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巨大ガブガミガメ討伐作戦

 普通のガブガミガメを殲滅しようとして、つい巨大ガブガミガメを倒しかけてしまったぷうだったが、危機は去った。とりあえずみんなを集合させるべく上空に光魔法を放つ。程なくして全員集合した。


「ぷうさん、どうしました?」

「えっとね、普通のガブガミガメ、殲滅しちゃった」

「え? まだほんの少ししか住処潰してないぞ」

「ガブガミガメのお肉がね、もったいないと思って、やっちゃった。ごめんなさい」

「あ~、確かにね。あのやり方じゃあ肉の回収は無理ね。でもさ、陸上まで引きずり出すのはなかなか手間がかかりそうでね」

「だよな。俺もそう思って全部水の底で倒しちまったよ」

「かまいませんよ。私としても、普通のガブガミガメのお肉も、食したいと思っていましたので」

「それでね。巨大ガブガミガメもついつい倒しかけちゃったんだ」

「ええ、まじかよ!?」

「「そうなのですか?」」

「それは本当かい?」

「大丈夫、倒しかけただけで、回復魔法かけたら治ったからね!」

「う~ん、別に倒したなら倒したでよかったけどな」

「はい」

「だね」

「ですね」

「ええ~、折角治したのに・・・・・・」

「まあ、予定通り巨大ガブガミガメと戦うか」

「あ、ちょっとまって、治るのにちょっと時間掛かりそうだから、3日後くらいからの討伐にしよう」

「あ、ああ、わかったぜ」


 そんな話しをしていると、湖のほうから巨大な咆哮が聞こえた。


「ぶおおおおおおおおおっ」


「なんだ、この声」

「これは、巨大ガブガミガメの声でしょうか?」

「あ、あそこ見て。なんか陸に上がって鹿のモンスターを食べてるんじゃないかい?」

「そう見えますね」


 ピヨのいう方向を見てみると、確かに巨大ガブガミガメが、湖畔にいた鹿のモンスターをばくばくと食べながらぶおぶお言っていた。


「カリン殿、このまま逃げる心配はないか?」

「その可能性はほぼないでしょう。手負いの今、縄張りを離れるのはリスクが高いと考えるはずです。今は湖底で不可思議な攻撃を受けたことで、一時的に警戒して水面に上がってきたところで、たまたま陸にいる獲物を見つけて、襲い掛かっているのでしょう。しばらくすれば、また水中に引き返すと思いますよ。ガブガミガメが本来エサにしている相手がいるでしょうから」

「わかったぜ」

「ですが、少し想定外ですね」

「想定外?」

「ああ、同感だぜ」

「あたしもだ」

「はい」

「何が想定外なの?」

「想像以上に、強そうだよな」

「「はい」」

「ああ」

「そうなんだ。下の甲羅のないところから、こう、ぶすってやっちゃったから、あんまり感じなかったかな」

「違う違う、防御力のことじゃなくてな、鹿モンスターをもしゃもしゃしてるところを見ると、体や首の動きが、想定よりだいぶ速い。あの鹿モンスター、ぱっとみの魔力量的にランク5くらいのモンスターのはずだ。それが逃げることも抵抗することも出来ずに1撃だからな。ありゃあ、攻撃食らったら、俺らもやばいな」

「そういうことなら、わたしが泥の鎧で防御力を上げるよ」

「お、わりいな」

「助かるよ」

「「ありがとうございます」」


「じゃあ、わたし達は巨大ガブガミガメが元気になるまで、特訓でもしよ~」

「ああ、そうしようぜ!」

「はい」

「あたしも賛成だ」

「ええ、そう致しましょう」


 こうして巨大ガブガミガメが元気になるまで、アオイ達は特訓に明け暮れた。実際に巨大ガブガミガメを目の当たりにして、その強さがわかった4人は、3日後の決戦に向けて、猛特訓に励むのだった。


 そして、巨大ガブガミガメも、3日後の決戦に備えて回復をはかる。3日後のことは、巨大ガブガミガメには知ったことではないかもしれないが、たぶんそうなのだ。鹿モンスターを食べ終わると、そのままの足で周辺のモンスターに襲い掛かり、もしゃもしゃと食べる。湖畔のモンスターを食べつくすと、湖の中に再び戻り、湖の中の魚類のモンスターやら甲殻類のモンスターなんかをむしゃむしゃと食べていた。


 巨大ガブガミガメの怪我の様子を伺うために、その様子を見ていたぷうは、川魚も美味しそうだから、あとで持ち帰ろっと決めるのであった。



 そして3日後、決戦の日を迎えた。


「作戦は初日に話したとおりです。ですが、ぷうさんの泥の鎧があるので、多少の無茶は修行の内ということでいいにしましょう。ですが、当たってもいいと防御魔法や回避行動、立ち回りが甘くなってはいけませんよ」

