ガントレットと剣と盾と槍
武器屋にいった翌朝。今日はギルド本部で武器を試す日だ。ちなみに3人の寝床は、王城の客室だ。例の恐竜の支払いを待ってもらうかわりに、王都にいる時は自由に使っていいと、便宜を図ってくれたようだ。もう客室というプレートもなく、一番いい客室にはぴぴ達の名前が書かれていた。アオイは近衛師団に自分の部屋があるが、面倒だし、パーティーメンバーだからと一緒の部屋で寝泊りするようにした。
そして、まさかの2日連続で王都ハンターギルド本部にやってきた一行であった。受付にお願いして訓練場へいくと、そこにはドワーフの親方だけじゃなく、ギルマスのリオンと、教官のカリンも一緒にいた。
「よう、お前ら、昨日ぶりだな!」
「おはようございます」
「「「「おはよう~」」」」
「おう、時間通りじゃな。ではさっそく、妖精の坊主のガントレットとグリーブから試すぞ。まずは装備してみてくれ」
そういって装備を渡された。ガントレットとグリーブは杖の端材から作ると昨日いっていたように、木材と布で出来ていた。そして、アオイはガントレットとグリーブを装備した。少し隙間が大きく、外れそうだ。
「なんか、ぶかぶかなんだけど」
「ああ、装備するときに遊びがないと装備しにくいからな。装備後に魔力を流すことできっちい密着するようになっておるのじゃ」
アオイが魔力を流すと、ぴったりと密着した。
「どうじゃ、動きに問題はあるか?」
「いや、ない、素手のときと同じように、自然に動くぜ」
「じゃあ、一度はずして、いつも通り攻撃してみてくれ。その後もう一度装備して、同じように攻撃してみてくれ。マトはあそこに用意してもらったあれじゃ」
そういうと親方は丈夫そうな円いマトを指差した。
「アオイ、あのマトは頑丈に作ってあるからな、本気でやっていいぜ!」
「おう、わかったぜ」
ギルマスのお言葉に甘えて、アオイは思いっきり攻撃することにした。
「じゃあ、いくぜ。おらおらおらおらおらあ!」
アオイはファイヤーボールを10発ほど連射した。さすがギルマス自慢のマトである。マトは表面が多少焦げはしているものの、びくともしなかった。
「うむ、いつも通りだな」
「ほお、流石妖精族じゃな。同じような武闘家の攻撃を見たことがあるが、こりゃ、次元が違うな。ヘタな杖もちの妖精の魔法使いよりも強くないか?」
「ええ、そうだと思いますよ。昨日私と模擬戦しましたが、☆6のハンターカードを渡しましたから」
「それに、あのマトは☆6モンスターの耐久度を再現した、ターゲット6だぜ。まさか杖なし、しかも連射系の魔法で表面を焦がすとはな」
「なに? すでに一流の魔法使いじゃねえかよ。この試作型ガントレットで耐えれるかな」
親方とカリン、ギルマスが話をしている間に、アオイはガントレットとグリーブを再び装備していた。そして、もう一度マト目掛けて同じようにファイヤーボールを連射する。それにしてもターゲット6とは、マトのくせになかなかかっこいい名前である。
「おらおらおらおらおらあ!」
同じように連射したはずなのに、今度はさっきよりも威力が高い。ガントレットの効果で、同じため時間でもより多くの魔力を効率よく集めることが出来ているようだ。さきほどより威力が3割ほど上昇していた。ターゲット6は表面を焦がすだけじゃなく、一部が崩れ落ちた。
「うお、これはすげえな。ぜんぜん違うじゃねえか」
アオイが感動したのもつかの間、ガントレットは嫌な音をたてて砕けちった。
「うおっ、壊れちまった」
