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第二話

「ふむふむ成程…レイジ君、でいいのよね?」

「あぁ」

 俺はその言葉に肯定を返した。

「苗字とかはないの?」

「覚えてないな」

 変に苗字を言うとこの世界の常識と噛み合わず、面倒なことになりかねない。という訳でしっかり嘘をついていく。

「何処まで覚えてる?」

 と聞かれたので、

「名前と服くらいしか覚えてないな」

 と返しておいた。

 女性はダークブラウンの髪を纏めながら適当に聞いてたのでそんな言葉に驚いたのかガタッと椅子から滑り落ちていた。

「大丈夫か」

「………えぇ、心配するほどではないはずよ、多分」

 今までベット二寝転びながら遠くにいるであろう女性の質問に答えていたが、今さっき一瞬だけ見えた姿が見えそうだったので、頑張って横に向いてみる。

「……いってててて……」

「あら、無傷というわけでもないようね。まだ診察もやってなかったし、一応見ときましょうか」

 ダークブラウンのウェーブが軽くかかった髪を後ろでまとめ、赤い縁の四角い眼鏡をかけた、褐色の肌に黄緑の瞳、そして白衣が特徴的な高身長の女性がしっかりと姿を現す。

「……そういや、どちら様で?」

 右に向いた姿勢のまま、俺は聞きそびれた名前を聞くためそう言葉を発した。

「……んーとね、ポリネシア学園医療教授のイネーシアよ。博士号も持ってるわ」

 と言ってきた。

「……ポリネシア学園?」

「あら、知らない?これでもそこそこ有名な学園だと思うけど。」

 そういう彼女に、思わず質問する。

「………どれくらい?」

「魔術関連の学園では、世界から見ても指折りの学園だと思うわよ。」

 Oh…。

「まさかのおえらいさんでしたか……先ほどまでの無礼の数々を……」

「あら、とってつけた敬語はいらないわ。普通に接してくれたほうが楽だもの。」

 どうやら、肩苦しいのは苦手なお気楽タイプのお姉さんらしい。

 いやぁ、これで気楽に話せ……待てよ?

「……魔術?」

「あら、ほんとに全部記憶がなくなってるかもしれないわね〜。面倒くさいわ」

 そうあくびをするイネーシアは何か考える仕草をした後、部屋を出ていった。

 数秒後、再度部屋に戻ってきたイネーシアの手には…分厚い、いかにもファンタジーな本が抱えられてあった。

 それをよっこらしょと両手で俺の目の前まで運ぶ。

 ドズン。

「読んでみなさい」

 殺す気ですか。

 え?何この音。ドスンだったらまだ良かった。ドズンって何?え?

 俺が内心青ざめていることはバレていないと思うが、果たして…。

「あなたさっき痛そうにしてたから、ちょっと診察するわね。その間暇だろうし読んでなさい」

「…まって、本邪魔じゃないの??」

 俺は当然の疑問を発すが、彼女はまるで当たり前かのように発言をした。

「何言って…あぁ、そういや記憶喪失なのか」

 そういって彼女は俺の前に立ち目を瞑った。

「…《解析(アナライズ)》」

 そう言葉が聞こえたと同時に、彼女は手を前に出す。そして、手を瞬く間に黄色の魔法陣のようなものが覆っていく。

 …成程、魔術か。

 俺はその一瞬でそれを理解する。ならば本を読んでいても何ら問題はないだろう。

 さて、この世界について少しでも詳しくならないとな。


 ◆


(中略)

 魔術とは、約五千年ほど前から存在すると言われている、当時の魔物に対しての兵器だったらしい。

 その頃人類は多数のダンジョン崩壊(ここでは、魔物が住処から溢れ出て大きな損害を及ぼすこと)の同時発生による魔物の暴走によって絶滅しかけていた。しかし、生き残りの一人《大賢者》が体内を循環している《魔力》というエネルギーを見つけ、それを応用し魔物に対して攻撃を与えられるようにしたものこそ《魔を討つ術》、後の《魔術》である。

 その人がイメージしたものを、《魔力》という自身の身体に宿るエネルギーの概念を使い具現化する。それが魔術。

 別に魔法陣のようなものや詠唱が必要なわけではない。あれは要するに魔術の“テンプレート”であって、魔法陣のようなものや詠唱を開発すれば特定の魔術を手順をすっ飛ばして使用することができる。ただそれだけなのだ。

 従って、イメージさえできてしまえば無詠唱で魔術は使えてしまう。

 これに関しては、《能力》も同じである。

 別に戦えはするが、戦闘中に極限までイメージに集中するのは困難をきわめる。なので、技名などを付けイメージしやすく、自らのポテンシャルをより出しやすくしているのだ。

 まぁ、それとなく似ているのである。

 魔術は大体が他人に真似られる技ばっかりなので、魔術師同士の戦いでは読み合いが絡む知識戦になり得る。ただ、技の引き出しが多いのが利点。

 能力はその人だけが持つ個性のようなものであり、能力者同士の戦いではより能力をバレずに、相手の能力を早く理解し、適応するのが大事である。技の引き出しは少なくなりがちなので、能力は重大な個人情報である。技が少ない分一点に集中しやすいのが特徴。

 要は引き出しの多さか究極の一か、である。

 そう考えると魔術はほとんど能力と変わらないのでは…?

 事実そのとうりなのである。

 ただ、前述した通り魔術は種類豊富であり、研究途中でありながらその数は一万を超えている。

 魔術には属性があり、火、水、自然(草)の三すくみ、そして無、闇、光の三すくみの大まかに六つの属性が存在しており、そこから派生された熱(火)、氷(水)、木(自然)、転移(無)、影(闇)、雷(光)などが存在する。

 やはりここが魔術の大きな特徴であろう。能力こそ能力同士の相性はあったもののダメージ量などは増減しないのでそういうところはとことん違うらしい。

 魔物には肉体に属性が付与されており、人間は一般的にいつもは無属性であり、魔術の使用中のみ属性が変化するらしい。

 なんか複雑だな。

 ただ新鮮でワクワクしてきた。今まではこんなものなかったからな。


 ◆


「……ふぅ、全身複雑骨折ね」

 本を読みながら今後の方針について考えていると、ふとそんな声が聞こえてきた。

「もう終わりなのか」

「えぇ、私は腐っても医療教授、こんなの朝飯前よ」

 それがどれくらいすごいのか分からないが、とにかく凄いのだろう。そう考えておこう。

 そんな会話に浸っていると奥の扉が開き、隙間から若い男性が顔をのぞかせてきた。

「イネーシア先生、連れてきましたよ〜」

「あら、早かったじゃない。」

 そのセンターカット気味の男性はタクヤと名乗った。ゆるい雰囲気の先生である。

「…連れてきた、とは…?」

「お、君が噂の記憶喪失少年かな?んんとね、君は此処で目覚める前の記憶はどれくらいあるんだい?」

 そう問われて、「名前と服くらいだな」と答えておいた。

「じゃあわかんないかもしれないけど、君と同じような登場の仕方をした青年がいてね。会わせてみたら面白いかな〜と思って」

 つまり俺みたいに世界の上空から落ちてきた奴ってことか?

 ……それ、シグマじゃあねぇか?

 まてまてまて、あのシグマだぞ?こんなゆるい雰囲気の奴についていくわけがない。

 …じゃあ誰が?

 そうして…()()()は姿を現すのであった…。

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