プロローグ
大陸中央に聳えるサウア山脈中央部にある小王国アンパタ。
三大国に囲まれながらも、その三国に繋がる山越えの通商路の要所として栄え、三国いずれにも肩入れせず、中立を守ってこの地を治めてきた。
そんな小王国に西隣のグスコ帝国が攻め入り、建国以来の危機が訪れる。
王妹は、宰相と近衛兵数名と共に都を脱出するのだった。
国傾きしとき、天魔は微笑まむ。
そんな王家に伝わる伝承の一つをばば様に教えて頂いたのは、我が三つのときだっただろうか?
王族に男子供はおらず、父上の子は、一つ上の姉と妹の我の二人のみ。
結局、成人した姉が王位を継ぎ、我はそれを支えようと『宰相補佐』として、王城の政務室に詰めた。
とはいえ、所詮大国三国に囲まれた小王国など、父上なしで我ら姉妹が容易に維持できるものではなかったのだ。
大陸中央に聳えるサウア山脈の高所にある猫の額ほどの平地に都を一つ築き、その周囲に僅か五つほど、小領主の管理する土地がある程度の国なのだ。
その小領主たちが隣接する大国と結託すれば、我が国の平和など容易く崩壊する。
ばば様は、はたして……我が国の行く末を案じて、あのような言葉を教えて下さったのだろうか?
我は、宰相と王族直轄の兵士(近衛)十名ほど従えて、都アンペラを脱出したところだった。
「はあ、はあ、それで、姉上……陛下はどうなった?」
「はっ、おそらくは……グスコ帝国兵の手に落ちたかと。
奴らは、本気で、陛下の心臓を生贄に、大河の復活を大地神に乞うつもりなのでしょう」
「はあっ、いくら源泉の一つが我が国にあるからと言って、陛下の心臓を生贄などと……本当にふざけておるのか!?」
生まれたときからずっと一緒にいた姉上が命を落としているかもしれないと思うと、胸が締め付けられそうなほど苦しくなる。
一つ違いとはいえ、双子のように似ていると言われた我ら姉妹。
表に出るときは常に姉上と我は一緒だったのだ。
もし我一人のみで表に立てば、民の動揺は激しかろう。
姉上に何かあったとなれば、この国の存亡にも関わるのだ。
「王妹殿下、今更ではございますが、陛下を助ける兵を出すことはもはや困難で……」
「分かっておる!
帝国め、いきなり大軍を寄こすなど、最初から我が国を滅ぼすつもりだったか」
山脈を越える難所の多い峠道とはいえ、我が国が交通の要所であるのは確か。
守るにしろ、攻めるにしろ、我が国を手中におさめておく利点が多いのは分かる。
しかし、三国いずれにも肩入れせず、中立を守ってこの地を治めてきた我らを否定するか?
それとも、大河が枯れかけているのに、あの帝国がそれほど動揺しているとでも言うのか?
「はあ、それで、小領主ガルカは、帝国兵をそのまま受け入れていたと言うのだな?」
「間違いございません」
「あの裏切り者め! 姉上が兵を引き連れてガルカに向かっているのを知っていて……」
我がそう言いかけたとき、
「はあっ、はあっ、王妹殿下っ、至急申し上げたいことが!」
伝令の兵が飛び込んできた。
「何だ?」
嫌な予感がする。
真っ青な兵士の顔が、我の心に針を刺す。
「はっ、ガルカで囚われた、へ、陛下の、はあっ、し、心臓が、大地神に捧げられたと!」
「そ、そんな……」
一番聞きたくなかった報告。
世界が闇に包まれたような気がした。
心臓がドクドクと激しく鼓動し、息が乱れる。
王族として取り乱してはならないと分かっていても、我は絶望に囚われた。
『では行ってくる』
凛々しくもそう告げられた姉上の笑顔。
あの三日前に交わしたあの言葉、あの姿が最後になろうとは。
もはや、この国に希望は残されていない。
まだ成人まで半年もある我では、王位も継げない。
何より、頭の良かった姉上のように差配することだってできない。
我は、我が一族は、我が国は、もうお仕舞いなのだ。
そう思った。
「王妹殿下、大丈夫でございますか?」
一緒に脱出した初老の宰相サンチェロに声をかけられ、我はハッとした。
直轄兵もいる中、我が絶望に浸っていてどうする?
