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人魚大戦  作者: 鮭さん
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閑話 地上の太陽

ワトソンの部下視点、この時代の普通の人間の視点の話です。

 僕は花の国の船の兵士。名前を語る程のものじゃない。


 僕は今地獄の様な光景を目にしている。


 御伽話の魔法陣の様に、空に浮かぶ音楽の譜面の様なもの。


 海は凍り、宙に浮かび歌を歌う人魚。


 そして、地上は青白い炎に包まれ、その炎と冷気が鬩ぎあっている。


 僕らも炎に包まれているけど何故か熱くはない。これは一体夢なんじゃないだろうか。


 その炎は一人の少女によってもたらされている。サンフラワー・ミーノス。この牛の国の王女だ。


 ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶ϵ( 'Θ' )϶


 きっかけはハーキュリアの連合国間で人魚討伐の動きが本格的に動き出した事。

 人魚討伐に先駆けて魔物討伐に於ける花の国の英雄、ウォーニー・ワトソンがハーキュリア大陸に向かい、僕もその一員として送り込まれた。


 船の朝はクラリネットの吹き上げから始まる。僕たち平の兵士は各々クラリネットを手渡され、それを吹き上げていく。


「詠唱! 笛は打楽器! 聞くは魔物の呻き声!」

「「「笛は打楽器! 聞くは魔物の呻き声!」」」


「詠唱ヨシ! それでは『ド』の音ぉー!」


 プヒー


 皆音は出ない。出ない様鍛えあげられている。


「『ド』の音ヨシ! 次ぃ! 『レ』の音ぉー!」


 プヒー


 これも音が出ない。こう言っちゃなんだが、僕らはこれでも精鋭揃いだからね。


「『レ』の音ヨシ! 次ぃ! 『ミ』の音ぉー!」


 プヒー 「ポー」


「貴様ぁ! 研鑽が足りん!」

「ぐはぁ!」


「ミ」の音をお漏らした奴が殴られる。


 だいたい「ファ」の音辺りまではお漏らしをすると上官に殴られる。完全に音が出ないクラリネットを吹き上げられるのはウォーニーさんだけだ。


 だから彼は尊敬される。音無き世界のクラリネットマスター。


 だが、そんな花の国の英雄も人魚の前では全く役に立たなかった。


 回転しながら高速で空飛ぶホタテ貝とか訳が分からない。そのホタテ貝を倒したのは船上でピアノの演奏をしていたアストリアと言う女性だった。


 しかもピアノをブンブン振り回して。


 なんて非常識なんだ。ピアノは打楽器じゃないんだぞ?


 結果、僕らの船は大きく損傷し、ハーキュリア大陸の牛の国での滞在を余儀なくされる。


 ちなみにそのアストリアさん、滞在の申請に牛の国の国王の所に出向き、そこで大暴れして、しかも何故か意気投合して、国王の屋敷に居着いている。全く訳がわからない。


 その後もワトソンさんが鬼(オーガ)討伐に招かれたりしながらも、日々平和に過ごしていた。


 そんな、ある日、朝の鍛錬をしていると海に人魚が現れた。


「ウォーニーさん! 人魚が出ました!」


「皆さん落ち着きなさい。この国の王は人魚に対して穏健派です。まずは私が話を伺ってこようじゃありませんか。私が帰ってきたら鍛錬の続きをしましょう」


 さすが僕らのワトソンさん! ワトソンさんがいつもの紳士的な笑顔で人魚に手を差し伸べる。


「おはよう。人魚のお嬢さん(マドモアゼル)。私の名前はウォーニーワトソ―」


 そこまで言ってワトソンさんは全身氷漬けになった。話し合いもへったくれも無いじゃないか。


 と、奇妙な服を着た黒づくめの男が人魚とワトソンさんのところへ走っていき、抜刀するとワトソンさんを一刀両断にした。


「「「ワトソンさん!」」」


 凍り漬けになったワトソンさんにヒビが入り、上半身裸のワトソンさんが中から出てくる。


「「「ワトソンさん!」」」


「シャツを着ていて命拾いしました!」


 さすがワトソンさん! 普通なら氷漬けの時点で致命傷だ。魔物の返り血でシャツを真っ赤に染め上げる事から「赤シャツのワトソン」と呼ばれる我が国の英雄。最上級のシャツがワトソンさんを守ってくれた!


