恐竜のお肉は最高
ナノハナ達治療班による治療により、無事全員回復した。とはいえ、大した怪我ではなかったようだ。グラジオラスとか大怪我してそうだったが、杞憂だったようだ。なんでも、新技の練習中に制御をミスって自爆することなんてしょっちゅうあったらしい。そして、本人も周囲もなれっこだったとか。
「おぼえてろよ~」
3人組の中で、1人元気なシクラメンが負け惜しみをいいながら、立ち去っていった。
「「「手合わせ、ありがとうございました」」」
「こちらこそ、ありがとう」
部下達はぷうに丁寧に挨拶をしてから、立ち去っていった。ぷうもわんこ大臣達の元に帰る。
「親父」
「クロか、よく来たな」
「兄貴から聞いたが、俺はこの猫と戦えばいいのか?」
「うむ、そうじゃ、こやつの実力を知りたい。どう見る?」
「今のバトルを見る限り、☆7でもいいんじゃねえか?」
わんこ大臣のことを親父と呼んだわんこは、ドーベルマンっぽいわんこだった。わんこ大臣はうすい黄色のラブっぽいわんこなのに、黒いドーベルマンっぽいわんこと親子?? とぷうが悩んでいると。
「ん? ああ、親父とは血のつながりはないぜ。もちろん、兄貴ともな」
どうやら兄貴とは、ブランシュのことらしい。
「どうする? ちょっと休憩するか? 丁度明日は休みだから、なんなら明日でもいいぜ」
「ふむ、さっきの戦いではぷうもけっこう魔力を使ったじゃろ、クロがそう言ってくれるなら、明日にするかの?」
「う~ん、どうしようかな。ちょっと休憩してご飯食べたいかも、バトルはその後でもいい?」
「そうじゃの、もう夕飯の時間じゃな」
「じゃあ、飯の後にバトルでいいか。おい、ぷう、バトルは手加減一切なしの真剣勝負でいいよな?」
「もちろん、わたしも全力でやっちゃうよ」
「ああ、楽しみにしてるぜ」
模擬戦とその後の治療でかなり時間がたっていたようで、太陽が沈みかけて薄暗くなってきていた。
「俺も見学して~」
「ああ、アオイも来い。あの3人も見学できるようならよんでやるか」
「ナノハナさん、もうしわけないのじゃが、夕食後も頼んでもいいかのう?」
「はい、うすき様。私もご一緒してもいいでしょうか?」
「もちろんじゃ」
「ぴぴ~、ハピ~、お夕飯食べよ~」
「「は~い」」
「そうだ、こいつを紹介しとくぜ。ナノハナさんだ。近衛師団団長兼第1部隊隊長だ。ナノハナさん、こいつらがぴぴとぷうとハピだ」
ぴぴ達とナノハナはお互いににっこり微笑み合う。
「では、行くかの、こっちじゃ」
わんこ大臣の筆頭秘書であるブランシュを先頭に廊下を歩いていく。
「親父、飯はどこで食うんだ?」
「王城の上級食堂でかまわんじゃろう、ぷう達はなにか食べたいものあるか?」
「えっと、料理してほしいお肉があるんだけど、いいかな?」
「ほう、なんの肉じゃ?」
「大きい恐竜の肉」
「今もっておるのか?」
「うん、ぴぴが空間収納に状態保存かけて持ってるよ」
「では、私が預かって料理してもらってきましょう」
「いや、兄貴、俺が持ってく」
「なりません。今の貴方は将軍なのですよ。立場を考えて下さい」
「う、すまねえ」
「では、ぴぴ、私にください」
「はい、これだよ」
ぴぴは恐竜のお肉を全部ブランシュに渡した。全部とはいっても、ぴぴ達は解体できないため、とりあえず首の切り口からほじくりだして、数日分の食材としてぴぴの空間収納に保管していた分だ。クロとかたくさん食べそうだけど、これだけあれば足りるだろう。ぴぴ達にとっては、食べきれないほどあるから、美味しい料理になって出てくれば、もうけもんだ。本体はまだ猫トラックの中であるが、状態保存の魔法のおかげで、新鮮なまま保管できているので、のんびりしてても問題はないのだが、そろそろ他の部位も食べたかったし、解体してすっきりさせたかったので、後で解体出来るか聞く予定だ。