我は自身を心の内で叱咤して、声が震えないよう気を付け、サンチェロに告げる。
「大丈夫だ。
それで、王城に忍び込んだ帝国の工作兵はどうなった?」
「どうやら、宝物庫を漁っている様子で、おそらく即位の儀で使う宝物を探しているのかと」
「ふっ、本気で我が国を潰すつもりのようだな」
「そうでございますな。
おそらく、傀儡の王ガルカを立て、他二国に対しては我が国の内紛として見せかけるつもりなのかと」
きっとサンチェロの言う通りなのだろう。
小領主ガルカが王となれば、表向きは我が国の内紛として処理できる。
しかし、王族の血も引いていないあのガルカが、この国の王だと!?
あの者は、父上と姉上から受けた恩すらも忘れたというのか?
それとも、ずっと昔から帝国と繋がり、我が国を潰す算段をしていたというのか?
「こうなれば、王妹殿下、殿下に王位について頂くより他にないでしょう」
サンチェロの声が遠く聞こえる。
「無理だ。
我が即位するまで半年もこの国を維持するなど」
「しかし、この国に残された王族は殿下以外いらっしゃらないのですぞ!」
「宰相っ、姉上なしでっ、本気でっ、半年もっ、この国がもつと、思っておるのか!?」
我は思わず声を張り上げてしまい、ハッとする。
王族の、それも王妹である我が、この様とは。
うう、姉上に合わせる顔がないわ!
「すまぬ、少し一人にしてくれ。
至急の報告があれば聞く。
そのときはすぐに呼んでくれ」
「ははっ」
我は、自身を落ち着かせるため、外幕の外へ出た。
幸せとはこれほどまでに脆いものであっただろうか?
今まで国が傾く、国が滅ぶことなど本気で考えもしなかった。
どれほど辛いことがあっても、姉上がいて、サンチェロがいて、馴染みの直轄兵がいて、陽気なアンペラの民がいて、国はこれからもずっと続いていくのだと思っていた。
「ああ」
姉上に会いたい。
姉上に抱きしめてもらいたい。
我は甘えん坊なのだ。
齢十四にして、後半年で成人になるのだと分かってはいても、政務の後の時間には、姉上に一度は抱き付いていた。
それがもはや叶わないとは。
今なら、ばば様の言葉の意味も分かる。
今天魔、すなわち悪魔がもう一度姉上に会わせてやると囁けば、我は即座に頷いてしまうだろう。
「ふふっ、悪魔に魂を売ればよいというのか」
我は涙を拭いながら、笑ってしまった。
我に近付く悪魔殿は、さぞいい微笑みを浮かべてくれるだろう。
僅かな奇跡と引き換えに、これほどまでに絶望に染まった我の魂を食えるのだから。
さて、ここでその悪魔殿が現れてくれるならば、大声を上げて笑ってしまうところなのだが、どうだろう?
「現れる訳がないか……」
そんなに都合よく、悪魔殿が現れる訳もない。
僅かに草の生えた乾いた地面に落ちていく自身の涙を見詰めながら、我は溜息を吐いた……。
そのときだった。
視界に入っていなかった枯草の茂みの向こうで何かが明るく光ったのだ。
まっすぐに見詰めていた訳でもないのに、その眩しさに思わず目を閉じてしまう。
瞼の向こう側ですら、世界が一瞬真っ白になるのを感じた。
「うっ」
目を閉じていたのに、少しばかり目が痛いような感じがして、我はおそるおそる瞼を上げていく。
一体何が起きたというのか?
顔を上げて、うっすらと目を開けて、光ったその先を見ると……何と、真っ白な少女がいた。
「……ふーん、これが管理者用アバターか。
意外とリアリティー高いな」
甲高い少女の声。
アンペラを駆け回る子供たちでもこんな声は出さないだろう。
それにしても眩い。
何だ、あの肌の白さは、そして腰まで伸びる髪は黄金のようではないか!
齢八つから十といったくらいの容姿だが、白い肌の頬を僅かに朱色に染めたかわいらしさ、いや、あの顔の造形は、人間のものではないかのように思えた。
「そ、そなた、今どこから現れた……?」
「こんにちは、あなたがNPCさんですか?」
「はっ!? ェ、エヌ・ピー・シー?」
意味が分からぬ!
しかし、話しかけられた途端、心臓が飛び跳ねるような感覚があった。
「ふーん、管理者用ビューワーでも見てたけど、やっぱりこのアバター、世界観に合ってなさ過ぎじゃないかなあ。
日焼けした小麦色の肌に赤褐色、茶系統の髪色じゃないと、この世界のキャラクターとして浮くよねぇ?」
「な、何を言っている!?」
この者、我を見ているのか、見ていないのか、本当によく分からない。
ただ、ちらっと視線を向けられただけで、我は身じろぎ一つできなくなってしまうのだ。
「ふーん、NPCのデータをコピーして管理者アバターに貼り付けできるのか?
