隊なんていなくても、いざとなったら俺達だけ、いや、俺だけで旧王都を守れると豪語していたこともあるメンバー達だ。こんなことを言われて、おめおめと引き下がるわけにはいかなかった。


 そんな、ぷうのゴブリンの運用と、ザクロのその気はまったく無かったものの、結果として煽りとなる発言のせいで、引くに引けない全面戦争になっていたのだ。そして、実況席でのんびりと果物をもぐもぐしていたというのに、いつの間にか雑用として裏方に回されていたのがハピだ。


「ハピ! なにやってんの!? ちんたらするな!」

「は~い」

「は~い、じゃない! やる気あるの!?」

「ないってば~」

「ええい、問答無用、早く手を動かす!」

「は~い・・・・・・」


 ううう、こんなことならぴぴとぷうと一緒に、猫さんチームに行けばよかった・・・・・・。



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