「ほう、美味そうな肉じゃな、わしもごちそうしてもらってよいかの?」
「うん、簡単なステーキでしか食べたこと無いけど、すごく美味しかったから、みんなで食べよ」
「お、サンキュー」
「ありがとうございます。では、料理長にこの肉で1品作ってもらいますね」
「うむ、たのむのじゃ」
そして、食堂にやってきた。適当な席にみんなで座る。食堂はレストランのような場所だった。大きめの4人掛けのテーブル席がいっぱいある。椅子も上質そうだ。一行は2人と6匹なのだが、妖精の国ではみんな人で数えるようだ。対外的にも普段は人の姿、戦闘時は動物となる動物妖精として振舞う必要があるため、基本みんな妖精族として、何人じゃないとまずいようであった。よって、一行は2人と6匹ではなく、正式には8人だ。テーブルを合体させて8人用のテーブルにする。メンバーはぴぴ、ぷう、ハピ、アオイ、犬大臣、ブランシュ、クロ、ナノハナだ。
「料理はブランシュが持ってきてくれるからの、のんびり待つとしようかのう」
「そういやぷう達って、3人だけなのか?」
アオイが聞いてくる。確かに大陸規模で害獣駆除をするのに、3人は少ない気もする。
「うん、そうだよ~」
「え、そうなのか? 後続にもっと来るんじゃねえのか?」
クロも同様に驚いているようだ。
「わたし達3人で全部だよ。なにかあったの?」
「ああ、最近モンスターが多くてな、出来れば人数がほしいとおもっちまったんだよ。悪いな」
「いいよいいよ、確かにちょっと少なく思えるもんね」
「特に、東に出来たゴブリンの国に手を焼いていてな」
「うん、そのゴブリンの国なら知ってるよ。横切ってきたからね」
「なに? もしかして、大森林の木の洞を使ったのか?」
「うん、だって、そこから妖精の国へ行けって書いてあったし」
「お前ら大森林横切るとか、なかなか無茶なことするんだな。だからあの猫の乗り物、傷だらけだったんだな」
「「すまない!」」
「どうしたの?」
「あそこを使えるように、妖精の国からあそこまではなんとしてもルートを確保しておくべきだった。俺の責任だ」
「わしからも謝罪させてくれ、これは、こちらの落ち度じゃ」
いきなりわんこ大臣とクロが頭を下げてくる。わけがわからずに事情を詳しく聞くと、ぴぴ達はもっと大勢できたが、妖精の国にたどり着く前に、ゴブリンとの戦闘で多くの犠牲を払ったと勘違いしたようだ。特に、猫トラックの表面は傷だらけで、激戦地帯を抜けてきたような雰囲気すらあった。その傷を見ていたアオイも勘違いしたようだ。
「ううん、もとから3人だけだよ。猫トラックの傷は、ハピが大森林ですっごいスピードだして走るから、大森林の頑丈な木にぶつかりまくったのと、虫モンスターとかを体当たりで倒しまくったせいで、虫の体液みたいなのが、こびりついちゃったんだよね」
猫トラックの傷は、じつにしょうもない理由だった。
「そ、そうか、ならいいんだ」
「うむ、そうじゃのう」
クロとわんこ大臣もほっとしたようだ。
「お待たせいたしました」
ブランシュがウエイターを引き連れて料理を運んできてくれた。料理はぴぴが提供した肉を使ったステーキがやってきた。他にはパン、スープだ。妖精族のアオイとナノハナには、パンの代わりに花が出てきた。
「なにこれ、めっちゃうまそうじゃん。すっげえいい匂い」
「でしょでしょ、すっごい美味しいんだよ~」