この子のデータは……“Ctrl+U”、“GetProperty”っと、ヘッドマウントディスプレイ使いながら、ブラインドタッチするの、少ししんどいな。
まあ、できなくはないけど……」
少女が何かを呟きながら、空中を指で叩いている。
一体何をしているのだろう?
何かの遊びか、それとも何かの……。
「うん? IDが二つ出てきたな。
もう片方は赤色……ああ、そういうことか、同じ人間が二人になってもあれだし、こっちでいいかな?」
「お、おい!」
我がそう声をかけた途端、少女の身体が再び白い光に包まれる。
「うっ!?」
次から次へと、本当に一体何が起きているのだ!?
目を瞑り、また瞼越しに眩い光を感じて、顔を背ける。
ほんの僅かな時間ではあったが、やはり目に悪い。
一息吐くほどの時間の後、ゆっくりと目を開いていくと、少女のいたところに姉上がいた。
「………はっ、はあっ!?」
全身に鳥肌が立った。
何が起きたのか、まるで分からない。
光の中から唐突に少女が現れたように、今度は少女が姉上に化けたのだ。
決して少女のいたところに、入れ替わって、姉上が現れたという訳ではない。
我に無関心そうな様子からも目の前の姉上が、本物の姉上ではないということだけは分かる。
あの白い少女が化けたというのか、我の姉上に?
つ、つまり、少女は、悪魔、天魔……そう、我が先ほど気まぐれに望んだ悪魔殿なのだろう。
「そんな……」
見よ、あの胸の傷。
鎧を脱がされ、薄着のまま胸元を切り裂かれ、心の臓のところは縦に切られている。
血の一滴たりとも垂れていないにも関わらず、僅かに開いた傷の奥は真っ暗闇だ。
まさか、悪魔殿は、ぁ、姉上の身体に受肉されたということなのか!?
いや、姉上の皮を被っているようなものなのかもしれない。
「あっはっはっは、悪魔殿に叶えて頂ける奇跡など、こんなものか!」
我は、姉上の復活を願っていた。
悪魔に魂を売れば、三日前の、あのときのままの姉上が復活するのではないかと思っていた。
しかし、現実とはこんなものだ。
ははっ、とはいえ、悪魔殿の入った姉上さえいれば、我が国はもう暫く持ち堪えることができるだろう。
すぐさま国が滅びるという最悪の事態を避けられただけ、よしとするしかないか。
「姉上を失って咽び泣きたいところなのに、こんなときでも、国の心配しなければならぬとは、王族とは不自由なものだな」
そう、今は悪魔殿との交渉のときなのだ。
我の魂で、我の寿命で、どれほどの時間、姉上の代わりをして頂けるのか。
もはや、大地神の加護など、我にはないだろう。
ただ、せめて半年から一年、ときを稼いで、国の民を安全な場所に移さなければならない、それさえ見届けられたなら、我はどうなってもよい。
それだけの覚悟を決めて、我は悪魔殿に近付いて行った。
「悪魔殿、我の願い、聞き届けて頂き感謝する。
ご存じかとは思うが、この国は、姉上なしで存続することが難しい。
せめて、半年から一年、姉上の代わりに我が国の王として君臨して頂きたいのだが、大丈夫だろうか?」
「……悪魔?」
姉上の美貌を引き継いだ悪魔殿は、長い赤髪を払いながら、首を傾げる。
うっ、悪魔殿の名前も知らずに話しかけるのは不敬だったりするのだろうか?
もし高位の悪魔であるなら、機嫌を損ねて、我の魂を刈り、そのまま戻られてしまう……なんてこともあり得るのかもしれない。
我は公式行事で、姉上=陛下に対してそうしているように、臣下の礼をとる。
王族とはいえ、陛下の前では、我が『宰相補佐』にしか過ぎないように、悪魔殿……いや、悪魔様の前では、ちっぽけな人間風情にしか過ぎないのかもしれない。
「ふ、不敬であったなら申し訳ない。
もはや、我は悪魔様に魂を売る以外に道はないのだ。
我にできることならば何でもする、我の願いを何卒叶えて頂きたい」
「……よく分からないけど、何かのイベントが発生したのか?
