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ぴぴ対うめ達

 ぷうが長象さんの尻尾を咥えて長回しをしているころ、うめ達はその様子をただ見ていた。うめと一緒にいるのは妖精のイブキにマルバ、牛の夜に夕焼、それ以外にも年老いた象にヤギ、羊、馬など、いろいろな種族が集まっていた。集まっているメンバーの特徴をあげるとすれば、どことなくみんな年寄りくさいところだろうか。動物の年齢はわかりにくが、なんとなく目や毛に出てる気がする。夜だってけっして若くは無いと思うのに、夜が一番若く見えるくらいだ。でも、魔力量も多そうだし、どこと無く強そうな雰囲気を纏っていた。


「すごいですね。象の長は戦闘技術という点ではまだまだですが、パワーではすでに旧王都でもトップクラスのはず。それがこうも簡単に蹴散らされるとは」

「うむ、あのぷうという子、なかなか強そうですな」

「ええ、開幕の象と牛の連携攻撃が、完全に機能していないですね」

「牛の群れも、あのゴブリンの形をしたゴーレムに完全に押さえ込まれているようですね」

「夕焼、戦闘時にそのような口調は不要です」

「かしこま、いえ、違いますね。わかったよ。で、どうするよ夜のお嬢ちゃん。新月はじめ、群れの連中はすでに瓦解寸前だが、助けに入るのか?」

「いいえ、命がけの勝負ではないのです。何人リタイアしようと構わないでしょう。あくまでも狙いは勝利だけです」

「なるほど、若い連中に少しでもゴブリンゴーレムを減らさせるってわけな」

「ええ、その通りです。それに、あのゴブリンが主力なのでしょう、全方位的に襲っているようです。この際、他の種族の方々にも協力してもらい、すこしでもあの2人の魔力を消費させたいところですね」

「ああ、そうだな」

「ほっほっほ、お嬢さんもなかなか手厳しい判断をしますな」

「油断大敵ということです」

「ああ、俺も賛成だぜ。あんな魔力垂れ流しの技がそう続くこともねえだろ」

「うむ、総論としては、わしらは機が熟すのを待つということでいいかな?」

「ああ、構わない。あんたらの言うように、魔力が減ったところを叩くのが一番良さそうだしね」

「じゃのう。幸い個々のゴブリンゴーレムどもはそこまで強くもなさそうだしのう。象と牛とで、すでにそれぞれ1000は倒したじゃろ」

「あとは、あのゴブリンゴーレムがどの程度出てくるか、だのう」

「うめ様はあの2人を知ってますよね? 何匹くらい出てくると思いますか?」

「さあてねえ、あたしにもそれはわからんよ。ただ、あたしに言えることを全部言うなら。まず、ぷうのゴブリンゴーレムの強さは、本物と同じ強さであえて作ってるって事さ。そして、あの建物のゴブリンゴーレムが王冠をのせてることを考えると。最低でも10万は出てくるだろうねえ」

「10万ですと?」

「普通のゴブリンキングは、10万以上の群れくらいもってるからねえ。でも、今回のミニバトル大会の意義を考えると、1億出てきても文句はいえないねえ」

「「「「「・・・・・・」」」」」

「それほど強いのですか?」

「いや、もっと理不尽なほど強いよ。あれは本物の怪物だからね」


 ぴぴはうめ達と遊ぶために、すぐそばで聞いていたのだが、この年寄り連中、なかなか卑怯な、いや、老獪な作戦を考えていたようだ。ぴぴもせっかくなので疑問に答えてあげることにした。


「ん~、たぶんだけど、ぷうは10万もいれば勝負ありだと思ってると思うよ。旧王都には数千万の草食動物がいるって話だけど、ここに来てるのは1万もいなさそうだし」

「ふむ、それはそうだな。いざとなったら戦うものはもう少しいるかもしれないけど、積極的に戦おうとするものはそんなに多くないだろうからな」

「まあ、わしらがいるんだ。あの2人には悪いが、隙を見てつぶさせてもらうさ」

「って、ぴぴ? いつからいたんだ?」

「いつって、ぷうが長象さんをぶんぶんやり始めたあたりからかな」

「総員戦闘隊形だ!」

「反応はお年寄りにしては上々? でも、遅すぎるかな? とりあえず、みんなで遊ぼうね」


 真っ先に反応したのはうめ達妖精族3人だ。流石に戦いなれているだけあって、とっさの事態でも反応が早い。3人の取った選択肢は空へ逃げるということだった。不意打ちを食らった以上、無理に攻撃せずにまずは体勢を立て直す。判断としては悪くないし、咄嗟のことでコミュニケーションを取る時間がなかっにもかかわらず迷うことなく、3人みんな飛行を選んだあたり、相当実践慣れしてそうだ。