「大臣、早く食おうぜ」
「ほっほ、仕方ないのう。では、新たな出会いに、乾杯」
「「「「「「「乾杯」」」」」」」
わんこ大臣の乾杯の挨拶でご飯を食べ始める。猫や犬の手ではグラスを持てないが、そこはみんなサイコキネシスでグラスを掲げた。アオイなんて手があるにもかかわらず、サイコキネシスで乾杯をしていた。なぜなら、ステーキのおいしそうな匂いにもう待ちきれないというかんじで、すでに両手がナイフとフォークでうまっていた。そして、みんなでステーキを食べる。
がぶがぶ、もぐもぐ。
「おいしい~」
「う~ん、おいし、やっぱり料理方法が違うと違うね」
「ぷう、ハピ、あとで絶対食べたいから、絶対に味をわすれないでよ」
「「「「「・・・・・・」」」」」
肉を提供したぴぴ達も王城の料理人の腕にうなるしかなかった。猫グッズのお皿は食べたいものが出てくるし、食材を置いて食べたいものをイメージすれば勝手に調理されるが、所詮ハピの知っている料理の味とか調理方法なんてたいしたことがなかったようだ。美味すぎる。おそらく塩や胡椒もぜんぜん違うものを使っているのだろう。次回食べるときのために、絶対に味を覚えると決めた3人であった。
そして、残りの5人は肉の味に驚いていた。一応全員国のトップレベルの身分を持っている。おいしい食べ物はけっこう食べてきていたつもりだったが、この肉はレベルが違っていた。その後はみんなじっくりたっぷり味わうように丁寧に料理を食べた。あまりにおいしいと人は無口になるのだろうか。だれも話さない。ここの食器は、料理に状態保存の魔法をかけられるようになっているらしく、食べ進めて時間がたっても出来立てほやほや、あったかいままだ。
結局無言のままご飯が終わってしまった。腹休めにおしゃべりを楽しむことになった。
「ぴぴ様、ぷう様、ハピ様、すごく美味しかったです。ありがとうございます」
ナノハナに様付けで呼ばれるようになってしまった。
「ああ、すっげえうまかった。こんなうめえ肉、食べたことなかったぜ」
「うむ、わしもじゃ、ついつい無言になってしもうた」
「俺も高ランクの軍人として、いろいろ美味いといわれる肉を食べてきたつもりだったが、まるで違ったぜ」
「ええ、私もこの肉には驚きでしたよ」
無言だったので少し不安だったが、みんな美味しく食べてくれたようであった。すると、デザートを持ったウエイターと共に、これぞコックという帽子をかぶった妖精が現れた。
「少しよろしいでしょうか?」
「うむ、料理長か、いい腕じゃった。肉もすばらしいが、お主の腕も流石じゃ」
「うん、おいしかったよ~」
「ありがとうございます。そこで、少しお願いがあるのですが」
「おお、かまわんぞ、申してみよ」
「私も見たことがなかったため、味付けをするために少々食べさせていただいたのですが、非常に美味でした。もしよろしかったら、なんの肉なのか、お聞かせ願えないでしょうか?」
「そうじゃの、わしも知りたいのう」
「恐竜だよ」
「恐竜、ですか?」
「そう、大きい恐竜」
「ぷうよ、種族名はわかるかの?」
「ちょっとまってね、モンスター辞典に載ってたから」
そういうとぷうはメイクンモンスター辞典を広げた。
「え~っとね、これだよ。このビッグヘッドランドドラゴンって恐竜」
「まじかよ」
「えっ」
「はっ?」
「おぬし等、どうやって倒したのじゃ?」
みんなびっくりしたようだ。
「どうやってって、ぴぴが首をすぱんって落としただけだよ」
「いや、落としただけって、そんな簡単にできるわけねえだろうが」
「いや、その前になぜ出会ったのじゃ、生息地は大陸の中央部のはずじゃ」