まあ、後で谷田さんに訊いておこう」
ぶつぶつと悪魔様がよく分からないことを呟いている。
冷や汗が噴き出る。
悪魔様は人間ではない。
我など、そこらで這っている蟻と同じなのかもしれない。
まるで我と会話を交わそうともしない悪魔様に、我は焦りを覚えた。
「あ、悪魔様、我など、取るに足らない存在であることは分かっている。
だが、我の願いで、姉上として現れたのなら、聞いて頂きたい」
我は、我が国で定められている最敬礼で、膝を付き、悪魔様に声をかける。
「はい、何でしょう?」
姉上の声音で、だが、明らかに姉上とは異なる口調で悪魔様が答えられる。
我はホッとしつつも、暫く悪魔様には『毒をもられて声が出ない』ということにして頂かねばならないかと考え、唇を噛んだ。
「こうやって谷田さんとお話するのも久しぶりですね」
大学入試を終えた僕は、久しぶりにプログラミングの勉強に使っているパソコンを立ち上げ、Skyperでネットの知り合いと話をしていた。
相手はゲームアプリ開発をやっているプログラマーの谷田さん。
とあるライブラリーのフォーラムで質問をしていたときに知り合い、中学一年生のときからSkyperで話をする仲だ。
父親の影響で古いパソコンの話もそれなりに分かることもあって、谷田さんとは以前から週末の夜に楽しく話し合っていた。
「いやー、メールでも送ったけど、合格おめでとう!
これで思う存分アプリ開発もできるね」
「どうもありがとうございます!」
「それにしても、情報系学科、倍率高いんだろう?
よく頑張った、偉い!」
「いえいえ、恐縮です」
「うちの社長にも話したんだけどさあ、喜んでたよ。
ティティウス君さえ望むなら、ぜひうちに入社してもらいたいってさ」
「まだ入学前ですよ?
いくらなんでも気が早過ぎるのでは?」
谷田さんは、本名でフォーラムでの活動をされていて、僕は依然としてハンドルネームのまま。
それでも、谷田さんの会社の社長さんとも二度ほどSkyperで話をしたこともあって、そろそろ本名も名乗るべきだろうかと思ってしまう。
「まあ、そうは言っても、うちのゲームのアルファ版テスターまでやってもらったりして、信頼されているからね。
このSNS時代、うちの若手連中ですらゆるゆるな感じがあって心配なのに、ティティウス君は守秘義務を課している訳でもない中、ちゃんと秘密にしてくれていて、社長も感心していたよ」
「まあ、あんまり目立つのも好きではないので……」
「ははっ、そういうことにしておこうか?
あっと、そうだ、アレ、買ったんだって」
「買ったといいますか、合格祝いに買ってもらいました、オケラス。
やっぱりスマホを差し込む簡易型のヘッドマウントディスプレイとは違いますね!」
「そうか、それはよかった」
「はい!
やっぱり、没入感はかなりあって興奮しました!
まあ、ですが、アニメの世界みたいにはなかなかいかないんですね」
「ははっ、そりゃそうだよ。
うちも今回試作してみたけど、ビジネスベースにのせるには厳しいかなあ」
「うーん、そうですか」
「小さいとはいえ、一応専用サーバーも用意したんだけどね。
一年間契約で……残り後半年、テスト終わったら、別用途にまわすつもり」
「それは残念です」
「まあ、でも、ティティウス君にはぜひ一度試してもらいたくてね。
社長から管理者権限でユーザーアカウントを発行してもらったよ!」
「ぃ、いいんですか、それ?」
「ああ、開発中止だから、何してもらってもいいよ。
管理者用のビューワーと、管理者用のシェルも使える。
一度管理者用のクラウドスペースにファイルをあげて、ワールド内に配置することも可能だよ」
社長さんにまで信頼してもらっているとはいえ、そこまでしてもらって、本当にいいんだろうか?
さすがに心配になってくる。
テスター経験もあるから、やらかしてはいけないラインは分かっているつもりだけれど、どうなんだろう?
「ファイル形式は何ですか?」
「社内では、VRMLの独自拡張版を使っているけど、普通のテクスチャ付きVRMLでもアップできる。
STLでも可能かな。
テクスチャ付きVRMLは、前に俺の上半身を送ってあげただろう、あんな感じだ」
ああ……下半身ぶつ切りの谷田さんの三次元モデルはさすがに怖かった。
「テクスチャファイルは同じようにクラウドにあげればいいですか?」
「ああ、自動で紐付けされて、ワールド用オブジェクトとして自動配置されるから、特別なことはしなくていい」
「なるほど」
「うちの若手連中なんて、開発中止になったのをいいことに、東京タワーやら何やらを森林地帯に配置してね。
ティティウス君がログインする前に世界観ぶち壊しされてもアレだから消させたけど、ティティウス君も飽きたら色々やってみて」
「えっと、どういう世界観なんでしたっけ?