「そりゃしょうがないじゃろ。まさかお前がここまで強い魔法を使うとは思ってなかったんじゃよ。あくまでもこれは普段格闘技で戦う連中の、サポートアイテムじゃからの。お前みたいな大火力の魔法使い用じゃなかったんじゃよ。じゃが、方向性は決まったの、あとは材料とかを決めるだけじゃが、これはあやつらの武器の材料と同時でいいな」
「おう、かまわねえぜ」
アオイと親方の視線の先には、早く武器を使いたくてわくわくしているぴぴとぷうがいた。
「じゃあ、次はわたし達だね。いくよ!」
「「「変身」」」
昨日あの後がんばって変身の練習をしたのだ。今日はみんなでかっこよく変身だ。ついでに2足歩行の練習もしたので、今日はもうばっちりだ。以前ゴブリンゴーレムを動かした経験も生きたのか、2足歩行をマスターするのは早かった。
「じゃあ、まずは私からいくね」
「「うん」」
「おう、まずは黒いのからか、いろいろな長さの槍を持ってきたからな、まずはこれでも突いてみろ」
親方はなんだかんだ言いながらも、全長1mから50cmおきに3mのものまで用意してくれていたようである。まずはぴぴが柄が木製、穂先が鉄で出来たシンプルな1mの槍を持ってマトの前まで行く、そして、魔力を流して突こうとした瞬間、穂先が爆発した。どうやら穂先の鉄が、ぴぴの魔力に耐えられなかったようである。また、柄の木製部分も、ひび割れていた。
「「「あっ」」」
ぴぴ達3人はやっちゃったって顔でびっくりしている。
「なっ、もしかしてお前らも☆6とかだったりするのか?」
「うん、ごめんなさい」
「くそっ、普通猫とかの場合、人形態だと魔力とか落ちるんじゃねえのか?」
「そのはずですね。普通その状態だと、ここまで魔力が高いはずは無いのですが」
「ぴぴ、これわたしなら使っても大丈夫だと思う?」
「無理、魔力流した瞬間に吹き飛ぶと思う」
「じゃあ、やめとく~」
「ねえ、武器強化魔法ってどうやるの?」
ぴぴは、昨日親方が言っていた武器強化魔法というのは、身体強化魔法と同類の魔法だと思っていた。そのため、普段身体強化魔法を使うとき同様、強化したい部分、今回は槍全体に魔力を流してから、武器が頑丈になるイメージで魔法を使おうとしたのだが、まさかの魔力を流しただけで木っ端微塵である。もしかしたら、武器強化魔法は、身体強化魔法とはぜんぜん違う理屈の魔法なのかもしれないと思い始めていた。
「普通は身体強化魔法の延長線じゃ。武器に魔力を流し、武器の耐久度や切れ味が上昇するイメージをすればいい。もちろんそのイメージにコツはあるのじゃが、魔力を流しただけで砕けるとはな」
「私、そのイメージで武器強化魔法を使おうとしたんだけど」
「ああ、それは見ておったからわかっとる。魔力の流れ的にも、お主の魔法の使い方で問題ないはずじゃ。問題は、魔力が多すぎて素材が耐え切れんかっただけじゃ。魔力量が多いのはわかったから、魔力は流さずに振るだけ振ってもらっていいか?」
「うん、わかった」
「じゃあ、これを使え」
最初の1mの槍はもう壊れてないため、親方は新たに150cmの槍をくれた。今度は魔力は流さずにそのまま振り回すことになった。ぴぴは槍の隅っこを片手で持って、上にあげ、思いっきり振り下ろす。ことはせずに、丁寧に振り下ろす。この槍、柄の部分は木製なのだが、どうやら強度があんまりないようだ。いや、この親方のいるお店は近衛師団御用達の店である。いくら練習用に軽く作ってもらったものとはいえ、その品質は平均をかなり上回っていた。ただ、それでもぴぴが本気で振ったら、さくら棒みたいに簡単に折れてしまいそうだったのだ。これ以上壊すのもまずいと思い、かなり手加減して振っていた。上から下に、右から左にとぶんぶんぶんぶん振り回す。突きが無いのはご愛嬌だ。ゴブリンの街で槍ゴブリンゴーレムに乗っているときも、ゴブリンをばったばったと倒すために、振り回してばかりで、突きなんてしなかったのだ。ぷうが自動モードにしてたときなんか、回転しかしていなかったし、それよりはましだっただろう。
