16.無邪気な微笑み。
次の日の朝も、私は璃央に抱き枕にされたまま使用人さんの声で目を覚ました。
まだ少し恥ずかしかったが、使用人さんは何も気にしていない風だったので、恥ずかしさもだいぶなくなってきた。
なかなか起きない璃央をなんとか起こし、二人で朝食をとる。
「美味しい?」
「はい……」
美味しい朝食に私が少し上機嫌になっているのを、璃央は見逃さなかった。
朝食が下げられたあと、璃央はテーブルに頬杖をついて、
「今日はこれから茜の幸せを一緒に感じようね」
と、微笑んだ。
「……私の幸せが……璃央の幸せかどうかはわかりませんが……」
幸せは人の数だけ違うと思うし、私は多分、最下層の人間なので、璃央には私の幸せは幸せじゃないと思っていた。
「試してみなきゃわからないよ」
璃央は、さ、ベッドに座ろう。と立ち上がって私を促した。
二人で並んでベッドに座る。
大きな一枚ガラスの窓からは、今日も広大な庭が見え、まだ午前中の柔らかい陽差しが燦々と降り注ぐ。
「…………」
私はボーっと窓の外の綺麗な緑を見つめ、暖かい太陽の光に瞳を閉じた。
今日も気持ちがいい。幸せだ。
しかし、視線を感じて瞳を開き璃央を見る。
「今、幸せ?」
璃央は真顔で私を見て問う。
「はい……幸せ……ですけど……」
「…………」
窓の外を見て、璃央は難しい表情をする。
「ふふ……」
私はつい笑ってしまった。
「何がおかしいの?」
こちらを真顔で見る、璃央。
「いや……やっぱり璃央には幸せじゃないんだろうなと思って……」
少し顔を下げながら私は生きてきた環境の違いを痛感した。
「うん……何か……つまんないよね、ボーっと庭見てても」
正直に璃央は庭を見つめて言う。
「璃央にはこれが当たり前だから……私の生きてきた部屋は日の当たらない薄暗い部屋で、お腹いっぱいご飯も食べられなかったから……」
「…………」
俯いて話す私を璃央が見つめているのが視界の隅に見えてわかる。
「そっかぁ……」
その時、ベッドに軽く置いていた私の手に、璃央の手が重なった。
「…………」
思わず身体を硬直させる私。
何……?と、思っていると、
「あ!」
璃央は突然叫んだ。
「ど、どうしたの?」
驚いて私が問うと、
「今……何か……じんわりした幸せ?感じた……」
「え……?」
思わず私は聞き返してしまう。
「……茜の手に触れて庭見たら何か……なんて言うのかな……じんわりした気持ちが茜の手から全身に流れてきて、幸せっていうか……何か……このまま何もいらないや……って思った……これって幸せって言うのかな?」
「っ……」
自分が幸せと名称つけた感覚と同じ感覚を璃央が感じていて、私は驚いたまま何度も頷いて、
「それ!その感覚が私の幸せです!」
早口で璃央に伝えた。
「……そっかぁ……何で急に幸せになったんだろう……あ、茜から移って来たのかな?」
重ねていた手を握って持ち上げて、璃央は嬉しそうに無邪気な子供のような微笑みを私に向けた。
「っ……」
その微笑みの美しさに私は赤面して俯いてしまう。
金髪碧眼の王子様の無邪気な笑顔なんて反則だ。
今まで璃央の顔は綺麗だと思いつつも、心が揺れることがなかった私は、いつもとは違う笑顔だからか胸がドキドキとして、自分でも訳が分からず動揺していた。




