第1話:幼馴染が怖すぎて孤児院を脱出した件
異世界に転生したので、今度こそ自由気ままに生きたい。
そう思っていたのですが、幼馴染がどうにも逃がしてくれません。
そんな、ちょっと(?)愛情の重たい幼馴染との異世界生活のはじまり~はじまり~
「ケンジ。どこにも行かないよね?」
リリアがにっこりと微笑んだ。
その笑顔は、夕暮れの孤児院の中庭で見ても息を飲むほど美しかった。
透き通る金色の髪。澄んだ紫の瞳。絵本から飛び出してきたような顔立ち。
……だが俺の背筋は、全力でぞわぞわしていた。
「あ、ああ。どこにも行かないよ、リリア」
「うん。行かないよね」
「……行かないって言ってるじゃないか」
「うん。行かないよね」
会話が、ループしている。
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俺の名前はケンジ。
前世では都内のブラック企業に勤める平凡な二十六歳のサラリーマンだった。
深夜の残業中に突然の胸痛。気づいたら目の前が真っ白になって
——気がついたら、俺は赤ちゃんになっていた。
典型的な異世界転生である。
この世界の名前はアルテリア王国。
剣と魔法が存在するファンタジーな世界だ。
俺が預けられたのは王都外れにある「聖リュシー孤児院」
院長のロザリー修道女は太っていて、よく笑う、いい人だった。
そして
——転生してから半年後に孤児院にやってきたのが、リリア・クレアだった。
当時の俺たちは、まだ赤ちゃんだった。
だというのに、隣のベッドに寝かされた彼女は、俺をじっと見て
——にこっ、と笑った。
「……(なんだ、かわいいな)」
それが、全ての始まりだった。
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八年後
リリアは孤児院で一番の美少女に育ち、俺は普通の男の子に育った。
「ケンジ、今日のご飯何がいい?」
「えっと、じゃあシチューが——」
「シチューね。覚えた」
「……俺が決めていいの?」
「ケンジが食べたいものが、私が食べたいもの」
朝からリリアが俺の隣に座っていた。
食事のたびに、寝る前のたびに、外に出るたびに
「リリアって、ほかの子と遊ばないの?」
「ケンジ以外、いらないから」
「……は?」
「ケンジがいれば、他は全部どうでもいい」
ニコッ。
その笑顔が怖い。
いや、笑顔は本当に綺麗なんだ。
問題は中身である。
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俺が九歳のときだった。
孤児院の年長組の男の子・ガルムが、リリアに話しかけた。
ガルムは背が高くて、外に出るたびに女の子に注目される、いわゆる「イケてる少年」だった。
「なあリリア、今度一緒に市場に行かね?」
俺はその場にいた。だから見ていた。
リリアが、ガルムを見た瞬間の顔を
笑顔だった。
満開の花みたいな笑顔だった
「ごめんなさい、ガルム。あなた、これ以上私に話しかけると——消えることになるから」
「……え?」
「覚えておいてね? 」
翌朝、ガルムは孤児院を出て行った。
本人が「急に孤児院を出ることになった。」と言っていたが、顔が青ざめていた。
後から聞いたら、枕元に手紙が置いてあったらしい。
内容は教えてくれなかった。
俺は、確信した。
リリアはヤバい。
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十歳。
孤児院で魔力測定の儀式があった。
魔法士のおじさんが来て、一人ひとりの魔力を測っていく。
リリアの番
魔法士のおじさんが水晶球に手を当てさせる。
水晶球が、パキン、と割れた。
「…………」
「…………」
おじさんが絶句していた。
「お嬢さん、もしかして、勇者の血筋では……?」
「さあ? でもケンジが褒めてくれるなら何でもいいです」
おじさんが俺を見た。
「やばい、逃げろ」という目をしていた。
俺の番
水晶球が、ぼんやりと光った。
「……《鑑定》《加速》《強化》《隠蔽》スキル持ちですね……珍しい複合型です。伸びしろは……かなりあるかと」
「え、俺も結構すごいの?」
「正直、この孤児院どうなってるんですか」とおじさんがつぶやいていた。
リリアが俺の腕にぴとっとくっついた。
「ケンジ、すごいね」
「そ、そうかな」
「ケンジはすごい。ケンジは私だけのもの。」
「……ちょっと待ってくれ」
俺の中で、決心が固まった。
逃げよう。
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それから半年後。
俺は孤児院を出た。
十歳での自立は早すぎると院長のロザリーさんに止められたが、「冒険者ギルドに登録して生活できます」と説明したら、泣きながら見送ってくれた。
王都の外れに、安い宿を借りた。
冒険者ギルドで《Dランク》として登録して、スライムやゴブリンの討伐依頼をこなしながら、少しずつ生活を整えた。
《鑑定》があると素材の価値がわかる。
《加速》と《強化》があると戦闘が楽になる。
《隠蔽》があると気配を消せる。
「ふう」
宿の狭い部屋で、依頼の報酬を数えながら俺は深呼吸した
静かだ
誰もいない
「——ただいま、ケンジ」
窓から、女の子が入ってきた。
「っ!?」
「三日ぶりだね。髪、少し伸びた?」
金色の髪。紫の瞳。完璧な笑顔
リリアだった。
「な——なんで——窓から——!?」
「扉より早いから」
「そういう問題じゃない!!」
「ケンジが出て行った次の日、私も孤児院を出たよ」
「え」
「ロザリー院長が泣いてた。ケンジも泣かせたの?」
「そ、そりゃあ……急だったから——って、そうじゃなくて!!」
俺は頭を抱えた。
「リリア、俺はな、一人で生活したかったんだよ。わかるか? 自立だ。自由だ。独り立ちだ」
「うん」
「だからお前は孤児院に——」
「ケンジの隣にいる」
「聞いてた?」
「聞いてた。でもケンジの隣にいる」
にこっ
笑顔が眩しい。殺意が見えない。
俺はもう一度、深呼吸した。
「……とりあえず、お前の宿はどこだ。ちゃんと部屋は取ったか」
「ケンジの部屋」
「俺の部屋に泊まれると思ってたの?」
「うん」
「なんで」
「だってケンジの部屋だから」
論理が宇宙だった。
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結局、リリアは隣の部屋を借りた。
渋々俺が交渉して、宿の主人に頼んだ。
宿の主人は俺たちを見て「許婚ですか?」と言ったので、俺は全力で否定した。
リリアは否定しなかった。
「おやすみ、ケンジ」
壁越しに声がした。
「……おやすみ」
「明日も一緒にいようね」
「……依頼があるから、どうかわからない」
「一緒に行く」
「Dランクだぞ、危ないぞ」
「ケンジが守ってくれる」
「……」
「ね?」
溜め息が出た。
「……わかったよ。でも、俺の邪魔するな」
「しない。ケンジの後ろにいる」
「……絶対うそだ」
「うそじゃない」
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こうして俺の、逃げても追いかけてくるヤンデレ幼馴染との異世界生活が始まった。
こいつが怖いのか可愛いのか、俺にはまだよくわかっていない。
ただ一つだけ、確かなことがある。
明日の朝、俺が起きたら
——きっとリリアはもう部屋にいる。
なぜかはわからない。
でもそんな気がする。
……鍵をかけて寝よう
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第2話へ続く
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
異世界に転生したケンジと、そんな彼が大好きすぎる幼馴染のリリア。
ケンジは自由に暮らしたいだけなのに、リリアはどうしても一緒にいたいようで……。
果たしてケンジに平穏な日々は訪れるのでしょうか。
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次回も宜しくお願い致します。