「ほう、すごいな。魔力量が多いだけじゃなく、身体強化魔法まで上手いとはな。パワーだけでもドワーフの戦士並じゃないのか?」
「思いっきり振り回すと、槍が壊れそうだったから、そこまで全力で振ってないよ」
「そうなのか? うう~む、これは、総金属製の槍でもいいかも知れんな」
「じゃあ、次わたしの番?」
「うむ、そうじゃな。茶色いのは剣と盾がいいんじゃったよな」
「うん」
「じゃあ、これとこれを使うがいい。魔力強化は、黒いのと同じことになりそうか?」
「うん、十中八九」
「じゃあ、無しじゃ。黒いのと同じように、剣を振ってくれ」
そうしてぷうは、親方に渡された60cmくらいの刃渡りの剣と、直径30cmくらいの円形の盾を持ってぶんぶんと振り回した。剣のは切り下ろし、突き、横なぎ、切り上げと、ぴぴの槍より様になっているように思える。しかし、盾の使い方が残念だ。まるで武器であるかのように盾で殴る動作が多い。それどころか、棒映画のヒーローのように、盾を投げて、魔法の紐で回収するというアクションまである。まあ、かっこいいからいいんだけどね。
「ふむ、茶色いのも問題ないな。盾の使い方はあれじゃが」
「盾よりわたしの体のほうがはるかに丈夫だからね」
ぷうの言うとおり、鉄の盾ですらぷうにとっては魔力をちょっと流したら壊れる程度の強度しかないのだ。盾で身を守るという行為の必要性はまったくないのだろう。じゃあなぜ盾を持つのかといえば、かっこいいからだそうだ。
「では、武器の大きさを決めるか。剣と槍の長さなんかはどうする? いまのままでいいか?」
「私はこの150cmの槍でいいかな。これなら持ち運びも楽そうだし。でも、ちょっともろいから丈夫にしてほしい。太くなってもいいから」
「わたしも丈夫さはほしいね。それから剣も盾ももっと大きくしてほしいな。剣は刃渡り1mくらい、盾も直径40cmくらいはほしいかも」
「我輩がちょっと気になったこと言っていい?」
「うん」
「2人とも、刃っている? さっきの素振り見てると、刃を立てて使ってるわけじゃないよね」
「刃がなきゃ剣じゃないよ?」
「それはそうだけど、刃物って、なんだかんだ危ないし、刃が無いほうがきっと頑丈になるよ」
「それはそうじゃの、鈍器のほうが頑丈に出来るぞ」
「それに、宇宙を舞台にした映画とかだと、光る円い棒の剣がよく出てくるし、それもかっこよくない? なにより、武器の手入れが楽だと思うよ」
「メンテナンスは確かにそうじゃな。刃物のメンテナンスはそれなりに大変じゃぞ」
「むう、たしかにそうだね。光らせるのは光魔法でいいし、効果音も風魔法でいけるよね。よし、きめた、わたしのは刃無しにして~」
「じゃあ私も刃なしでいいや」
「よかろう、技術もなく、力任せのおぬし等なら、鈍器のほうが向いてそうじゃな。では、最後に全員共通の話題になるが、どのクラスのモンスターと戦うことを想定して作るかの?」
「とりあえず☆6で頼むぜ」
「☆6ということは、☆7は想定に入ってないということじゃな?」
「ああ、最終的には☆8にも通用するようにしたいが、☆8はそもそも想定できない強さのモンスターだらけって聞いたしな。3人で話し合ったんだが、ぴぴとぷうも武器はまだ素人だし、まずは武器の扱いに慣れる意味も込めて、☆6までにしようってことになったんだ。☆7や☆8を想定した武器は、今回の武器になれて、実戦での使い心地を決め手から、また作ろうってな。その間にいい素材集めもしたいしな」