「「「「はい!」」」」

「では、ぷうさん、泥の鎧をお願いします」

「はい!」


 ぷうは泥鎧のための泥を出す。この泥の鎧、他人への強化魔法が苦手なぷうの中では、数少ない苦手意識のあまりない技である。そのため強度も泥の割りにめちゃくちゃつよい。苦手じゃない理由は、この魔法、純粋な強化魔法というよりは、マッドゴーレムの出来損ないみたいな技だからだ。ゴブリンゴーレムをはじめ、最近ゴーレムにはまっていたぷうにとっても、今回の使い方は面白い。しいて問題があるとすれば、泥まみれになる見た目かもしれない。


 アオイはそんなの気にしないのだろう。ぷうの出した泥を見るなり、嬉々として顔や服にべちゃべちゃと塗りたくる。もちろん全身だ。羽を消して、泥の中でごろごろやって、背中もばっちり塗った。迷彩服のようなものを着ている上に、さばさばした性格同様、たち振る舞いもこれぞ男の子なアオイには、この泥化粧もなかなか似合う。


「なあなあぷう、色の違う泥も出してくれよ。この目の下とか、赤くしたらかっこよくねえか?」

「うん、わかった。赤と、あと黒の泥もだすね」

「おう、サンキュー」


 ピヨも気にしないようだ。タカは水浴びとかをするためか、泥にも抵抗がないのだろう。泥の中にだいぶして羽根をばっちゃばっちゃ動かして全身泥まみれにしていく。ピヨの羽根の色は美しいが、茶色のタカがいないわけではないため、案外悪くない。ただ、美的センスがアオイと同類なのか、顔にだけは赤を入れたいようだ。


「お、アオイ、その赤かっこいいな。あたしも入れるかな」

「おう、俺が塗ってやるぜ!」


 カリンはわかっていても抵抗があるようで、若干嫌そうにしていたが、おもむろに泥をかぶり始める。選んだ色は黒だ。肌だけならダークエルフっぽくなるだけなので、案外似合っていたものの、髪はそうもいかなかった。泥でびちょびちょの髪の毛は、なんともいえない悲哀な雰囲気を醸し出していた。


「カリン殿、ダークエルフみたいだな!」

「ああ、ほんとだね!」

「目の下は赤いほうがかっこいいぜ!」

「わかりました」


 エリカはあからさまに嫌そうである。綺麗でいたいという女心もあるのだろう。ましてや今はアオイのまえである。髪も肌も白く、着ている服まで白いローブというのが、エリカにとっての女子力である。それをアオイの前で放棄する。なかなか泥に手がつかない。すると、すっかり泥まみれになったピヨが、エリカを泥の中に突き落とした。


「エリカも目の周りだけは赤くしようよ」

「俺が塗ってやるぜ!」


 アオイが赤い泥をもってやってくる。どうやらアオイが目の下に赤い泥を塗ってくれるようだ。エリカは大急ぎで全身に泥を浴びると、目を閉じてアオイに化粧をしてもらうのだった。



 最後に武器も泥まみれにして、ついに準備は完了だ。ぷうのマッドゴーレム、装備品バージョンの魔法も完璧だ。目や耳といった泥をぬれなかった場所に関しては、ぷうがバリアを張る。自身の泥と泥の間に張るだけなので、これも楽勝だ。


「では、いきますよ」

「「「「お~!」」」」


 巨大ガブガミガメは、甲羅の長さが100mはあろう巨体なため、すぐに見つかった。もうすっかりキズも治ったのだろう。昨日の昼間くらいから、当初のような、ひたすら周辺のモンスターを食べまくるといった行動はしていない。今は泥にもぐって寝ているようである。もっとも、大きすぎる甲羅のせいで、隠れきれていないが。


 アオイ、ピヨ、エリカは上空に、カリンは最も近い湖畔に陣取った。ぷうはフォロー兼護衛だ。湖にはガブガミガメこそ居なくなったが、魚類や甲殻類タイプのモンスターはまだいる。もっとも、ここ3日間の巨大ガブガミガメの暴食によってかなり減ってはいるようであるが。


 カリンは上空へ光魔法を放つ攻撃開始の合図だ。まずは挨拶代わりに上空からの攻撃だ。作戦はエリカが巨大ガブガミガメの上の水を移動させる。そこにすかさずアオイとピヨが攻撃を繰り出すというものだ。


「いきます!」

「「おう!」」


 エリカは羽をオオタカの羽根に変化させ、一気に急降下する。手には短杖だ。ピヨと2人で戦うときはエリカはピヨのフォロー役になることが多い、なので、威力重視の長杖ではなく、小回り重視の短杖だ。エリカの短杖の先端には、水球が浮いている。