 そして、そんなうめ達とほとんど同じくらいの早さで反応できたものが1人いた。夜だ。夜は即座に突進を選んだようだ。迷い無く攻撃とは、なかなかに気性が荒いようだ。いや、牛さんの場合、左右や後ろに素早く動くのは難しそうなので、不意をつかれた時点で突進しかないのかもしれないが。


「はあああああ!」

「う~ん、いい突進といいたいところだけど、あの森に行くには、スピードもパワーも足りないね」


 ねこぱ~んち!


 ぴぴは夜の鼻に猫パンチを繰り出して、夜を盛大に吹っ飛ばした。


「ぐはあ!」


 そして、即座に妖精族3人を追いかける。


「なっ!?」

「余所見禁止だよ! 背中ね!」


 イブキがついつい夜が吹き飛んだことに反応した瞬間、ぴぴが背後から現れて背中に猫パンチを叩き込む。


「ぐはっ!」

「イブキ!?」

「だから~、余所見禁止だってば~」


 イブキが攻撃を食らった瞬間、思わずイブキの名前を呼び、そちらを見てしまったマルバだったが、そんな敵前での動揺を見逃してくれるほど、巨木の森のモンスターはお人よしではないだろう。ぴぴも心を鬼にしてその隙を突いた。


「ごほっ!」


 ぴぴがマルバを吹き飛ばした時、横から巨大な竜の頭を模した炎の攻撃がぴぴを襲う。うめの攻撃だ。うめはさすがに冷静だった。


 夜を吹き飛ばした後、迷わずうめ達に襲い掛かってきた。つまり、地上にいたほかのメンバーは、反応の鈍さから相手にしても面白くないと判断されたのだろう。そして、イブキが倒れたことで、ぴぴの狙いは必然的にうめ自身か、マルバだけになった。そこでうめは賭けに出た。自分が攻撃された時の対処は捨てて、マルバを襲った場合に、すぐさま攻撃するために。


「ちいい、これをかわすかい」

「まあね~」


 ぴぴは素早く距離をつめて猫パンチを繰り出すが、うめは全力でそれを防御する。うめが最年長であることは疑いようが無いはずなのだが、この中で一番強く、そして反応も早い! ぴぴは防御魔法が間に合わないくらい早く攻撃したつもりだったが、うめの防御魔法がかろうじて間に合った。


「ぐうう!」


 しかし、それでもぴぴの猫パンチは、うめを軽々と吹き飛ばした。ぴぴの猫パンチはもちろん加減してはいるが、このバトルは☆8モンスターだらけの、巨木の森に行くための試練だ。このくらいは耐え切ってもらわないと困る。


「「うめばあ!」」

「ああ、大丈夫だよ。かろうじて防御魔法も間に合ったからね。あんたたちよりダメージは少ないはずさ。夜! まさかもう起き上がれないなんて言うんじゃないよね!」

「誰に物言ってやがるくそばばあ! このくそ猫が、ぶち殺してやる!」

「みんなを囮に魔力を削れば~、とか言ってたけどね。その程度の力で取りにいけるほど、あの美味しい果物のある場所は、甘い環境じゃないと思うよ?」

「その通りだよ、ぴぴ。あんたの言うとおりさ。お前ら、いまぴぴがお前らに攻撃しなかった理由はわかるかい?」

「もちろんだ。反応が遅すぎて、相手にする気もわかないほど雑魚扱いされたってことだろ?」

「ああ、そうさ。ここからは一切気を抜くんじゃないよ。気を抜いたと自分で認識する前に、吹っ飛ばされるよ」

「「「「「おう!」」」」」


 ただ倒すだけなら不意打ちでさくっとやっちゃば良かったのかもしれないが、これはそういうバトルではないのだ。美味しい果物を取りにいける実力があるかないか、それを確かめるのが目的のバトルなのだから。


「それじゃあ、みんなもまじめにやる気になったところで、第2ラウンド開始だね!」


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