「うむ、いい判断じゃな。確かに力任せだけでは、☆7以上のモンスターに挑んでほしくは無かったしの。では、素材はこちらで任せてもらっていいか? あと鍛冶魔法でつける強化の方向性なんじゃが、アオイのガントレットは魔法用ということで、魔力ロス軽減、魔力操作高速化、魔法威力上昇でいいか?」
「ああ、それで十分だ」
「猫どもはどうする? わしが決めていいなら、武器耐久性上昇、硬度強化、魔力親和性上昇、魔力容量増加をつけたいんじゃが」
「うん、いいよ。アオイのと個数が違うの?」
「ああ、そこには素材の問題とかがあっての、じゃが、作る武器のランクは同じじゃよ。商業ギルド傘下の鍛冶師ギルドのランク付けじゃと・・・・・・」
親方が教えてくれた鍛冶師ギルドランクは以下のようであった。
☆1個:見習い鍛冶師。
☆2個:半人前鍛冶師。鍛冶魔法でいろいろな武器や日用品を作れる。
☆3個:一人前鍛冶師。☆3モンスターを倒せる武器が作れる。鍛冶魔法で鉄武器を強化できる。
☆4個:☆4を倒せる武器が作れる。鍛冶魔法でミスリル武器に2個の魔法を乗せることが出来る。
☆5個:☆5を倒せる武器が作れる。
☆6個:☆6を倒せる武器が作れる。
☆7個:☆7を倒せる武器が作れる。
☆8個:☆8を倒せる武器が作れる。
この基準は、鍛冶師のランクであると同時に、武器のランクでもあった。つまり、☆3ランクの武器を作れる鍛冶師が、☆3鍛冶師でもあるのだ。武器ランクの基準は、その武器の性能だけでどのランクのモンスターを倒せるか、というものである。簡単に言えば、☆3武器なら、その武器に更に使い手が武器強化魔法を使わなくとも、☆3モンスターを倒せる武器ということだ。ただしこのランク、☆4あたりまでは妥当なのだが、それ以上はけっこういい加減らしい。なにせ作った武器の性能だけでモンスターを倒せるとはいうものの、使い手の武器強化魔法の乗りがよくなる鍛冶魔法などもあれば、そもそも鍛冶魔法による強化も、魔力供給源である、使い手の魔力量や魔力制御の上手さに依存するのだ。そのため、☆6モンスターを倒したハンターや軍人のもっていた武器が☆6武器であり、それを作った鍛冶師が☆6鍛冶師という具合であった。鍛冶魔法による強化魔法の数も、素材の影響を強く受け、ミスリルなどの金属素材の場合は多くの強化魔法を乗せやすく、モンスター素材などは強化魔法の数を乗せにくかったりと、一概に何個付与できるから☆が多いというわけにもいかないらしい。
「で、アオイのガントレットは、金属製にすると妖精族には重くなりすぎる。アオイは手を頻繁に動かすしの。じゃから、軽量な魔物素材を中心に作る予定じゃ。じゃから、強化魔法の個数が3個と少ない。逆におぬし等の鈍器は、おぬし等のパワーを考えてもミスリルでいいと思ってな。ミスリルは強化魔法を乗せやすい素材じゃから、4個というわけじゃ。改めて言うが、武器としてのランクは同じじゃよ」
「なるほど、ありがとう」
「では、出来上がり次第ギルド経由で連絡を入れる。目安としては素材があれば1週間くらいじゃの。わしはそこのギルマスとカリン殿と武器の素材の打ち合わせなんかもしたいから、このままギルドの保管庫へ行く。ではな」
「うん、またね~」
「安心しろ、ギルドの保管庫にはそれなりの素材が置いてあるからな。いい武器になると思うぜ。それより、今日は大した武器じゃなかったからあれだけどよ、武器が出来たら模擬戦しようぜ!」
「おう、受けて立つぜ!」
「私とも再戦お願いしますよ」
「もちろんだ!」
「ぴぴとぷうもだぞ!」
「うん、楽しみに待ってるね」
こうして一行は武器を頼むことになったのだ。最短1週間後とのことだが、実に待ち遠しい。