「水割り!」


 エリカが急降下から水球を水面に撃ち込むと、その技の通り水面が割れて巨大ガブガミガメの甲羅が丸見えになる。そこにすかさずアオイとピヨが最高威力の攻撃を叩き込む。


 アオイはエリカ同様羽をオオタカの羽根に変えての急降下だ。両手で魔力を全力で圧縮して、急降下の勢いをのせて、自身の最大威力の魔法を放つ。ピヨは自身に風と炎を纏い、火の鳥になって桁外れの速度で急降下していく。


「食らえ、コンプレッションストーンランス!」

「食らいな、フレイムジェットバードクロー!」


 アオイのコンプレッションストーンランスは魔力を圧縮して作った、超硬質の石の槍だ。ピヨのフレイムジェットバードクローは、フレイムジェットバードによる超高速移動からの爪による一撃だ。その爪にも炎が纏われている。2人の技が巨大ガブガミガメに襲い掛かる。


 がきん、ぼがん!


 硬い。巨大ガブガミガメの甲羅にはキズ1つついていないようだ。アオイのストーンラッシュはあっさりと折れ、ピヨのフレイムジェットバードでも巨大ガブガミガメの甲羅にはキズもなければ、焦げ後ひとつ無い。攻撃が効かないと見るや否や上空に退避する。と同時に、エリカの水割りも効果を失う。


「ちい、やっぱ効かねえか」

「くう、これは硬いね。焦げすら付かないし、あたしの爪のほうがいかれちまいそうだ」


「ぶおおおおお!」


 ダメージこそないだろうが、先日大怪我をした巨大ガブガミガメは、攻撃に敏感になっているのだろう。いきなり怒り出す。そして、エリカの水割りの効果が無くなり、巨大ガブガミガメの上に大量の水が押し寄せるのも無視して、長い首を上にあげると、大きく口を開いた。口に巨大ガブガミガメの魔力が集まってくる、その魔力量はアオイ達3人の魔力量の合計よりもはるかに上だ。アオイ達も即座に気づく。これは距離に関係なくまずい。上空にいたことが、かえってあだになってしまった。


「まじい、逃げるぞ」

「ああ」

「はい」


 カリンは巨大ガブガミガメの魔力が増大した瞬間に、矢を何本も放っていた。巨大ガブガミガメとアオイ達との間に、魔力かく乱と視界を遮る霧の煙幕を張るためだ。この威力の攻撃では、自身の防御技である3本の矢を空間魔法で空中に刺し、矢で作った三角の間に水の膜を張るという技では防げない。カリンにできることは、このかく乱により狙いがそれ、3人に当たらないように祈ることだけだった。


 3人は全力で逃げる。この攻撃、恐らく水のブレスだ。しかも、撒き散らすようなタイプではなく、ウォーターカッターのような、レーザーみたいなブレスになるはずだ。ただの水による攻撃程度であれば、距離さえあれば物理的にはまるで痛くない。だが、メイクンでは魔力の篭った水は、危険極まりない立派な攻撃だ。このブレスに込められた魔力なら、工業用ガーネットを含んだウォーターカッターの比じゃないすさまじい威力になるだろう。絶対にあったたらやばい。しかも、この距離でも余裕で届きそうな魔力量だ。霧が展開し切って、視線を切れるまで撃ってほしくなかった。だが、無慈悲にも巨大ガブガミガメのブレスは、発射されようとしていた。


 万事休す。だが、アオイはなぜか冷静だった。巨大ガブガミガメの視線も、口の角度も、カリンの妨害の霧の展開状況まですべて見えていた。


(ピヨは大丈夫だろう。あいつは運よくカリン殿の展開し始めの霧に隠れて、もう亀の視界には入っていない。俺も平気かな、半分くらい霧の中だし、微妙に角度が違う。視線と角度的にも狙いは、運悪く霧と霧の隙間に入っちまった、エリカか・・・・・・)


 アオイは咄嗟にエリカの方に方向転換すると、全力の蹴りを繰り出した。エリカが、カリンの霧で隠れられるように。逃げようと移動魔法に全魔力を使っていた状況下では、突風魔法などを新たに繰り出すよりも、そのほうが速かった。突然の衝撃におどいて、エリカがアオイのほうを見た瞬間、巨大ガブガミガメの水のブレスが、発射された。


 ピシイイイイイイッ!


 その水圧はすさまじいのだろう、圧縮した水を発射する音が、周囲に鳴り響く。そして、エリカを蹴り飛ばした反動で、空中に静止してしまったアオイは、エリカの目の前で、なすすべなく飲み込まれた。


「いやあああああああああ!」


 巨大ガブガミガメの水ブレスは、1秒もしない内に消えたが、そこにアオイの姿は無かった。その代わりそこには、アオイの羽根の先端部分が舞っていた。



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