中世ヨーロッパ風ですか?」
「いや、さすがにそれは定番過ぎるからね。
社長のご意向で、違う方針になった」
「日本の戦国時代風とか、はたまた青銅器時代風とかだったりしますか?」
「まあ、それはやってみてのお楽しみってことで」
「分かりました」
「管理者用シェルのマニュアル、後で送っておくよ。
PDFのパスワードはいつも通りで」
「それはそろそろ変えた方がいいのでは?」
「ははっ、社長にそう伝えておこう」
その後は、管理者用シェルの使い方を教えてもらい、いつものように午前一時過ぎまで話し込んでしまった。
オケラス。
パソコンにUSB接続して使用するタイプのヘッドマウントディスプレイだ。
アニメのように、体感全てをバーチャル空間にダイブさせるようなことはもちろんできない。
VRヘッドセットで物理的に左右の目にVR世界を映し出し、左右の手に持つVRタッチコントローラーでバーチャル空間のものに触れたり、操作したりできる程度だ。
それでも立体視はできるし、音の臨場感も高い。
まあ、ずっとやっていると汗ばんで大変だけれどね。
サンプルでも、かなりの没入感があったので、谷田さんの会社で開発されているゲームにはかなり期待していた。
「ええっと、まずはビューワーで管理者アバターを出現させるポイントにピンを落とすっと」
ビューワーは、Goggles Earthみたいもの。
地球のものではない大陸を宇宙から見下ろしているような感じになる。
テクスチャもかなりしっかり作り込んであるようでリアルだ。
日本やヨーロッパと比べると緑の少ない大地。
アフリカ南部や南米の西海岸辺りに近い雰囲気かもしれない。
大陸の東側は緑がやや多いところもあるけれど、ここが東京タワーが一時配置されたという森林地帯だろうか?
谷田さんたちがどういう舞台を用意してくれているのかと思うと、ワクワクした。
ピンを落としたのは、サウア山脈という大陸中央に南北に聳える山脈中央部にある小国。
アンパタ小王国というところだった。
それにしても、試験的な開発なのに、お金をかけ過ぎではないだろうか?
最近だと、AIが手描きのマップをリアルな航空写真風画像に自動変換してくれるらしいから、そういう技術を使っているのかもしれないけれど。
「さてと、いきますか」
キーボードはすぐ手が届くところに置いてある。
“Ctrl”+“U”で、オケラスとPC画面上に管理者用シェルが現れて、管理者権限でワールドの操作ができるんだ。
普通に3Dグラフィックのライブラリーを使ったことのある人なら分かると思うけれど、管理者用アバターの位置を手動変更すれば、それだけで瞬間移動が可能になる。
そう、“SetPosition”でワールド座標を打ち込むか、ピンのIDを指定すればいいだけだ。
まあ、これだけでもズルだよなあと思ってしまう。
「オケラスのサンプル、結構よかったけど、こっちは世界が広がってるんだもんね。
普通の徒歩移動をやるとVR酔いが酷いことになりそうだから、基本シェル頼りになりそうかな」
もしくは空中に配置して、“Translate”コマンドで飛行機みたいに移動していくか、だ。
リアルだと、人間がまっすぐに空を飛んでいる訳で、かなり怖いかもしれない。
まあ、既にジェットパックとかあるので、現実でもできない訳ではないけれど、何も装着していない人間が飛んでいるとリアルエスパーだ。
後はワールドの作り込みだけれど。
もし中途半端に放置されているところとかあったら、僕が弄っちゃっていいんだろうか?
「まあ開発中止になったって話だし、今回ばかりは色々モデルを配置させてもらってもいいかな?」
世界観には合わないかもしれないけれど、ヨーロッパの城塞都市なんかを人の少なさそうな大平原に出現させてやってもいいかもしれない。
まあ、リアルでやると、気候が違い過ぎて、生活が成り立たないかもしれないけどね。
僕はどこかのフォーラムに、リアルなVRMLの都市パーツがないものかなんて思いながら、接続を開始したのだった。
かなり昔にコミケ活動で小説を発表していたこともありましたが、久々に表で活動してみることにしました。
よくあるような設定のお話ですが、CGの世界のオブジェクトが現実化すればどうなるか、楽しみながら書いていきたいと思います(ネタバレが……)