表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/40

8.みんなでウォーキング

 舞踏室での体操を終えた3人は、次は屋敷の庭園周りをウォーキングすることにした。外に出る前に、まずはエレオノーラの提案で、靴が足にきちんと合っているかどうかを丁寧にチェックすることになった。


「ヒューゴ、その靴、歩くと足が中で前後にズルズル動くでしょう?」

 エレオノーラがヒューゴの足元をじっと観察しながら尋ねた。

「動くかな? まあ、別に問題ないぞ」

 ヒューゴは軽く受け流したものの、歩いてみると案の定、足が靴の中で泳いでいるような状態だった。

「その靴、ちょっとあなたの足よりも大きくできているみたい。たぶん、革が使い込むうちに縮むのを見越して大きめに作りすぎちゃったのね」

 ヒューゴは、目を丸くして驚いた。

「いつも、こんなもんだと思って靴の大きさなんて気にしたことなかったな。きつくなければ、それでいいと思っていたぞ」

「歩くときに足を安定させるために余計な力が入るから、足首の前の方がどんどん固くなっちゃうわ。中敷きか詰め物で調整しましょう」


 次はフランソワの番だ。よく観察してみると、足をすぼませるようにして不自然に歩いている。

「……フランソワ、その靴、少し前にずれちゃって、足の指が靴の先に当たって痛いんじゃない?」

 フランソワの履いている靴は可愛らしいデザインだったが、歩くたびに靴の中で足が少し前に滑って動いているのが見えた。

「えっ?でもサイズは合っていると思うのですわ」

 フランソワが立ち止まり、自分の足元を心配そうに見下ろす。甲のあたりに隙間があいているのをエレオノーラが指で示した。

「うん、大きさは確かに合ってる。でも、甲の部分がゆるいから、歩くたびに足が前に滑ってるの。これ、無理に歩き続けたら足裏に負担がかかるのよ。特に土踏まずが硬くなって、疲れやすくなっちゃう」

「うぅ……でも、運動靴って可愛くないものが多いのですわ。紐靴ってゴツゴツしてて、なんだか私の服に合わなくて……」

 フランソワが少し困ったように唇を尖らせる。

 その複雑な気持ちは、エレオノーラにもよく分かった。おしゃれと実用性のせめぎ合いは、いつだって悩ましい。

「その気持ちはよくわかるわ。だけどね、可愛さだけで選んで、大切な足を壊したら元も子もないのよ。歩き方が悪くなると、姿勢にも悪い影響が出てくるし、腰も痛くなってしまうわ」

 そう言って、侍女のマリーに自分の新しい運動靴と2人分の中敷きや詰め物の準備を指示した。


「紐靴だって工夫すれば可愛くできるものよ。色とか、デザインとか。私の靴を用意させたから、それに中敷きと詰め物をきちんと入れて、今日だけでも使ってみて」

「まぁ、よろしいの? でも……エレンの方が、足が大きいですわよ?」

「そうよ。だから、ちゃんと調整して使おうって言ってるの。合わないまま履いて痛くなるよりずっとマシでしょう?」

 フランソワはハシバミ色の目を丸くして、そして小さく笑った。

「ふふ、ありがとう。さすがエレン、頼りになるわね」

「当然でしょう。昔から私はいつでもフランソワの味方よ」

 冗談めかして言いながら、エレオノーラは侍女から靴を受け取って詰め物を調整し、フランソワに履かせてみた。

 フランソワは、小さく首を傾げた。

「でも、エレンの靴って、何気に可愛いのよね。これで運動用なんて、ずるいわ」

「ふふ。おしゃれと実用の両立は、努力と工夫次第よ」

 そう答えるエレオノーラの声には、ほんの少し誇らしげな響きがあった。

(でも、この国の技術じゃ、本当にぴったりの靴を作るのは難しいのよね)

