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村を棄てる
いま連載している作品で調べ物をしているときに思いついた、そんな感じ
さようなら、さようなら。
村を出ていった息子が迎えに来た。
こんな不便なところにいたら時代に取り残されちゃう。
そう早口でせかす息子には、幼かった時の面影が見当たらない。
高度経済成長という魔法の言葉。
それが正しいことなのかは置き去りに。
自ら崖を飛び下りるレミングスのようだ。
マタギだった祖父は、あの山の麓に眠る。
墓はない。
山の木々が墓標なんだと、生前話してくれた。
この村に残っていた最後の住人が出て行ってしまえば、ここはどうなってしまうのか。
電気も水も、なくっても生きていけた。
息子はこれじゃ生活できない、という。
豊かさ、便利さとは、なんだろうか。
先人の努力の結晶ではあるのだろう。
それが必要なのかは、また別の話だ。
山がないている。
行くなと哭くのか、それとも、さらばと泣くのか。
切り取っておきたい青空と故郷。
山に森に呑まれる村は、それは、記憶にしかなくなってしまう。
その記憶もいつしか消える。
故郷は、三千世界に辿りつけるのだろうか。
さようなら、さようなら。
また逢う日まで。