「そんな変なことじゃないよ。ゴブリン集落を襲いながら妖精の国を目指したんだけど、雑魚ばっかりでつまんなかったから、ちょっとゴブリンの王都に寄り道したの。そしたらそこのゴブリンの王都に恐竜の子供がちょっかいだしててね。ハピが絶対おいしいからって、ぴぴに倒させたの。そしたら怒った親も出てきて、それもぴぴが倒したの。それだけだよ」
「いや、十分おかしいだろ、それ」
「あ、そうそう、ゴブリンを襲うときはさっきのゴブリンゴーレム使って襲ったから、妖精の国の仕業とは思わないはずだよ。猫の姿でも小さい集落は襲ったけど、確実に殲滅したからね」
「うん」
「ちなみにこれがゴブリンの集落で入手した、ゴブリン王国の地図ね。で、ばってんが付いてる集落は、潰しちゃった」
「おう、そうか・・・」
なんだかわんこ大臣とクロの様子がおかしくなっていた。
「それで、その、大変申し上げにくいのですが、そのお肉をお売りいただけないでしょうか?」
「料理長、この肉の価値を理解しての発言かの?」
「はい、味だけでなく、匂いも大変良かったので、周囲の者達がほしがっているのです」
辺りを見回してみると、みんな食い入るようにこちらを見ていた。その中には妖精トリオもいる。本当に大した怪我ではなかったようだ。
「(ここだけの話にしていただきたいのですが、うめ様とさくら様がほしがっておりまして)」
料理長がこっそり話しかけてきた。
「あの2人か、う~む、ぷうよ、2人分だけでもなんとかならんか、金ならいくらでもだす。なんなら宝物庫のものと交換でもかまわん」
「別にあげるよ、いっぱいあるし。ぴぴ、ハピ、いいよね?」
「うん、いいよ~」
「我輩もいいよ。あ、でも、解体しないとないよね? さっき全部渡しちゃったよね?」
「そうだった、解体してなかったね。わたし達、解体ぜんぜん出来ないから、ハピが切り口からほじくりだした分しか持ってなかったんだよね。お肉あげるから、代わりに解体お願いしてもいい?」
「うむ、わかった。では、明日解体するよう手配するかの。クロ、頼んでもいいかのう」
「おう、まかせとけ」
「料理長、それでよいな?」
いつのまにか近くに来ていた2人の妖精がわんこ大臣に声をかける。
「それでいいわけないじゃろうが、このもうろく爺が。周りを見てみろ、今すぐ解体するんじゃよ」
「そうよ、うめちゃんのいう通りよ。こんな美味しい匂いをさせてお預けなんて、ひどすぎない?」
どうやらこの2人がうめとさくらのようである。
「あたしはうめだ。しがないばあさんじゃが、よろしくの」
「私はさくらよ。うめちゃんと一緒のただのおばあちゃんだけど、よろしくね」
自称おばあちゃんの2人だが、妖精族は年齢がわからない、本当に年寄りなのか微妙だ。
「わりい。すぐに解体するから、出してもらっていいか?」
わんこ大臣の意見は有無をいわさず却下らしい。いますぐ解体することになった。
「いま猫トラックの中なの、それに、すっごい大きいよ」
「じゃあ、さっきの闘技場で解体するか。運んでもらっていいか?」
「うん、アオイ、道案内頼んでもいい?」
「おう、まかせとけ!」
その後は闘技場でクロ指揮のもと、軍のメンバーで解体をして、みんなで肉料理を食べた。クロとわんこ大臣、ブランシュなんて御代わりをどうどうと食べていた。クロとの勝負とかハンターランクとかの話は、どうでもよくなってしまったらしい。
ぴぴ達とアオイは、もう満腹でこれ以上食べれなかったため、アオイに案内してもらった王城の客室の中でミニぴぴぷちゃ号を出して寝るのだった。