 と心の中で考えながらため息をつく。運動靴に関する改善案も頭の片隅にメモしておき、後で父に相談しようと決めた。


 靴の調整が終わると、3人はいよいよウォーキングを始めた。

「歩くときは、最初はできるだけゆっくり、背中の真ん中が動くように腕を振って歩くの。そうすると、正しい姿勢になるんだって」

 エレオノーラが2人に指示を出す。

「正しい姿勢だと、……全身の血流が良くなるから、無駄な肉が……落としやすくなるって……」

 ゆっくりとしたペースで歩きながら、全身の筋肉をまんべんなく動かすよう心がける。腕を大きく振って肩甲骨を動かし、背筋をピンと伸ばして体幹を意識して……と、考えながら歩いていたら、エレオノーラは早々に息が切れ始めた。舞踏室を出るときにしっかり汗をふいたはずなのに、また汗で運動着が体に張り付いてしまっている。


 前を見ると、フランソワが「背中の真ん中が動く……?」と言いながらぎこちなく歩いている。

「ちょっと、背伸びするような、感じで、歩いてみて」

  息も絶え絶えなエレオノーラのアドバイスを試したフランソワは、目を輝かせた。

「あら!腰が楽ですわ!こんなに違うなんて、すごいのですわ~」

 颯爽と歩きだしたフランソワを見ている、ヒューゴの額からはエレオノーラと同じく玉のような汗が流れている。運動不足の体には、ウォーキングでさえかなりの負担だった。

「はぁ……ちょっと、歩いている、だけなのに、意外と、キツイな……」

 汗を拭うヒューゴが愚痴を言う。

「でも気持ちいいですわね!風も涼しいのですわ!」

 と、歩き方をマスターしたら余裕が出てきたフランソワ。

「確かに、辛いけど、楽しい……」

 ヒューゴも辛そうながらも笑顔を見せた。


 ウォーキングを終えた後にエレオノーラがトレーニングの終了を伝えると、滝のように流れてくる汗をタオルでふいているヒューゴと、息を整えているフランソワが素朴な疑問を口にした。

「エレン、これで本当に痩せるのか?ウォーキングはちょっと辛かったけれど、もっとキツい運動をたくさんすると思ってたぞ」

「私もですわ。……あと、食べ物はやっぱり減らさなくてはいけないのかしら。私、前にダイエットに挑戦したときは、空腹に耐えきれなくて挫折してしまったのですわ……」


 彼らの不安そうな問いに、エレオノーラは笑顔で答えた。

「今の私たちには激しい運動は逆効果だわ。体に負担をかけすぎると、かえって代謝が悪くなってしまうの。まずは体全体を整えることから始めましょう。それだけでも結構痩せるはずよ。食事も、夜は野菜とお肉やお魚を多めにして、パンを少なくする程度でいいの。無理な制限は必要ないらしいわ。むしろ栄養をしっかり摂ることが大切なんだって」


 2人は半信半疑の表情を見せながらも、想像していたより気軽に取り組めそうだとほっとした様子だった。エレオノーラは最後に励ますようにこう付け加えた。

「焦らずじっくり続けることが一番大切みたいよ。すぐには目に見える効果が出ないかもしれないけど、少しずつ、必ず体は変わっていくはずなの。一緒に頑張ろうね!」


 そして、3人は、毎日のトレーニングを約束して解散した。これからの体の変化を楽しみにして。


靴、本当に大切ですよ!私は大きすぎる靴を履いて、まるでスポーツ選手のように膝に水が溜まってしまったことがあります。(運動なんてしていなかったのに。)特に歩き方が下手な方は要注意。歩き方が下手な人は足首をぴったりホールドできる紐靴が一番です。ちなみにゴムはダメです。


もし、面白いと感じていただけましたら、ブックマーク登録と、ページ下の 『ポイントを入れて作者を応援しよう!』 より、評価 ★★★★★ をいただけますと幸いです。

8月いっぱいは毎日21時に更新します。9月からは2日に1回を予定しています。


X(旧Twitter)のアカウントは、@kitanosiharu です。感想お待ちしています!

https://x.com/kitanosiharu

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