 すると人魚が宙に浮かび出し、空に奇妙なものが見える。あれはまるで音楽の楽譜みたいだ。


「皆さん市場へ! 牛の国の皆さんを遠くに退避させてください! 範囲攻撃の様なものだったら手遅れになります!」


 さすワト! 魔物の攻撃は対個人攻撃にとどまるとは限らない。人魚の異変に対し冷静で的確な指示を出していく。

 効果はすぐに現れた。人魚の歌が聞こえると一気に気温が下がり雪が降り始めた。


 僕らは牛の魔物達に声を掛け非難させていく。途中前を良く見ていない牛の魔物達に何度も足を踏まれたりした。


 彼らを避難させながら思う。


 僕らは何故こんな事をしているのだろう。何故魔物の彼らを避難させているのだろう。彼らは人間じゃないのに。


 でもすぐにその考えを振り払う。見捨てたら目覚めが悪い。そう、自分に言い聞かせて彼らを退避させていく。


 港に戻ると先に戻った船の皆んなやワトソンさんは結構離れた所で人魚を見守っていた。海はもう完全に凍りついている。人魚の近くではさっきの黒づくめの男が氷壁に対し剣を振るっている。

 そして黒づくめの男の後ろに青い長髪の女が手に槍を持ち、何やら人魚と話していた。彼女は一体誰なんだろう。


「戦況がマズくなったら我々も退避します。今は彼女を見守りましょう」


 そう、ワトソンさんが僕に優しく声を掛けてくれる。優ししいワトソンさん! 優ワト!


「ワトソンさん! シャオエン見ませんでした!?」


 そんなワトソンさんを呼ぶ少女の声。振り向くと、角の生えた子供の魔物を抱えたアストリアと狼の魔物、トカゲの魔物が一匹づつ、トカゲの魔物に肩車された少女が一人いた。アストリアと一緒なら牛の国の王女なんだろうか。


「半裸で失礼します。見えますか? そこの港で人魚と話し合っています」


「上半身裸の変態」


「名誉の半裸です」


「ワトソンさんありがとう。すぐに暖めるからちょっと待ってね」


 そう言ってトカゲの魔物から降りた彼女は叫ぶ。


「氷を溶かせ、『プロメテウス』!」


 突然広範囲に地面から青い炎が湧き立ち、僕ら共々炎に包まれ氷を溶かしていく。


 なんなんだこの力は? 僕らも燃えているのに全く熱くない炎。


 聞いた事がある。かつてまだ、オリアナに魔物が跋扈していた頃、人間達は様々な加護や神具を使い魔物を退けていったと。


 彼らはやがて集落を作り、王と呼ばれ、今のオリアナの国々を作って行った。


 彼女もその神具の所有者と言う事だろうか。


 ならば、その力は魔物に対し振るうべき力だ。魔物の為に振るう力じゃない。


「人魚さん! 私たちと仲良くしましょう!」


 その彼女が信じられない事を言う。確かにこの国は人魚に対し穏健派と言っていた。だがそれはあくまで人魚を刺激しない為だと聞いていた。


 それが人魚と仲良く? 魔物の国の王女が?


 もしだ。もし魔物の大陸ハーキュリアと人魚たちが手を組んだのなら、その牙はどこへ向かうんだ?


 まず最初に浮かんだのはそんな最悪の未来だ。そしてそれは決してあり得ない事じゃない。今はまだ国々で小競り合いをしているそんな時代なんだ。人間だけのオリアナでさえ。


 ましてやこの先、人間と魔物が衝突しないなんて誰がいいきれるんだ。手に持つクラリネットに力が籠る。勿論何かをする訳じゃない。そんな事をすれば一気に戦争だ。ただ、心は常にオリアナを、花の国を想い手に力を籠める。


 そして牛の国の王女と人魚の話し合いが暫く続き、人魚が青い髪の少女を攻撃すると状況は一変した。


「氷を燃やせ、『プロメテウス』……その聞こえる歌を燃やせ、『プロメテウス』!」


 再度地表から炎が噴き出る。炎は青色から白色へ。まるで地上に太陽が降りたような強さを見せる。


「悪意を穿て、『プロ―』」


 そこで彼女は倒れた。周りの魔物が彼女を支える。炎は止み、黄金色に輝いていた髪がオレンジ色に戻っていく。


 僕は彼女が恐ろしい。彼女の敵意は人魚の発した全てを燃やしていた。人魚自身を炎に包まなかったのは恐らく彼女の幼さで、もし彼女が成長していれば躊躇なく人魚を炎に包んでいただろう。


 炎に包んだのは悪意を持った要因だけ。


 その証拠に、僕の手クラリネットは、跡形もなく蒸発していたのだから。もし彼女が人魚も燃える様に力を振るっていれば、僕も一緒に燃え尽きていただろう。


 もしその敵意がオリアナに向いた時に、人類は一体何が出来るんだろう。


 僕は今ここにある危機よりも、彼女が起こし得る未来に対し、ただただ恐れていた。

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