18.手を振っただけなのに。
それから璃央はおそらく大学を終えるとすぐに帰宅して、私を抱えて庭を見ることが多くなった。
「今日も幸せだな……」
璃央はそんなことをつぶやく。
私は今日も璃央に抱えられたまま、だいぶ慣れたが少しドキドキとして庭を見ていた。
「あ、庭師さんだ」
たまに見かけていた庭師さんを発見して私は少し嬉しくなる。
関わるのは璃央と使用人さんだけの私の唯一の外界の人である庭師さん。
「庭師……?」
耳元で璃央の声が聞こえる。少し低かった。
「あの庭師さん、たまに見かけるんですよ。この間、手振ったら振りかえしてくれて……」
少し嬉しくなった時の気持ちを思い出して、少し微笑んでいると……
「きゃっ!」
いきなり凄い力で押され、視界が変わった。
「…………」
目の前には……璃央の顔。
しかしその表情は……瞳からは光が消え、瞳孔は開き、真顔だが……ぞっとする怖さがあった。
私はベッドに押し倒されたようで、両脇には璃央の腕があった。
「……手、振ったの……?」
璃央は顔を近づけて、私に問う。
「……は……い……」
突然のことに理解が追い付かないけれど、突然、璃央の表情や態度が変わり、同様したまま硬直して返事をした。
すると……
「何でそんなことするの? 茜は僕の物でしょ? 他の男の視界に入ったの? 他の男に手振ったの? あの男が好きなの? あの男のところに行きたい? あの男に会いたいの? 僕よりあの男の方がいいの? 僕から離れるの? あの男」
「り、璃央!!」
私を見ていない、視点が飛んだ瞳で私を見つめながら捲し立てる璃央に、焦って私は名前を呼んだ。
「…………」
璃央の瞳が少し戻った。
「た、ただ、手を振っただけです!! ここに入ってから外の人と関わってなかったから!!」
「僕と関わってるじゃん、何で僕がいるのに他の男に手を振るの? 茜は僕の物なんだよ? 勝手に他の男と関わっていいと思ってるの?」
「っ……」
璃央が……いつもの璃央じゃない……瞳も……表情も……雰囲気も……。
ただ、庭師さんに手を振っただけなのに…………怖い。
私は恋心を抱いていたはずの璃央に、とてつもない恐怖を感じていた。




